第24話 記者会見

 美桜は、出雲達が入団式をした場所である講堂にいるようだ。

 そこは多数の報道関係者や王室関係者で埋め尽くされており、魔法騎士の姿も見える。画面越しでも厳重に警戒態勢が敷かれているのが理解できる。


「美桜がマイクの前に立っているな。服装は魔法騎士の制服だ」


 王室で着ているドレスではなく、魔法騎士の制服を着ていることにその意思の強さを感じた。腰には王室の宝刀として有名な姫鶴を差しているのが見える。

 姫鶴は代々王族である女性に受け継がれてきた刀であり、すでに失われた技術で作られていると有名だ。その刀には秘められてた力があるとされている。


「あれが有名な宝刀・姫鶴か。初めて見た……」


 手に持つ鞘には、桜吹雪のような桃色の花が舞っているのが画面越しでも分かる。

 刀はどのような色をしているのか気になるが、それはいずれ見れるだろう。


「あ、夕凪美桜が話し始める」


 マイクを手にした美桜は、大きく深呼吸をしながら口を開いた。

 何を話すのか、どのような内容なのか、その場にいる人と国民が全員固唾を飲んでいる緊張感が画面越しでも伝わってくる。


「私は今まで皆様の前に出なかったのには理由があります。それは、王女として、この国を守る者として、魔法騎士として世界を破滅に導く悪を滅するためです。その悪とは白銀の翼という組織です」


 白銀の翼。

 今まで語られることのなかった組織について、国の王族である夕凪美桜が語る。その意味はとても大きく、世界中に激震が走ることだろう。しかし、それでも語らなければならないことがあるために、自身の紹介と共に話したと出雲は考えることにした。


「白銀の翼は現在、世界の各国において暗躍をしております。戦争をけしかけたり各都市を掌握して拠点にしているとも聞きます。また、この日本においても暗躍を始めており、先日魔法騎士との戦闘にもなりました」


 出雲が戦った白銀の翼は二人いる。それは黒色の仮面と水色の仮面だ。

 世界各国で暗躍をしているということなので、二人しかいないことはないだろう。十人、二十人、さらにそれ以上いる可能性もある。


「あの二人は強すぎた……それで俺は今ここに入院しているんだからな」


 不甲斐ないと思いながらもテレビを見続けることにする。

 そこには記者からの質問に答えている姿が映っており、これからどのように活動をしていくのか質問を受けているようだ。


「私は、魔法騎士団の副団長である進藤守さんのもとで魔法騎士として活動をしていきます」


 その言葉を発した瞬間、記者達による撮影が始まり、ニュース速報としてテロップが出されていた。

 やはり入団式の際に言っていた通り、守の下について魔法騎士として活動をしていくようだ。ということは、出雲と常に一緒ということである。


「一緒に戦えるんだ。でも、どんな風に接したらいいんだ? 昔は同い年の友達として接したけど、今はどうしたら……」


 新たな悩みの種ができてしまうが、その時に考えればいいかと思うことにした。

 そしてそれからは滞りなく当たり障りのない質問が多く、どこか退屈をしている美桜が映っていた。


「昔から刀術の練習はしていました。代々継承をしてきた技が多く、私が独自に開発をした技もあります。それに公には言えませんが、特殊な魔法属性を持っていますので、それと共に刀術を活かして国のために働いていきたいと考えています」


