第28話 爆発後の状況

「守さんは!? 麗奈は!? 皆どこにいったの!?」


 小走りで砂浜から移動をするが、一向に姿が見えない。

 既に戦っているのか分からないが、戦闘音すら聞こえないのはおかしい。どこかにいるのか、それとも吹き飛ばされているのか、悪い方向に思考が働いてしまう。


「麗奈ちゃん! 麗奈ちゃんどこ!」


 美桜は走り回って麗奈を探しているようだが、姿は見えない。

 守も他の魔法騎士もどこにいるのか分からない。この状況でどう動けばいいのか。


「どこに行っちゃったの……」


 地面にへたり込んでしまう美桜。悲痛な面持ちのまま一筋の涙を流しているようだ。


「美桜……」

「魔法騎士がこんなに大変なのは知らなかったわ……辛くて命を削って国民の平和を守っているのは知っていたけど、だけど……こんなに危険だなんて……」


 軽く罰だと言って魔法騎士になったけど、予想以上に辛かったと言うことか。美桜は鳥籠に囚われていたといっても、それでも王女として扱われていたのは確かだと思う。だけど、だけど……美桜には早すぎたんだ。

 へたり込んで両手で顔を覆っている美桜に対して、どう声をかけていいのか分からない。だが、ここで立ち止まっても何も始まらない。


「美桜はここで待っていてくれ。俺が探してくる――」

「待って! 私も一緒に!」


 駆け出している出雲に手を伸ばした美桜だが、その手と声は届かない。次第に遠くなる背中を見て子供時代とは逆ねとポツリと言葉を漏らし、その場に美桜は座り続けていた。


「どこだ! どこにいる!?」


 島民が住んでいる市街地に移動をするが、そこは酷い有様であった。多数の家が半壊しており、未だに火で燃えている家も見える。

 数多の瓦礫や木材が道路に散乱しており、物が地面に落ちている箇所もあるので、慌てて逃げたのだろう。


「シェルターに避難をしているって楓さんが言っていたけど、避難をしていない人もいたのか」


 地面に落ちている物を避けながら島の中心部へと移動をしていく。

 すると、小さいながらも金属音が耳に入ってきた。もしや誰かが戦っているのかもしれないと思い、勢いよく駆け出すことにする。


「金属音だ! 誰かが戦ってるんだ!」


 駆け出して近づくにつれて金属音が大きくなる。

 誰が戦っているのか、全員生き残っているのか分からない。しかし、すぐそこに誰かがいることは確かである。


「俺も加勢します!」


 そう言いながら神楽耶を手にして戦闘地域に入ると、そこは地獄と言い表すに値をする光景が広がっていた。

 島の中心部は資料によれば商店街や小さいながらも活気のある五階建てのデパートがあるはずだが、目に入った光景は違った。


「崩れた商店街に、二階から上が消し飛んでるデパートが見える……それに、白銀の翼の構成員と思われる黒いローブを全身に纏っている人達が逃げ遅れている人を助けている魔法騎士達を襲ってる!」


