第16話 そして、これから

「どうした? 何かあったのか?」


 どうやら出雲から話さないと魔法騎士団のことには触れないらしい。源十郎はどこか優しい目をしながら、再度何かあったのかと話しかけてきた。


「あ、あの……俺……」


 どう言えばいいか分からない。

 合格通知がないから本当に合格をしたのか分からないが、副団長である守に合格と言われたことを伝えなければならない。


「試験落ちたのか? 落ちたのなら別の道を進めばいいだけだ、気にすることはない。お前は頑張ったのだから」


 落ちたと思ったのか源十郎が慰めてくれているようだ。

 落ちていないことを伝えたいのだが言うタイミングが掴めないでいると、奥から麗奈が合格をしたみたいよと言いながら歩いて来た。


「なんと!? 合格をしたのか! ならなぜ早く言わない!」

「源十郎さんが言わせなかったんだじゃん! 副団長の進藤守さんに合格だと言われました」

「進藤守だと? そうか、あいつは副団長になっていたのか」


 口ぶりからすると源十郎は、副団長である進藤守と関りがあるようだ。

 だが、そんなことを聞ける訳もなく、出雲はすみませんと謝ることにした。


「言うタイミングがなくてすみません。合格通知や諸々の書類は後日送られるみたいです」

「そうか。合格をしてよかった」


 笑顔でよくやったと喜んでくれている。

 自分以外に喜んでくれる人がいることはいいことだと思いつつ、麗奈に先に言わないでくれよと口を尖らせながら言う。


「いいじゃない。あれじゃ当分言えなかったでしょ?」

「そうだけどね。ま、ありがとう」

「初めからそう言えばいいのよ」


 下から笑顔で覗き込むように見てくる。

 可愛いなと思いつつ、制服から覗く下着を見てしまう。昨日から意識をしているのか、まともに顔を見ることができない。自然と視線が麗奈の艶のある唇に引き寄せられてしまう。


「どうしたの?」

「い、いや、何でもないよ」


 唇に視線が釘付けだなんて言えるわけがない。

 そんなこと言ったら絶対にからかわれるのが目に見えている。なので、下着が見えたことは言うはずがなかった。


「ならいいけど。今日は訓練をしていくの?」

「いや、まだ病み上がりだからこれで帰るよ。神楽耶も持って来ていないからね」


 二人で話していると、母屋の方から麗奈を呼ぶ声が聞こえてくる。


「麗奈。こっちに来てくれ」


 麗奈を呼んだのは現当主であり父親でもある龍雅であった。

 一枚の紙を手に持っているようで、そのことを聞きたいようだ。しかし、麗奈はその言葉にすぐには応じなかった。


「せっかく出雲と話していたのに……」


 話を遮られたのが嫌だったようだ。

 深い溜息をつきながら渋々母屋の方に歩いて行く麗奈。その後ろ姿を見ながら頑張れと応援をするしか出来なかった。


「さて、これで帰るか。源十郎さん、これで失礼します」

「おう、気を付けて帰りな」


 手を振ってくれた源十郎に振り返しながら道場を後にした。

 家に到着をすると、ポストに魔法騎士団本部と書かれている大きめの封筒が届いていた。もしやと思いその場で封筒を開けると、中には魔法騎士団の合格通知書と各種提出書類が入っていた。


