第22話 高潮町の決着

「まだ動けたのか。だが、辛いだろう? 凄い虚脱感に襲われてもう動けないんじゃないか?」


 確かにその通りだ。

 動いたり目を動かすのさえ辛い。だけど、だけど……弱音を言ってられない状況なんだ!


「今は俺しか戦えない! なら戦うしかないだろう!」


 枯渇している魔力を振り絞り身体強化をすると、今までよりも少ない魔力で全身に巡らすことができた。

 どうしてだか分からないが、少ない魔力でも充分な強化ができたことに驚いてはいられない。少ない魔力で戦うには好都合だ。


「俺はまだ戦える! まだいける!」


 その声を革切りに、黒色の仮面と水色の仮面との戦いが始まった。

 双剣と剣、三本の武器による鋭い攻撃が迫りくると、神楽耶を握り締めて攻撃を防ぐ。


「防がないと死ぬぞ」

「威勢だけじゃ生きていけないわよ」


 頬を斬られ、腕を斬られながらもギリギリの状態で攻撃を防げている。

 こちらからも攻撃をしたいと思うが、現状は防ぐだけで精一杯だ。一撃一撃が鋭すぎる攻撃だ。水色の仮面は先ほどまでの強さではなく、さらに次元が違うように見える。


「防ぐだけしかできない! だけど、あの二人の攻撃を防げてる!」

「だとしても、いずれお前の体力が切れて死ぬぞ?」

「こちらにはまだ余裕があるわよ? 防ぐのも限界じゃないかしら?」

 

 確かにその通りだ。

 防戦一方だけじゃ意味がない。浜辺で守の介抱をしている麗奈を横目で見ながら、どうすればいいのか考えることにする。攻撃か、このまま防戦一方なのか。どのように考えても、攻撃をした瞬間に斬り殺される未来が見えてしまう。


「考えるまでもない……答えは出ているじゃないか……攻めるしかないって!」


 神楽耶に炎を纏わせて鋭い目つきで二人の仮面を睨みつける。そんな行動は無意味で睨みつけても攻撃は迫ってくるが、そんなことは関係ない。

 一秒が十秒や一分にさえ感じる。それほどまでに神経を尖らせて集中をしているため、迫る剣が遅く感じ始めていた。


「見える……攻撃が見える……」


 どういった理由からかは分からないが、二人の仮面の攻撃がハッキリと目で追えるようになっていた。しかし、速度は遅い。いや、遅くも速くもないといった感じだろう。その速度で迫る攻撃に対して神楽耶を当てて防いでいる。


