第27話 二つの魔法

「それで、これからのことだけど――」


 楓がこれからのことを話そうとした瞬間、空が一瞬にして暗くなった。

 曇りなんて予報はなかったはずだったのだが、一体どういうことかと不安になる。


「急に暗く? そんな予報あったか?」


 周囲を見ている守がおかしなこともあると呟いていると、上空を見ていた楓が目を見開いて固まっていた。

 一体何を見たのか、何が上空にあるのか出雲はその視線の先を見ると、上空に黒色をしている黒い巨大な火球が出現していた。


「黒い巨大な火球!? あれってもしかして黒色の仮面の魔法か!?」


 黒色の部分は闇の魔法で、火球は黒色の仮面が以前に使っていたものに似ている。

 やっぱり黒色の仮面か、ここに来ているんだ! 白銀の翼が本格的に攻めて来ているということは、この沖海島を占領させるわけにはいかない!


「守さん! 黒色の仮面です! あいつが魔法で襲撃を!」


 空を指差しながら守に言うと、黒色の仮面と小さく呟いている声が聞こえる。


「どうしたんですか!? 襲撃ですよ! 早く対処をしないと!」

「あ、ああ……そうだな……」


 どうしたんだ? 黒色の仮面と昔に何かあったのか?

 守と黒色の仮面の関係が気になるが、今は上空にある黒色の巨大な火球をどうにかしないといけない。


「私が止めるから、魔法騎士全員で爆散させるのよ!」

「止めるってどうやって!?」


 麗奈が楓の言葉を聞いて驚いていると、美桜が止められるかもしれないわねと呟く。


「楓さんは硬化の魔法を使うの。それで全身を強化して向かってくるあの魔法を上空で止めるんでしょうね」

「そ、そんなことをしたら楓さんが危険よ!」

「心配をしてくれてありがとう。でもね、私は魔法騎士なの。島民の大多数は作戦のためにシェルターに避難をしてもらっているけど、あんな魔法が島に落ちたらこの島は終わり。だから守らないといけないのよ」


 そう言いながら魔力を全員に巡らせて薄い白色の膜を纏う楓。

 これが硬化なのだろうか。魔法を発動した楓は守に対してトラウマを克服しないと死ぬわよと言うと、上空の黒色の巨大な火球に向かっていく。


「と、飛んだ!? 空を飛べるの!?」


 まさか空中で止めるとは思わなかったので、麗奈が驚いていた。

 出雲は魔法騎士を調べた際に隊長クラスは全員飛べることを知っていたので、特に驚くことはなかった。


「隊長クラスの魔法騎士は全員飛べるんだよ。緻密な魔力操作が必要らしくて、飛べないと隊長になれないとまで言われているみたいだよ」

「そうなの!? 飛べるようになれるかしら……」


 なぜだが飛ぼうとしている麗奈であるが、美桜がガサツな人には無理よと煽っている。


「うるさいわね! 私は繊細なのよ!」

「繊細な人が怒るものですか。ガサツちゃん」


 人差し指で麗奈の額を突いている。

 そんなことをしたら怒るぞと思いながら二人を見ていると、島のあらゆる場所から上空に魔法が放たれるのが見え始めていた。


「凄い! 魔法が沢山飛んでる!」

「島にいる魔法騎士達が飛ばしているのね! 私達以外は飛ばしているように見えるわ!」


 出雲は魔法が飛んで行く先を見ると、黒色の巨大な火球を支えている人影が目に入る。やはりというか言っていた通り、楓が両手で落ちてくるのを止めているようだ。


「楓さんが支えてる!」


 出雲は支えている楓を指差していると、美桜が凄い女性だわと驚いている。

 魔法騎士以外の仕事も難なくこなしている楓であるが、まさか体一つで黒色の巨大な火球を止めに行くとは思わなかった。美桜と同じく出雲も驚いているが、麗奈は驚くよりも無事を祈っているようである。


「放たれた魔法が火球に当たったわ! 押し返しているように見えるけど、どうなの!?」


 拮抗をしているのか押されているのか分かっていない麗奈は、横にいる守に話しかけている。だが、守は呆然と楓を見つめているようで、返答は特にはないようだ。

 守さんの様子がおかしすぎる。試験の時に黒色の仮面と何かあったようだけど、何かされたのか?