 言葉を言い終えた美桜は、その場で頭を下げると舞台袖に移動をしていく。途中、記者が何かを叫んでいる声が聞こえるが、その質問に美桜は答えずに消えていく。


「記者会見が終わったか。まさかこういう形で言うとは思わなかったけど、これで夕凪美桜を守れるようになるのだろうか? 俺はまだ弱いけど、あっちの方が強く感じる」


 テレビの電源を消してベットに寝転がりながら、これからどのようになって行くのか不安が募ってしまう。美桜にどのように接すればいいのか、考えが纏まらない。


「とりあえず寝るか。また考えれば答えが出るでしょ」


 そう思いながら目を閉じて布団を被る。

 そして、寝てから数時間が経過をすると、体を揺さぶられる感覚で目が開いた。


「うう……なに……」


 体を起こして右横を見ると、見たことがある人が椅子に座っていた。

 その人は先ほどテレビで見た気がするが、寝ぼけているために姿がハッキリと見えない。


「寝ぼけているの? 体調は大丈夫かしら?」


 そう言いながら横にいる人が出雲の頭を撫で始めた。

 とても懐かしい手つきであり、眠くなって目を閉じてしまうと、起きてと両頬を引っ張られてしまう。


「い、痛いよ!?」


 両頬の痛みで目が覚めた出雲は、横にいる人の顔を見て驚いてしまう。


「ゆ、夕凪美桜!? どうしてここに!?」


 何て呼べばいいか分からないのでフルネームで呼んでしまう。

 フルネームで呼ばれた美桜は、頬を小さく膨らませて再度出雲の両頬を引っ張った。


「なんでフルネームなの? どうして?」

「痛い痛い痛い! ご、ごめんなさい!」


 引っ張られながら謝ると、満足をしたのか両手を頬から離した。


「昔に呼んでいたように、美桜って呼んでよ。それとも呼びたくないの?」

「そんなことないけど、身分が違うし……」


 王族と一般人。この身分の差は覆せない壁である。

 しかし、そんなことは美桜にとって気にすることはない壁であるようで、ちゃんと名前で呼んでと何度も言っている。


「わ、分かったよ……久しぶり、美桜」

「それでいいのよ。久しぶりね出雲。ちゃんと約束を守ってくれてよかったわ」


 約束。それは別れる時に叫んだ大切な言葉である。

 その言葉を美桜は覚えていたようで、報われた嬉しさや、また出会えた嬉しさで感情がグチャグチャになってしまう。しかし、今はとりあえず再会を喜ぶことにした。


「また出会えて良かった。ちゃんと俺は魔法騎士になったよ」

「うん、知ってる。入団式に来るって知って驚いたもん。それに白銀の翼とも戦って撃退したそうじゃない」

「あれはギリギリだったよ。ここにいるのがその証拠」


 ベットを指差して空笑いをする。

 だが、美桜はそれでも撃退したのはちゃんとした成果よと褒めてくれた。


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

「いいのよ。あ、出雲って私と同じ刀で戦っているのね」


 部屋の隅に置かれている神楽耶を見た美桜が、立ち上がりながら言う。


「そうだよ。剣とかも考えたんだけど、やっぱり刀の方が扱いやすくてね」

「分かるわ。私も鶴姫を手に取った時、これだわって感じたし」


 腰に差している鶴姫を触った美桜は、神楽耶を持ち上げて出雲のベットに立て掛けた。


「大切な武器な離さないでおくものよ」


 そう言うと、そうだねと返すことにする。


「何が起きるか分からないからね。いつ白銀の翼がまた攻めてくるか分からないし」

「そうよ。ついにこの国でも暗躍を始めたのだから、いつ暴動や内乱が起きるか分からないわ」


 胸に手を置いている美桜は、国民に被害が及ぶことを危惧しているようだ。

 ちゃんと王族としての視点で見ているのだなと察すると、やっぱり身分の差は大きいと感じてしまう。


「美桜はもう昔に言っていた囚われている籠から出たんだね」


 囚われている。その言葉は昔に美桜が発した言葉である。

 いつの間にか脱していたようで嬉しいが、目の前にいるのに遠くに感じてしまうのが辛い。


「そうかしら? 私は出ていないと思うわ。未だにお父様には逆らえないし、魔法騎士として活動をするのはある種の罰なの」

「そうよ。昔に出雲に出会ったじゃない? その時に勝手に外に出たことや、私の特別な属性も相まって魔法騎士として王族の責務を果たせと言われたのよ」


 テレビでも言っていた特別な属性というやつだろう。

 どのような属性なのか、どのような効果があるのか気になるが、安易に聞いていいのか悩む。その出雲の表情に気が付いたのか、美桜が気になるのと話しかけてきた。


「あ、聞いちゃダメかと思ってさ。気になるけど……」

「出雲にはちゃんと教えるわよ」


 間近に迫り美桜が綺麗な鳶色の瞳で見つめてくる。その顔は小さく笑い、とても美しい表情をしていた。昔から変わらないその美しさと、空色で美しい絹のようにサラサラとしている髪が鼻を擽る。

 そして耳元に顔を移動をすると、光属性――と色気が漂う艶めかしい口調で言葉を発した。


「へ、変な言い方しないでよ! ドキッとするじゃん!」

「狙ったのよ」


 ふふふと可愛く笑う美桜。

 入団式の時やテレビで見たとは違い、昔に会った時と何も変わっていないようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る