 血を流しながら、魔法騎士達が複数の白銀の翼の構成員と戦ってる光景が目の前に広がっていた。


「俺も加勢をしないと!」


 神楽耶を握る手に力を入れて、避難民を助けている魔法騎士の加勢に入る。


「支援に来ました!」


 刀身に炎を纏わせて連続で魔法騎士の前にいる黒いローブに斬りかかる。

 一撃目は避けられてしまうが、地面に当たった瞬間に右側に向けたことで斬り倒すことに成功をした。


「き、君は副団長の部隊にいる新人か」

「はい! 黒羽出雲です!」


 助けた魔法騎士は、短剣を持って頬から血を流している保志宗介であった。

 綺麗なその緑髪は半分程度血に染まっており、背後には逃げ遅れている髪の長い女の子が怯えている。


「その様子だと無事だったようだな」

「あ、はい! 黒色の巨大な火球の爆風に飛ばされた王女を助けていました」


 部隊外の人なので美桜とは呼ばずに王女と呼んだ。これがいいのかは分からないが、きっとこれであっているはずだ。

 宗助は出雲の言葉を聞くと、背後にいる子供に話しかけ始めた。


「もう無事だ。他にも敵はいるが、俺達に攻撃を仕掛けている敵はもういない。早く親のいるシェルターに行くんだ!」

「で、でも怖いよ! 一人じゃいけない!」


 爆音が聞こえ、黒煙が舞っているこの場所では子供一人で動くには難しい。

 宗介はどうしたものかと頭を抱えているようで、周囲を警戒している出雲に話しかけてくる。


「俺はこの子をシェルターに送り届けるから、この場はお前に任す」

「ここをですか!?」

「そうだ。大半の魔法騎士はあの黒色の巨大な火球によって重傷だが、それでも戦っている。仮称だかドールを倒して戦況を覆してくれ」


 ドールと言われてもその名前の意味が分からない。

 今にもこの場から移動をしそうな宗介に対して、時間がないがドールについて聞くことにした。


「ドールってなんですか?」

「ドールはさっきお前が倒した黒いローブだ。色付きの仮面ではなく、部下にあたる構成員だ。だが、強い。この俺でも苦戦をしたくらいだ」

「分かりました!」

「油断はするな。経験を積んでいる魔法騎士でも押される強さを持っているからな」


 出雲に忠告をすると、宗介は子供を抱えてシェルターに走って行く。

 ここからは一人の魔法騎士として白銀の翼から島を守らなければならない。守も麗奈もいない。美桜は浜辺にいるので、一人で考えて行動をしなければならない。


「やろう――俺は魔法騎士なんだ!」


 神楽耶を握る拳に力を入れて、目に入るドールに向けて駆け出す。

 崩壊している中心部では、多数のドールが武器を手にして襲い掛かっているようだ。魔法を放つことはなく、魔力を武器に纏わせているようで、近接攻撃を主に使っている。


「ドールと戦っている魔法騎士を助けて戦況を変えないと。この中心部以外でも戦っているだろうし、とりあえず目に入る人から助けるか」


 出雲は一人でも多くの魔法騎士を助けて戦況を変えることにした。

 とりあえず助けて情報を聞かないと、じゃないとどうなっているのか分からないままだ。


「崩壊したデパートの側に魔法騎士が三人固まってる! その前にはドールが五体いるな。デパートに誰かいるのか?」


 考えても答えが出ないので、とりあえず向かうことにする。

 そこにいる魔法騎士に情報を聞けばいいと考えることにした。そして、近づくにつれてドールの攻撃が開始されてしまう。間に合わなかった出雲であるが、魔法騎士の男性が戦っている一体に背後から斬りかかる。


「遅くなりました! 保志さんから手助けをしてくれと言われました!」

「保志さんからか!? それは助かる!」

「今どういう状況なんですか!?」


 出雲の問いを聞いた魔法騎士の男性は爆発で大半の魔法騎士が重傷になってしまい、シェルターに一時避難をしていると教えてくれた。

 また、黒色の巨大な火球を支えていた楓が危険な状態であるとも教えてくれる。


「あの楓さんが!?」

「そうだ。あの黒色の巨大な火球を二個支えて、さらには至近距離で爆風を受けたんだ。そりゃ重傷になるさ……今副団長を中心に重傷の魔法騎士の治療に当たっているよ」


 いなかった守さんは治療に当たっていたのか。何か伝言を残してくれればよかったのに、それすらできないほどに重傷者が多かったのか?

 守の行動が少しおかしいと感じるが、緊急時なので仕方がないと思うことにした瞬間、斬り伏せたと思っていたドールが手に持っている剣で斬りかかってきた。


「嘘だろ!? 倒したはずじゃ!?」


 確実に背後から斬り伏せたはずなのだが、止まらずに動き出した。

 どういう理由なのか、同じ人間ではないのかと疑問が多数浮かび上がる。


「気を付けろ! 確実に殺す攻撃をしないと何度でも動き出すぞ!」

「本当ですか!?」

「そうだ! 現にそれで何名かの魔法騎士が殺されている!」


 殺されている。

 この場にいる魔法騎士は精鋭ばかりのはずなのに、既に殺されている人がいるようだ。そんな現実を受け入れられない。どうしてこのようなことをするのか、なぜ戦火を広げて侵略をしてくるのか、白銀の翼がやろうとしていることが理解できない。


「どうして白銀の翼はこんなことを……綺麗で観光地のこの島を攻めて来て、魔法騎士を殺して、何がしたいんだ!」


 鍔ぜり合う剣を弾いて目の前にいるドールの胴を両断すると、地面に力なく落ちて何度か小刻みに動いた後に活動を停止した。

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