第18話 制服
「これで君達二人は正式に魔法騎士となった。その力を存分に振るって平和のために働いてくれ」
舞台の上から守が言う。
平和のために戦うのは当然だ。試験の時に襲撃をして来た白銀の翼という集団が平和を脅かしていることを知って、出雲は戦う決意をした。だが、夕凪美桜とまもとに話せないのだけが辛い。
「分かりました! この力を平和のために!」
「私も出雲と同じように平和のために使います!」
麗奈は出雲の名を呼ぶと共に夕凪美桜に視線を向けていた。
そのことに出雲は気が付くが、どういう意味が込められた視線なのかは分からなかった。
「これから二人は俺の下で働いてもらう。その方がより効果的に実戦経験を得られるからな」
守の部下になるということだろうか。
突然のことに出雲は驚いてしまう。なぜなら、魔法騎士団のことを調べていた時に守の功績や活躍を知り、働くのなら守の下でと思っていたからだ。
「本当ですか!? 守さんの下で働けるんですか!?」
「お、おう。そうだ」
出雲の剣幕に気圧されてしまっていた。
興奮をして何かを早口で話していると、麗奈に頭部を軽く叩かれてしまう。
「とりあえず落ち着きなさい。困っているわよ?」
その麗奈の言葉でしまったという顔をすると、舞台の上にいる美桜が口に手を当ててクスクスと笑っていた。
「相変わらずですね。昔と変わらない出雲で嬉しいです」
「み、美桜!?」
話しかけられて呼び捨てにしてしまった。
守から止められていたのに破ってしまうと、今は許しますと美桜が言う。
「久しぶりに会えて、約束を守ってくれて嬉しいです。隣にいる天竜麗奈さんはどう思うか分かりませんが、私は出雲を待っていました」
「お、俺もだ! 俺は美桜との約束を守るために!」
「それ以上はいけません。この国の平和のためならば、私の命は安いのです」
命が安い。
それはどういうことなのだろうか。言っている意味が分からない。しかし、出雲にとっては世界やこの国よりも大切な命だ。守るために魔法騎士になったのだから。
「安くない! 美桜の命も大切だ!」
「ありがとうございます。私は近いうちに世間に紹介をされ、鳥籠から出されるでしょう。そして、守さんと共に国のために戦います」
「そうだ、美桜様によって君達二人は俺の下に入ったのだ。それだけ期待をされているということだ」
美桜のおかげでなのか。嬉しいのか嬉しくないのか。でも、一緒に戦えるかもしれないということは、側で守れるということだ。
良いことだと思おう。出雲は強くなって美桜が戦わなくていいようにしようと考えることにした。
「私はこれで失礼しますね。諸々の準備がありますので」
そう言って美桜はその場を後にした。追いかけてもっと話しをしたかったが、それは不敬であろうと思ってしまう。
このまま見送るしかないのがもどかしいと考えていると、守が一緒に来いと話しかけてきた。
「二人とも一緒に来い。早速任務に向かうぞ」
「任務ですか?」
「そうだ。襲撃してきた白銀の翼が動いていると情報を得て、それの対処に当たる」
白銀の翼のことはよく分からない。
とてつもなく強く、世界の国々を扇動していることを聞いただけだ。その白銀の翼が国内で動いているというだけで不安が襲い掛かる
「白銀の翼は野放しにしちゃいけない。早く倒さないと!」
歯に力を入れて襲撃された時のことを思い出してしまう。
とてつもない強さであり、子供のように扱われていたように感じる。相手にできたのか分からないが、さらに強くならなければならないことだけは理解ができた。
「武器は持っているな?」
「はい! 神楽耶があります!」
「私はこの天剣を持ってきました!」
麗奈は腰に差していた天剣という呼び名の剣を引き抜く。
その剣は握りが澄んだ青色をしており、剣身部分は白色と黒色の二色の配色である。とても綺麗で目を奪われる剣であることが一目で分かった。
