第19話 高潮町

「一時間ほどで高潮町に到着する。ここに来たことはあるか?」


 運転をしながら後部座席に座っている出雲と麗奈に聞いてくるが、二人は行ったことがありませんと返答をした。

 その言葉を聞いた守は、今時の子なのに行ったことがないのかと溜息を交えながら運転を続けている。


「結構面白い場所だぞ? 水をテーマにしたアトラクションや商業施設に、釣りをできる場所もあるしな。何度か行かないと損だぞ?」

「そんなに面白い場所なんですか!? 麗奈! 今度遊びに行こうよ!」


 横に座る麗奈の肩を叩きながら言うと、今度ねと頬を赤く染めて言った。

 なぜ頬を赤く染めているのか分からないが、今度一緒に行ってくれるらしい。一人で行かなくてよくなった。


「ありがとう。楽しみだなー」


 窓から外を見ながら喜んでいると、守が麗奈に向けて大変だなと言っているが、その言葉の意味が分からなかった。どういう意味なのか考えていると、着いたぞという言葉が耳に入る。


「ここが高潮町だ。人が多いだろう」


 守の言った通り、町の入り口だというのに人だかりがいたるところにできていた。初めて来る町に戸惑いを隠せないでいると、車がゆっくりと動き始める。


「とりあえず車を停めるから、待ってくれ」

「分かりましたー」


 麗奈が代わりに返事をしてくれた。

 前に前に出る癖がある麗奈であるために、こういった場面においてありがたいと感じる。


「ここの立体駐車場に停めてくるから、外で待っててくれ」


 指示をされて、立体駐車場の入り口で待つことになった。

 麗奈と共に待っていると、楽しそうな家族連れやカップルが何組か目の前を通り過ぎる。横目で制服を見られていると魔法騎士かと言われてしまう。


「それほど驚かれないね。もっと違う反応をされると思ったよ」

「そんなことをするのは出雲くらいよ。普通はあんなものよ? 人気は人気だけど、魔法を上手く扱える人は限られるし、そこまで辛い鍛錬をしてなる職業ではないとも思っているのかもしれないわね」


 麗奈の言う通りかもしれない。

 辛い鍛錬をしても一度不合格になったら水の泡だ。そこまでのリスクを負ってまでなる職業ではないのかもしれない。だけど、それでも目指した結果が今だ。


「そうだね。でも俺は魔法騎士になれてよかったと思ってるよ」

「それは私も同じ。一緒に頑張りましょうね」


 そんな会話をしながら守が来るのを待つ二人であった。


「お待たせ。行くか」


 守の指示によって二人は歩き出す。

 高潮町は平日だというのに、先程見た家族やカップルを代表に人で溢れていた。


「本当にいたんですか?」

「そのはずだ。本部からの情報だから正確だ」

「本部が間違えたとかはないですか?」


 麗奈は情報そのものが間違えているのではと疑っているみたいだ。しかし守はそんなことはないと一蹴する。


「いたるところに専用の監視カメラを設置し、常に魔法騎士団の職員が警戒態勢を敷いている。だから間違えはない」

「そこまでしていたんですね。だけどそれでも、これまでたくさんの事件がありましたね」

「そうだ。だからこうやって現地に赴いて確認をするんだ」


 何やら空気が重い。

 麗奈は、幼少の頃に魔法を用いた事件によって母親を亡くしている。間に合わなかった魔法騎士に対して、子供ながらに鬼気迫る表情でなぜ助けてくれなかったのかと叫んだらしい。そのことがあったことは源十郎に聞かされて知っていた。この瞬間思い出すなんて思わなかったが、いつか麗奈の口から聞けたらいいけど。