 様子がおかしい守を見ると、何やら考えているように見える。しかし今は上空にある黒色の巨大な火球の方が最優先であるために、聞き出すのはやめた。


「押してるよ! 楓さん達が押してる!」


 地上に近づくことなく押し戻されていると、ゴンという何かが衝突をした音が出雲の耳に届いた。

 一体どこからそのような音がしたのか周囲を見るが、特に変わったところはない。


「周囲には何も変わったところがない――ということは、まさか!?」


 そのまさかであった。

 楓が支え、他の魔法騎士が魔法を放っているにもかかわらず、徐々に押され始めているのが一目で分かる。なぜなら一つ目の黒色の巨大な火球に乗るように、もう一つ黒色の巨大な火球が出現したからだ。


「楓さん達が押されてる! 俺達も何かしないと!」


 慌てている出雲に対して麗奈と美桜は冷静であった。

 どう動いても自分達では戦況を変えられないということを理解しているように見える。しかしそれでも何かをしないと変わらないと出雲は考えていた。


「何かしなければ何も変わらない! 俺達だけ立っているだけじゃダメだよ!」

「でも、あれほどの距離に届く魔法なんて放てないよ!」


 麗奈が放てないと言った瞬間、楓が支えている二つの黒色の巨大な火球が大爆発をした。その音は遠くにいる出雲達にも届いており、鼓膜が破れると思うほどである。

 また、爆風が数秒遅れて襲ってもきたので、地面に這いつくばらなければ吹き飛ばされてしまう威力であった。さながら全てを吹き飛ばす超巨大勢力の台風のようだ。


「みんな無事か!? 吹き飛ばされていないか!」


 声を上げて出雲達を守が心配をしている。

 強力な台風よりも威力が高い強風が襲ってくるので、立ち上がろうにも立ち上がれない。地面に張り付いて強風が消えるのを待っていると、美桜が飛ばされそうになっていることに気が付いた。


「もう……無理……」


 そう言葉を発しながら美桜が飛ばされてしまう姿が目に映る。

 その姿に出雲は固まることなく、吹き飛ばされている美桜を助けるために立ち上がって強風に身を任せた。


「美桜! 今助ける!」


 飛ばされながらも態勢を整えていく。

 スカイダイビングをしたことはないが、動画などで見たことがあったので真似をすると、次第に自由に動けるようになっていた。


「美桜! 大丈夫か!」

「な、なんとか大丈夫! だけどこのまま落ちたら海に!」


 美桜の言う通り、二人は強風によって島から離れてしまい下は海になっている。

 どうやらかなり吹き飛ばされているようで、このまま落下をしたら海面に叩きつけられてしまう。


「大丈夫だ! 俺が助ける!」


 そう言いながら美桜の体を抱きしめた。

 とても華奢で、今にも折れてしまいそうに細い腰。強めた力を弱めて抱きしめるとどこか艶めかしい声が美桜の口から漏れていた。しかし、今はそれに反応をしていられない。海に叩きつけられるのを防がなければならないからだ。


「一気に島に戻るよ! 衝撃に備えて!」

「分かったけど、どうするの!?」

「見てて!」


 神楽耶を引き抜いて切先を海面に向ける。

 その一連の動作を見て、何をするのよと怯えているようだ。


「海面に魔法を放って、その勢いで島に戻るんだ!」


 出雲はそう言いながら切先に魔力を凝縮し始める。

 ギリギリ限界まで溜め、海面に衝突をする寸前で熱波炎撃砲を放った。


「これでどうだ!」


 耳を劈く程の轟音を鳴り響かせながら斜めに熱波炎撃砲を放ち続ける。

 その威力も相まって島に少しずつ近づくことができている。美桜は魔法をこのように使うとは思わなかったようで、目を見開いて驚いているようだ。


「まさか出雲がこんな風に魔法を使うなんて思わなかったわ」

「そう? 結構色々な使い方があると思うよ。魔法騎士の人の中でも魔力の残りを考えてする人がいるって雑誌で見たことがあるよ」


 雑誌で見たことを伝えていくと、光属性ではできないわねと諦めているようだ。

 光属性の魔法は見たことがないので、どのような技があるのか分からない。しかし、それでも拡張性はあるだろうと美桜に伝える。


「使っていけば光属性でも幅が広がるよ! 一瞬の閃きだよ」

「そうかしら? もし分かったら教えてね」

「うん!」


 そのような話をしながら沖海島に戻ることができた。熱波炎撃砲を放つのを止めると、島は悲惨な状況になってしまっている。島に生えていた森は焼けてしまい、火災が発生をしている。

 また、島の北側が爆発により削がれてしまいそこが海に侵食されているようだ。


「そ、そんな……たった二発の魔法でこんな風に……」


 たった二発の黒色の巨大な火球によって多大な被害が発生してしまっている。

 防いでいた楓や、削がれた場所にいた魔法騎士達の安否が気になり、周囲を見渡すが守達の姿も楓の部下達の姿が見当たらない。

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