第21話 追い詰める
「私を忘れていたでしょ?」
「麗奈……忘れてなんかないさ。心配していたんだぞ?」
「そう? ならいいけど」
そう言って近づいて来た麗奈は、天剣を体が痺れて動けない水色の仮面の首筋に当てた。
「よくも吹き飛ばしてくれたわね……痛かったわよ!」
額から血を流している麗奈は左手で血を拭っていた。
その姿を見た水色の仮面は殺せと呟いているようだ。未だに体が痺れているようで、立つこともままならないことが一目で分かる。
「油断をしたつもりはないんだがな。まさか生きているとは」
「そう簡単に殺さないでくれるかしら? 私は母親を殺した白銀の翼を探しているのよ」
やっぱり麗奈は母親を殺した白銀の翼を探しているようだ。
復讐に心を囚われているように見えるが、もし落ちてしまったら救い出さなければならないと強張らせている顔をしている麗奈を見ながら考える。
「すぐに殺さないとは、非情さが足りないな」
「え?」
痺れが取れていた水色の仮面は黒い水を剣に再度纏わせて剣を弾いた。
突然の出来事に驚いてしまうが、麗奈を助けるために地面に落ちている神楽耶を拾い上げて二人の間に滑り込む。
「殺させない! 俺が助ける!」
迫っていた剣を防ぐと左手で麗奈を後方に押す。
そしてそのまま子供を助けてと言うと、後で来るからと言いながら避難誘導をしている魔法騎士団の職員のもとに子供と共に駆けて行った。
「行ったか、守さんが動けない今、俺が相手だ!」
「一回負けた癖にか?」
「一回負けたくらいがなんだ。俺は何度でも立ち上がる!」
全身に身体強化を巡らせて、神楽耶に炎を纏わせた。そして、そのまま目の前にいる水色の仮面に対して駆け出す。
負けたのは確かだが、今は先ほどまでとは違う。気合も覚悟も違う。もう倒すではなく殺すつもりで行くことにしている。
「どうするつもりだ? お前じゃ勝てないぞ?」
「そんなことはない! 勝つんだ!」
天明流の構えをしながら駆け出していると、黒水斬を放ってきた。
またそれかと思うが、水色の仮面の始めの技なのだろうと考えることにする。その攻撃を炎の壁で防ぐと、再度突っ込んでくる気がするので神楽耶を水平に構えて受け流すことにした。
「これでどうだ!」
出雲は手が痺れながらも受け流すことに成功をし、そのまま水色の仮面にまで近づくことに成功をした。
「お前達は平和を脅かす悪だ! 正義の名のもとに殺す!」
「悪か。さて、本当の悪はどっちだろうな」
黒色の仮面と同じことを言う。
そう思わされているのか、実際にそうなのか分からない。ただ、今は目の前にいる水色の仮面を殺すことだけが最優先であった。
「白銀の翼は世界にいちゃダメだ! 人々を恐怖に陥れる!」
突きを三度してから左斜めに切り下ろすと、その全てを躱されてしまう。
全力で攻撃をしているのに躱されてしまい、どうすれば斬れるのか考えるが、答えは出ない。
「それで全力か?」
「そんなわけない! 俺の本気はこれだ!」
煽られながらも、出雲は天明流・双炎撃を放つために神楽耶を構える。
これが通用しなければ勝てる見込みはないが、それでもやるしかない。一撃、二撃と攻撃をしていき、その全てを防がれ躱されるが、最後の炎を纏わせた蹴りで黒水を纏う剣を弾く。
そのまま追撃をするために天明流・炎刀連撃を放とうと決めた。
連続で炎を纏わせた攻撃を放つと、三撃目までいつの間にか腕に纏わせた黒水によって防がれるが、残りの二撃で体を斬ることに成功をした。
「がっふ……まさかこんな力を秘めていたとはな……」
「どうだ! これが俺の力だ!」
どうにか天明流・炎刀連撃によって初めてダメージを与えることができた。
これから水色の仮面がどのような攻撃に出るか分からないが、それでも通用する攻撃があるのが分かったのは大きい。
「だが、膝をつかせた程度で何を喜んでいる? 俺はまだ生きているぞ?」
「そんな……確かに斬って血を出していたはず……」