「警戒しながら行きます。もう私のような悲しさを味合わさせないために」


 やっぱり思い出していたようだ。麗奈が魔法騎士になった理由は、自分と同じ人を出さないためだろうか。


「俺も行くよー! 待ってー!」


 考えていたら二人が先に進んでいた。

 大急ぎで行くと、麗奈が小さく笑いつつ遅いわよと言ってくる。


「町と国を守るのよ」

「分かってる。そのために魔法騎士になったんだからな」


 麗奈に確認をされながら守の後ろを歩いていく。左側に海が見え、右側には様々なビルや商店が立ち並んでいる。

 例えば、水とアートのアトラクションがあるビルや、水を使ったゲーム施設。それに高潮町をイメージしたお土産を売っている商店が多数見受けられた。


「たくさん店があるし、ビルがすごい!」

「チラチラ見ない! 恥ずかしいでしょ!」


 麗奈に怒られてしまった。

 だけど見たいものは見たいのだ。怒られてもさらに見続けていると、守が止まれと声を上げた。


「ふぎゅ!」


 突然止まった守の背中に麗奈が鼻をぶつけたようだ。

 痛いと言いながら鼻を抑えているようで、鼻先が赤くなっている。何度か痛いと言っていた麗奈は、守に対して急に止まらないでくださいと文句を言っていた。


「悪い悪い。ちょっと気になる人影を見てな」

「鼻が痛いです……」


 少し涙目になっているようだ。

 そんな麗奈を見ながら守に誰かいたんですかと聞くと、白銀の翼がいた気がすると返ってきた。


「いたんですか!?」

「そうだ、確かに白銀の翼だった。一人で奥の方の海の方に歩いて行ったのを見た」

「早く行かないと!」


 走ろうとした出雲は腕を守に捕まれてしまう。

 どうして止めるのか分からずにいると、慎重に行くんだと耳うちをされた。


「いきなり行って戦闘になったらどうする? 周囲にいる一般の人に被害が及ぶぞ?」

「そうでした……そこまで考えていませんでした……」

「これから分かればいい。二人はこれから魔法騎士のことを学んで行くんだからな」


 これから理解をして学んで行こう。守に迷惑をかけてばかりではいられないから、早く学んでいきたいと考えていた。


「ついてこい。付かず離れずだぞ」


 出雲と麗奈の前を歩き始めた守は、見つけたという海の方に歩いて行く。道路を左側に広がる高潮町名物である海水浴場には海を楽しんでいる人達で溢れている。

 その中に白銀の翼の一人がいるのかと思うと、気が気じゃなかった。


「こんな場所で戦闘になったらダメだ。もっと人がいない場所じゃないと」

「そうだが、もし戦闘になったら言ってられないぞ。そのために刺激をしちゃいけないんだ」


 もし自身のせいで被害が出てしまったら、立ち直れる気がしない。そのためにも守の言っていた言葉を胸に秘めて行くしかない。


「こっちだ。岩陰に隠れたのを見た」


 そう言う守の後ろから波辺に出て岩陰に移動をすると、突然岩が粉砕してしまう。


「な、なんだ!?」

「バレていたのか!」


 三人で後方に避けると、岩を壊したのは白銀の翼の一人だと一目で分かった。水色の仮面を被っている筋骨隆々の男性が現れた。その男性は右手に水を纏っている剣を持っており、どういった魔法なのか見当がつかない。


「俺を付けていることには気が付いていた。その服から見るに魔法騎士か? 邪魔をしに来たのか?」


 一食触発という状況だろうか。

 いつ戦闘が起きてもおかしくない。出雲は神楽耶を引き抜いて戦闘態勢を取る。麗奈は天剣をすでに構えていたようで、守に対してどうしますかと話しかけているようだ。


「決まっている。こうなってしまった以上は倒して拘束をするしかない! 白銀の翼のことを聞かせてもらうぞ!」

「俺がそう簡単に倒せるものか。お前達のような雑魚に負けるとでも?」


 どれだけ自身があるのだろうか。魔法騎士団の副団長がいるのに、それ以上の力があるということだろうか。

 水色の仮面を観察していると、次第に剣に纏わせている水が黒くなっていることに気が付いた。それは以前に戦った黒い仮面も使っていた謎の魔法だと思い出す。


「黒水斬!」


 いきなり攻撃を仕掛けてきた。

 その攻撃は黒い水を斬撃にして放つ技なようで、海を切り裂きながら空に消えていく。


「今のは力の一端だ。これを防いだり避けれなければお前達に勝機はない」


 見えなかった。

 守も反応をしておらず、目を見開いて立ち尽くしていた。麗奈も同じなようで、天剣を持つ手が震えているのが見える。

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