第20話 高潮町の戦い

「こ、攻撃をしたの……? 全然見えなかったわ……」


 震える手のまま天剣を握っている麗奈は怖いと消え入るような声で呟いているが、守は違うようだ。


「そうか……そのような攻撃をするのか……」


 含み笑いをしながら剣を構えた守は、水色の仮面に対してまだ下だと言葉を発する。


「下だと? どういう意味だ?」

「言葉通りだ。お前は俺より弱いということだ」


 弱い。

 その言葉を聞いた黒い仮面は、周囲に対して水の斬撃を放ち始めた。その斬撃は海を切り裂き、岩壁を全て破壊をしてしまう。守達の姿に気が付いて覗き見ていた人達が、悲鳴を上げて逃げてしまったことで魔法騎士が戦っていることに気が付かれてしまった。


「魔法騎士が戦っているぞ! 早く逃げろ!」

「どうしてここで戦闘が!? 何も聞いていないわ!」


 一人の恐怖が全体に行き渡り、周囲は阿鼻驚嘆の渦となってしまう。

 波辺や近くにいた人達は出雲達から離れた非戦闘地域に移動をしたようだ。どれだけ被害が大きくなるのか分からないので逃げるのはいいのだが、指示を聞いて逃げてほしいと思ってしまう。


「支部の職員達が避難誘導をし、騒ぎを抑えてくれるはずだ。俺達は目の前の敵を捕縛することを考えろ!」


 出雲と麗奈よりも先に守が水色の仮面に対して攻撃を仕掛けた。

 鋭い切り上げによって黒い水を纏った剣を打ち上げると、その隙を狙って麗奈が腹部を狙って天剣を当てようとした。だが、その攻撃は突如現れた水の壁によって防がれてしまう。


「どうして!」

「攻撃が通ると思ったか? そんなことはない」


 歯を食いしばって天剣を押し込もうとするが、麗奈の攻撃は通らない。

 地面がひび割れるほどに足に力を込めていると、水の壁の一部が伸びて麗奈を吹き飛ばし、そのまま浜辺の目の前にある商業施設に衝突をしてしまった。


「麗奈!」


 出雲は商業施設に向かおうとするが、守がこっちが先だと叫ぶ。

 どうして行ってはいけないのかと思うが、このまま野放しにもできない現実も確かだ。出雲は悩んだ末に、神楽耶を握り締めて水色の仮面を攻撃し始めることにした。


「何でお前達がいるんだ! どうして世界を壊そうとする!」


 どうしてだと叫びながら何度か斬りかかるが、その全てを水の壁によって防がれてしまう。


「なんで攻撃が通らない! どうして!」

「弱いな。まだ横にいる男の方が強いぞ」


 麗奈と同じく水の壁による攻撃が迫るが、出雲は炎を剣に纏わせてその攻撃を防ぎきることができた。


「これを防ぐか。なら、お前は殺すに値をする人間だ」


 出雲を見る目を変えた水色の仮面は、黒い水を纏わせた剣で守を吹き飛ばしながら距離を詰めてきた。


「俺の黒水はただの水魔法じゃない。耐えきれるか?」

「前の黒色の仮面と同じか! その黒はなんだ!」


 黒色の魔法が分からないでいると、教えるものかと言われてしまう。

 それもそうだ、秘密を簡単に話すわけがない。迫る攻撃に対して炎を纏わせて防ぐが、黒い水が触手のように伸びて出雲の頬に衝撃を与えた。


「触手のように動いた!? 黒い何かで制御しているのか!」

「たったそれだけ分かった程度じゃ何もできないぞ! ほら、さらに増えるぞ!」


 言葉通りに触手が二本、三本と増えると意識を向ける点が増えて混乱をしてしまう。計五本となった触手と、剣を合わせて六個に集中しなければならず、どう戦えばいいのか理解ができない。


「お前には無理だな。邪魔をしなければまだ生きられたというのに」


 無慈悲な言葉を浴びせてくる。

 ここで殺されてお終いなのかと死が脳裏を駆け巡ると、終わりじゃないと上空から守の声が聞こえた。


「吹き飛ばされたくらいで俺は死なない! 部下を死なせるわけには!」


 剣に風を纏わせながら斬りかかっている守。

 その攻撃は試験で見た時よりも激しく、どこか怒りを感じるようであった。左右上下斜めなど様々な攻撃を繰り出しているようで、水色の仮面は腕や腹部から出血をし始めていた。