「やっぱり夢じゃなかった……俺はちゃんと合格してたんだ……」


 合格通知書を見ながら目から涙が溢れてしまう。

 やっぱり合格をしていたことや、憧れの魔法騎士として働いていけることが嬉しかった。


「入団をしたら守さんに挨拶をしないとな」


 既に入団をした後のことを考えてしまうが、提出書類を書かないと合格が取り消しになってしまうため、急いで書くことにした。

 部屋に戻ると、提出書類を見ていく。親の名前や自身の名前、それに現住所を書く場所がある。


「結構書く場所があるな。婆ちゃんにも書いてもらわないと」


 提出日が来週中なので、遅れないように書いていく。

 うっかりして合格取り消しになるなどは嫌なので、準備をしていく。


「よし、後は婆ちゃんに書いてもらうだけだ」


 書き始めてから二時間が経過をすると、出雲が書ける場所は無くなっていた。


「もう書ける場所はないな。あ、帰って来たかな?」


 一階から物音がしたので祖母が帰って来たのだろう。

 書類を持って移動をすると、買い物袋を持っている姿が見えた。


「婆ちゃん! ちゃんと合格してた! 合格通知書とか色々届いていた!」

「本当かい? それはよかったね。早く書類を書いて送ろうね」

「うん!」


 両手で書類を持っていると祖母が落ち着いてと言ってくる。

 それほどまでに舞い上がっているのかと窓を見ると、笑顔で書類を宙に上げている自身の姿がそこにはあった。


「結構俺舞い上がってるね」

「夢に向けて歩き出したんだもんね。そうなるわよ」

「そうだね。合格できて嬉しいよ」


 他愛無い話をしながら、祖母に書いてほしい場所を伝えていく。

 名前などを書いてもらうと、提出する書類が全て揃った。意外とすんなり終わったので、抜けがあるのではないかと心配になってしまう。


「そんなに心配になることないわよ。ちゃんと書けているわ。合格をしたんだから自信を持ちなさい」

「うん。ありがとう」


 背中を押してくれた祖母にありがとうと言うと、明日から忙しくなるなと呟く。


「学校の先生とかに報告をしないといけないし、絶対クラスメイトにバレるから大変になりそう」

「良いことじゃない、出雲がみんなを守るのよ」

「うん! 絶対守るよ!」


 祖母に笑顔で答える。

 これから大変な毎日を送ることにあるかもしれないが、夕凪美桜に会って守るという約束を果たすためなら平気だと思っている。絶対に会うために、活躍をしていくぞと声を出す。


 そして、翌日から怒涛の毎日であった。

 教師に報告をすると嘘をつくなと言われ、合格通知書を出すと腰を抜かしてしまったり、クラスメイトには羨望の眼差しで見られてしまったりと大変であった。


「魔法騎士団に合格したのか!? 凄すぎだろ!」


 よく話すクラスメイトの男子が驚きながら話しかけてくる。

 今日はこればかりだと思いながら話に付き合うことにした。


「たまたまだよ。運が良かっただけだよ」

「そんなことないだろ! どんな試験だったんだ?」


 試験のことを聞かれたが、言えるわけがない。もし言ってしまたら合格が取り消されてしまう恐れがあるからだ。


「そんなことは言えないよ。言ったら合格が取り消されちゃうからな」

「そりゃそうか。厳しいからな」


 納得をしてくれたようだ。

 これ以上食い下がられても答えようがなかったから、引いてくれてよかった。


「先生達に聞かれたり、校長に喜ばれたり大変だったよ。四月から入団だから、それまでに訓練をしていかないと」

「大変だな。俺は気ままに高校生活を送らせてもらうよ」


 人生の分かれ道。

 クラスメイト達は高等学校に進学をするが、自身は就職をする。魔法騎士団という誰もが憧れる職業に就職をして、国のため、国民のため、そして夕凪美桜のために働くこととなる。


「俺は夢のために頑張るから、お前も高校生活頑張ってくれよ」

「そうするよ。魔法騎士団での活躍を応援してるぞ!」


 応援をしてくれるみたいだ。嫉妬とかで何か言われるかと思ったのだが、そんなことはなかった。素直に応援をしてくれるのは嬉しいものだ。

 それから天明流道場に行き、源十郎や時宗に挨拶をした。


「ちゃんと合格をしていたみたいだな。それでこそ弟子だ」

「俺弟子だったんですか? 初めて聞いたような」

「俺が認めた唯一の弟子だぞ」

「あ、ありがとうございます」


 源十郎に気圧されていると、時宗が神妙な面持ちをし始める。

 どうしたのだろうか。何か変なことを言ってしまったのだろうかと考えていると、合格おめでとうと言ってくれた。


「あ、ありがとうございます。まさか時宗さんに祝ってもらえるとは思わなかったです」

「俺だって祝う時は祝うさ。同じ天明流の門下生だしな」

「ありがとうございます」


 頭を下げると、想像を超える辛いことが降りかかると思うがと時宗が言う。


「お前の予想の上をいく辛いことが降りかかるだろうが、それに負けるなよ。お前は中学生で魔法騎士団に入団をするほどの力がある男だ。ちょとやそっとの辛さは吹き飛ばせ」

「ありがとうございます! 吹き飛ばします!」

「その意気だ。そのまま突き進め」


 時宗と話していると源十郎が困難は乗り越えられると言う。

 確かにこれまで多くの困難があったが、それを乗り越えてきた。躓くことはあっても諦めない。心の底に夕凪美桜に会って約束を守るという柱があったからだ。それさえ折れなければ挫けず倒れず、諦めない。


「はい。突き進みます!」


 二人に挨拶を終えて家に戻ることにした。

 麗奈には会えなかったが、源十郎が当分忙しいみたいだと教えてくれたので会えるときに会おうと決めた。


「ではこれで失礼します。準備とか色々しますので、あまり道場に来れないかもしれません」

「それでいいさ。たまに来て訓練をすればいい。感覚を忘れるなよ」

「はい!」


 源十郎と時宗に手を振って道場を後にした。

 嬉しさと怖さと恐怖が入り混じる一言では言い表せられない、よく分からない感情を抑え込みながら道を歩く。


「何があっても突き進む。それしか俺にはないんだ」


 何度か頷きながら、約束を果たすために道を歩いて行く。

 そして、準備を進めて時は春まで過ぎることとなる――。

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