斬った感触はあったし、血も出ていたはずなのに、傷が塞がって血も出ていない。
どういった魔法なのか分からずい悩んでいると、水色の仮面が自身の仮面を掴み始めていた。
「こちらも本気でいかせてもらう。このままじゃ埒が明かないからな」
仮面を取ろうとしている姿を見ていると、どこからかその時じゃないという聞いたことがある声がする。
「お前は時を読めないのか?」
その声と共に空から黒色の仮面をしている試験の時に襲撃をして来た女性が現れた。そして、黒色の仮面は仮面を取ろうとしている手を掴み、その行動を止めた。
「すみません。埒が明かない状況を終わらせようとしまして」
「だとしてもそれはまだだ。お前は消されたいのか?」
消されたいのか。
その言葉を聞いた水色の仮面は、体を振るわせて何かに恐怖をしているようだ。
「二人が話している今がチャンスだ!」
隙を見つけたを思い、襲撃時に女性に放った遠距離技を放つことにする。
「あの時は技名がなかったけど、今はある!」
切っ先に炎を集め、前方にいる仮面の二人に向ける。
以前よりも集中をし、より圧縮をしていく。弾ける寸前まで圧縮し続け、勢いよく放つ。
「受けろ! 熱波炎撃砲!」
技名を付けて放った熱波炎撃砲は、勢いよく仮面の二人に迫っていく。出雲の攻撃に気が付いた時には既に遅く、二人で防御の魔法を使って防ぐようだ。
「小賢しい真似を! おい! どうするんだ!」
「あの時より洗練されているわね。これは防ぐしかないわ」
黒い炎と黒い水の壁を出現させ、二人の魔法を合わせて熱波炎撃砲に対抗をしようとする。だが、そう簡単には防げていないようで、悲痛な声を上げているのだけが聞こえる。
「まだだ! まだ、出せる!」
ここで一気に決着を付けようと考え、あるだけの魔力を熱波炎撃砲に込める。すると、さらに音を大きく上げて威力が増したのが目に見えて分かるようになった。
「早く消え去れ! お前達はいてはいけないんだ!」
地面を割るほどに全身に力を入れていると、ガクッと瞬時に力が抜けるのを感じる。どうしてなのかと考えると、魔力が切れた結果なのだろうと理解をした。
「もう少しなのに……もう少しだったのに……」
神楽耶を地面に刺して体を支えると、黒色の仮面が魔力切れかと呟く声が聞こえる。
「危なかったが、魔力切れで助かるとは。しかしこんな強力な技を隠し持っているなんて聞いていないぞ」
「あれは共有をしていなかったわね。私の魔法と相打ちをした魔法だから、恥ずかしくて言わなかったのよ」
「恥ずかしいって、だとしても共有してくれないとさ。死ぬところだったぞ」
共有をしているということは、集まる場所があるということ。
小さなことだが貴重な情報を得た。これを守や魔法騎士団に伝えなければならない。
「逃がすわけには……」
全身を襲う虚脱感に耐えながら立ち上がると、子供を届けた麗奈が駆け足で来る姿が目に入った。
「ちょっと! 巨大な音が聞こえたから来たけど、何があったのよ!」
音を聞いて来たのか。説明は後でするとして、今は来てくれたことが嬉しい。
麗奈の姿を見て安心をするが、二人で目の前の仮面に勝てるかと言えばそんなことはない。むしろ惨殺されて死んでしまうだろう。
「麗奈は守さんを助けてあげて。腹部を斬られて危険だと思う!」
「でも、出雲はどうするのよ! 仮面がもう一人増えているし、状況が分からないわ!」
分からないと言っているが、今は構う時間がない。
一刻も早く守を助けなければならないので、麗奈に早く行けと叫んで行ってもらうしかない。
「早く行け! 守さんが死なせるわけにはいかない! 今は麗奈しか助けられないんだ!」
「ぐぅ……分かったわよ!」
後で話してもらうからと言いながら、麗奈は浜辺に移動をしていく。
途中、そんなことはさせるかと水色の仮面が攻撃をしようとするが、出雲が移動をしてその攻撃を防いだ。
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