「こいつ!? いきなり速く!?」

「一体何が起きたというの!?」


 二人の仮面が同時に驚いているが、そんなことは気にしない。

 少しでも意識を動かすとこの集中した状態が解かれる可能性があるからだ。


「い、出雲? あれが出雲の動きだというの……?」


 守を介抱しながら出雲の戦いを見ていた麗奈は信じられない光景を見ていた。

 急に素早く、目で追うのも難しい速度で剣を振るっている出雲を見て、先ほどまでと同じ人物とは思えないと呟いている。


「何があったのよ……」


 出雲の変化に驚きを隠せない麗奈は、隣にいる守に何があったのかと聞こうとしていた。


「そんなことを言われても俺にも分からん……極限の戦いで何か扉を開いたのだろうさ……」


 吐血をしながら分かる範囲で伝えた守は、その場に倒れてしまう。

 どうすればいいのか分からない麗奈、魔法騎士騎士団の職員に助けてもらおうとその場を後にした。


「出雲が二人を抑えてくれている間に行かないと! 死なないでよね、出雲」


 横目で戦う出雲を見ながら麗奈は、魔法騎士団の職員を探し回ることにした。


「負けないでね……死んじゃダメよ!」


 叫ぶ声は届いていないが、それでも気持ちは届いているはずだと考えている。そんな麗奈のことを知らずに、出雲は戦い続けている。


「動きが見える……動きに対応ができる……戦える!」


 少し前までは防戦一方でしかなかったが、今は違う。

 攻撃を防ぎながら神楽耶を振るうことができている。一瞬一瞬が命を懸けた攻撃となり、冷や汗が流れ、次第に息も荒くなってしまう。


「見える! そこだ!」


 神楽耶で水色の仮面の剣を上部に弾き、そのまま斜めに振るう。綺麗な斜めの一閃により、その体を切り裂くことに成功をした。


「ぐう! この俺を斬るとは……」


 数歩後退をした水色の仮面は、自身の体から流れる鮮血を手に取って舐め始めていた。その様子は異様であり、流れ出ている鮮血を零さずに自身の体に戻しているかのようだ。


「何年ぶりだろうか……体から血が流れるのは……」


 何度か手の平に付着をしている鮮血を舐めていると、隣にいる黒色の仮面にやめろと止められていた。


「お前、その変な癖を直せ。不快だぞ」

「すみません。久々に出たもので、つい」


 どうやら癖なようだ。

 変な癖だなと考えていると、ここまでだと黒色の仮面が話しかけてきた。


「これ以上、傷を負う必要はない。君の成長は我々の脅威となるかもしれないな。近いうちに殺すから、そのつもりでいるといい」


 殺す。

 まさかその言葉を聞くことがあるとは思わなかった。しかし、そんなことを言われてももう怯えない。相手をして、返り討ちにするだけだ。


「返り討ちにする。俺は魔法騎士だ! 悪を討って正義を成す!」

「正義か。再三言っているが、お前達に正義はない。魔法騎士は悪だ」


 異様な雰囲気を漂わせながら、仮面の二人は霧が掻き消えるように目の前から姿を消した。だが、それでも出雲は神楽耶を構えている。姿を消したとしても再度現れる可能性があるからだ。


「もういないか――」


 数秒間構えて静止をしていたが、気配を感じないので神楽耶を鞘にしまった。


「ふう……」


 鞘にしまった神楽耶を触りつつ空を見上げると、今までの専横が嘘かのように綺麗な澄んだ青い空が目に入る。

 急に始まって急に終わった戦いだった。長いようで短かったが、得たものは大きい戦闘であった。


「さっきはたまたま対応できたけど、毎回できるとは限らないからできるようにしないと」


 なぜか動きがスローになり、対応ができたことを思い返していると突然全身に痛みが走ってしまう。その痛みは筋肉痛に似ているような気がする。


「ぐう!? な、なんだ……!?」


 突然全身に走る痛みに驚くが、さっきの戦いの影響なのかと察した。動きが遅く感じて対応ができたということは、それ相応の速度で神楽耶を振るっていたので、体が悲鳴を上げるのも無理がない。 

 地面に片膝を付いて苦しんでいると、誰かが大丈夫かと話しかけてくる。誰が話しかけてきたのかと声のした方向を振り向くと、そこには手当てをしてもらった守が顔を歪ませながら立っていた。


「ま、守さん! 無事だったんですね!」


 立とうとするが立てない。

 下から覗くような形で守に話しかけることができた。


「そのままでいいよ。よく頑張ったな、最後の方の戦いを見ていたが何か壁を突破して別次元の動きをしていたぞ」

「ありがとうございます。でも今こんな状態ですよ……」


 不甲斐ないですと言うと、それでいいじゃないかと言ってくれた。


「今はそれでいいさ。別次元を経験したのだから、それに体が付いてくるようにすればいい。魔法騎士になっても訓練の毎日だ」

「そうですよね! 頑張ります!」


 どこか心が楽になった気がした。

 褒めてくれるのは嬉しい。だけど、まだまだ未熟なことは確かだ。麗奈にも怪我をさせたし、高潮町に遊びに来ていた人に恐怖を与えてしまった。


「もっと強くなります――! 平和を守れるような魔法騎士になるために!」

「そうしてくれ。強い騎士が多い方が国のためになる」


 守がそう言いながら差し出してくれた手を握り、立ち上がる。体全体の痛みは取れていないが、それでも立てたのはよかった。

 膝に付着している汚れを叩いて落としていると、背中に衝撃が走る。敵かと思い背後を見ると、そこには涙を流して背中に張り付いている麗奈の姿があった。


「れ、麗奈!? どうしたの!?」


 どうして泣いているのか分からず右往左往していると、麗奈が無事でよかったと声を絞り出して発している。


「心配をかけてごめんな。皆を助けたくてさ」

「だとしても無理をし過ぎよ。魔力だってほとんど残ってないでしょう?」


 麗奈の言う通りいつ倒れてもおかしくない状態ではあるが、なぜだか倒れる気配はなかった。というか魔力が少し戻っている気さえしてくる。


「不思議と体の痛みだけしかないんだよね。なんでだろう?」

「私に言われても分からないわよ……」


 背中に張り付き続けている麗奈が小首を傾げながら言うと、守が俺にも分からないと言っていた。

 守さんにも分からないか……ただの集中力が研ぎ澄まされた感じであったのは確かであったけど、他にも理由がありそうだ。


「とりあえず、後始末は他の職員に任せて俺達は帰ろう。本部まで送ってくれるらしいからな」

「本当!? やったわ!」


 背中から飛び降りた麗奈が喜んでいる。

 その様子を見ていた出雲は、ほっこりした気持ちになっていた。

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