「ほう……良い剣だ」
「ありがとうございます。父が使っていた剣で、受け継ぎました」
天剣に微笑んだ麗奈は鞘に入れると、頑張ろうねと笑顔を向けてくる。
「そうだね。これから大変だけど一緒に頑張ろう!」
「うん!」
その顔はいつもの麗奈であった。
見ると落ち着く笑顔である。少し心が落ち着いた気がすると、守が早く来い大声で呼んでくる。
「今行きます!」
「行きまーす!」
二人揃って講堂の入り口にいる守のもとに駆けだした。
これからどういう試練が待っているのか、どのような危険が襲い掛かってくるのか分からない。しかし出雲は夕凪美桜のために戦い続けることは間違いがない。それだけは確かなのだ。
「来たな。さて、これから行く場所は海沿いの町で有名な高潮町だ。そこで白銀の翼を見たという情報があったから、調査に向かう」
「高潮町って結構有名な観光地よね? 人通りが多い場所にその白銀なんとかって人が来るの?」
「木を隠すなら森の中って言うだろう? それと同じさ」
人が多い場所になら現れても発見されにくいということらしい。
早く行って対処をしなければならないと焦ってしまう。
「と、その前に。二人はスーツではなく魔法騎士の制服に着替えてもらわなければな」
どこからか守はビニール袋に入っている魔法騎士の制服を取り出し、出雲と麗奈の二人に手渡した。
「これは!? 魔法騎士の制服じゃないですか!」
「もらっていいんですか?」
二人して違う反応をしていると、魔法騎士団に入った証さと守が言う。
その言葉を聞いて嬉しさが込み上げてきた。証という言葉が、特に胸に刺さる。
「証か、そうだな。この制服は証だ」
何度か頷いていると、天竜君は着替えに行ったぞと守に言われてしまう。
「いつ間に!? 言ってくれればいいのに!」
何も言わずに着替えに行った麗奈に文句を言っていると、早く着替えなさいと怒られてしまった。
「す、すぐに着替えてきます!」
慌てて講堂から出ると、左に更衣室があると叫ぶ守の声が耳に入る。
「分かりました!」
走りながら返答をし、更衣室で着替えた。
制服を着るととても身が引き締まる思いを感じ、神楽耶が妙に映える気がする。
「俺がこの制服を着る日が来るなんて思わなかったな」
特に変わったところがない男性更衣室で物思いにふけっていると、扉が強く叩かれていることに気が付いた。
「うわっ!? なんだ!?」
叩かれている音に気が付くと、麗奈が遅いわよと叫んでいる声が耳に入る。
どれだけ大声で叫んでいるのだろうか。階層全体に響いているのではないかと思うほどの声である。
「い、今行くよ! 待ってて!」
「副団長が怒っているわよー! 早くしなさ―い!」
守さんが怒ってる!? ヤバイ! 早く行かないと!
着替えて十分程度であるのだが、やはり時間には厳しいみたいだ。
「早く行かなきゃ!」
慌てて男性更衣室から飛び出ると、目の前に眉間に皺を寄せている守の顔が見えた。どういった感情をしているのか分からないが、謝らないといけない。
「遅れてすみません! 制服を着れたのが嬉しくて……」
「出雲君は魔法騎士になるのが夢だったものな。でもその夢は叶った。次は夢を超えた先にある理想を叶えるために動くんだ」
守はそれだけ言うと、先にエレベーターに乗り込む。
麗奈は小走りで後に続いて乗り込むと、出雲に早く来なさいと手招きをしている。
「今行くよ」
夢の先に叶えるものは分からない。
だが、もう一度夕凪美桜に会って話せば何か分かるかもしれない。それだけは確かだ。だからいずれ副団長の部隊に来るとしても、隣に立てるようにならなければ。
様々な想いを募らせながらエレベーターに乗り込んだ。一階ロビーを出ると車が停められていたので、乗り込んで目的の場所に向かうことになった。
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