「どうした? 触手は一瞬で吹き飛んだぞ? お得意の水の壁とやらも効果が無いな」

「うるさい! 俺は最強なんだ! この力をもらった時から最強だと決まっているんだ!」


 自尊心が強いみたいだ。自身が最強だと疑わないようで、押されているのも嘘だと何度も叫びながら守からの攻撃を受けている。

 周囲の避難している人達を忘れかけていた時、突然頑張ってという声が耳に入ったので、背後を出雲は見た。


「頑張って! そんなやつ倒して!」

「私達を助けて!」


 どうやら波辺にいた人達のようで、守を応援しているようだ。

 出雲に対しての応援はないが、魔法騎士団の副団長だというのは周知の事実であるので、その人が戦っているという安心感からだろうか、緊張感が抜けていると見える。


「に、逃げてください! ここは危ないですよ!」


 出雲が逃げてというが、効果はない。

 男女一組のカップルに対して魔法騎士団の職員が駆け寄って逃げてと注意をし始めているが逃げる気配はなかった。


「危ないのに!」


 階段を上がって応援をしている人に近づくと、初めに水色の仮面が放った斬撃が迫ってくるのが見えた。


「危ない! 早く逃げて!」


 水色の仮面が使った水の壁を真似して、出雲は炎の壁を出現させた。

 高音の熱に触れた水が、水蒸気爆発のような爆音を響かせながら周囲に散っていく。なんとか防げたと思っていると、守を蹴り飛ばした水色の仮面が真似をするなと叫びつつ剣を構えて突進をしてくる。


「真似をしたな! 真似をしたな、俺の真似を!」


 宙に浮きながら何度も斬りかかってくる水色の仮面。

 出雲は冷や汗をかいていた。一撃一撃がとてつもなく重く、攻撃を受けるたびに冷や汗が飛び散る。


「どうした! 動きが鈍いぞ!」

「うるさい! 俺は、俺は!」


 地面に足をついてさらに多彩な攻撃を繰り出してくる水色の仮面。

 辛うじて防げているが、押されてしまい後方に動きながら防いでいる。よろけそうになりながらも、どうにかこうにか無傷でいられている。


「防いでばかりじゃ何も始まらないぞ! ほら、後ろには逃げ遅れた人がいるぞ!」

「嘘でしょ!?」


 鍔迫り合いをした瞬間に後方を振り向くと。逃げ遅れた人が見えた。

 それは大人ではなく子供であり、母親を探しているようだ。子供が泣いているのに自身が恐れているわけにはいかない。


「俺は魔法騎士だ……魔法騎士は平和のために戦うんだ!」


 恐れている心を落ち着かせて深く深呼吸をする。

 負けない負けられない、逃げてはいけない。逃げたら誰かが死んでしまうからだ。


「目から恐れが消えたな。心境の変化か?」

「魔法騎士は逃げない! 俺はお前を倒す!」

「倒すのか? 殺さなくていいのか?」

「白銀の翼のことを聞かせてもらうためだ!」

「倒すのは殺すよりも難しいぞ?」


 地面を力強く蹴った水色の仮面は、黒水斬を叫ぶ。

 それは海を割った攻撃であり、得意な技なのだろうとここ数分で理解をした。


「その攻撃はもう防げる!」


 炎の壁を出現させて防ぐと、そこから水色の仮面が現れた。


「何度もそう防いで終わりだと思わないことだ!」

「くそっ!」


 力が通用しない。

 何をしても先の攻撃をされてしまう。真後ろには泣いている子供。目の前には白銀の翼がいる。逃げたら子供が死に、このままいくと自身が死ぬ可能性があった。守は無事なのかと浜辺を見ると、腹部から血を流して倒れている姿が見えていた。


「守さんが倒れている!? どうして!」

「どうして、どうして、どうして、どうして、煩いなお前は! 少しは自分の頭で考えたらどうだ! 俺が! あいつより! 強かった! ただそれだけだろうが!」


 腹部を蹴られて神楽耶を上空に吹き飛ばされてしまい、そのまま剣を振り下ろされてしまう。出雲はどうにか子供だけはと思い、覆い被さるようにすると耳を劈く程の音が真後ろから聞こえた。


「子供を守ったのはいいけど、今諦めたでしょ? 生きるのを諦めたら誰が平和を維持するの!」


 その攻撃は麗奈であった。

 麗奈は右手をバチバチを光らせているようで、手を前方に突き出して掌から電気の塊を放っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る