第3章
第26話 沖海島
快晴の空から熱い日差しを浴びながら、出雲は砂浜を歩いている。今いる場所は日本の最南端にある沖海島という島だ。外周を二時間で一周できる大きさの島であるが、島民も住んでいる国で有数の観光地である。
なぜこの場所にいるかというと、白銀の翼がこの地を占領しようとしていると情報が入ったからである。
「まさか突然話しかけられて、沖海島に行くと言われた時は驚いたけど、来てみたら静かな南国って感じだ」
沈む砂を楽しみながら砂浜を歩いていると、遠くで麗奈と美桜が何やら騒いでいる姿が見えた。何をしているのかと思い近づいてみると、かき氷を食べるのか否かで揉めているようである。
「絶対にブルーハワイがいいわよ!」
「いいえ! こっちのレモンの方が美味しいわ!」
麗奈はブルーハワイを、美桜がレモンの味の方が美味しいと言い合っている。
二人はとにかく、初めて挨拶をした時からなぜか仲が悪いように見える。犬猿の仲なのか、単に気に食わないのか分からない。
「言い合っていないでどっちでもいいじゃん」
つい口を出してしまった。
どっちでもいいという出雲の言葉を聞いた二人は、鬼の形相で振り向いてくる。何もそこまで怒らなくてもいいのではないかと思うが、二人にとっては重要なことだったのであろう。
「どっちでもよくないわ! 出雲は何もわかってない!」
「そうよ! これは死活問題! 王宮会議にかけるわよ!」
王宮会議ってなに!? かき氷のシロップはそんなに重要なのか!?
頭を抱えながら二人を見ると、なおも言い合っている姿がそこにあった。どう止めればいいのか悩んでいると、背後から誰かが近づいてくる音が聞こえてくる。
「二人ともいつまでそんなことをしているんだ? 今は任務中だぞ」
近づいて来たのは守るであるようで麗奈と美桜の二人は怒られてしまうと、ハモりながらすみませんでしたと謝っている。
王女の威厳とはと考えていると、後で勝負よと麗奈に小声で話しかけていた。
「意外と仲が良いんじゃないか?」
腕を組みながら守を含めた三人を見ていると、持ち場に行くぞという声が耳に入る。
「王女様も前線に来てもらって申し訳ないが、白銀の翼が来たら戦ってもらいますよ」
どう呼んでいいか分からないのだろうか。
守が王女様と言うと、名前呼人タメ口でいいわと美桜が言葉を発した。
「そうか? なら遠慮なく呼ばせてもらう」
「それでいいわよ。一応は魔法騎士で副団長である進藤守さんの部下になるのだから」
淡々と守と話している美桜。
先ほどまでとは打って変わり、とても真面目な対応をしている。その態度の温度差に風邪を引きそうになるが、王女としての美桜はあのような感じだとテレビ中継での姿を思い出していた。
「テレビでの姿も、さっきの姿も、病室で話した美桜も全てが美桜なんだな」
「何が私なの?」
独り言を聞かれてしまったようだ。
「いや、さっきのも今のも全てが夕凪さんなんだなと思って」
「夕凪さん? ちゃんと名前で呼んでよ」
むっとした顔で睨まれてしまう。
守に言ったように名前で呼んでほしいみたいだ。体がむず痒いけど、名前で呼ぶチャンスだ。出雲は意を決して美桜と名前で呼ぶことにする。
「み、み、美桜……恥ずかしいな……」
照れながら美桜と名前を呼ぶと、やっと呼んでくれたと喜んでいる。
出雲の目の前で飛び跳ねながら喜んでいる美桜は、病室で話した他の人がいる時はという話はどこかにいってしまったようだ。
「そこまで喜ばなくても……」
「やっと呼んでもらえたのよ? それは喜ぶわよ!」
喜んでいると思ったら怒られてしまう。
女心はよく分からないと頭を抱えていると、守がそろそろ行くぞと声をかけてきた。
「いつもは人気な観光地だが、今は避難をしてもらっている。俺達はここで攻めてくるであろう白銀の翼を迎え撃つんだ」
そうだ。魔法騎士団本部にて守は会議に出た会議内容は、衝撃的であった。
日本最南端にある沖海島を白銀の翼が狙っているという内容である。どこから流れてきた情報かは分からないが、信頼できる情報筋からということで多くの部隊が出撃をしたのである。
「東西南北に一部隊ずつ配置をし、そこから等間隔に部隊を配置している。全部で十二部隊だな」
一部隊には出雲達を同じく四人が所属をしている。
ということは、全体で四十八人の魔法騎士がこの場にいるということになる。それがどれだけ凄いことなのか、麗奈と美桜には理解ができていないように見える。
「それって凄いの? 魔法騎士ってそんなにいたの?」
「私はちょろっと聞いた程度だけど、百人前後だったような、違ったかしら?」
二人とも適当なことを言っているようだ。
すぐに訂正をしたいが、どう言えばいいのかすぐに答えが出ない。
「魔法騎士は全体で二百人だよ。狭き門だし毎年入団をする人がいるわけじゃない。その中で四十八人もこの場にいるのは大規模な作戦だ。テレビで見たことがある魔法騎士もいるんじゃないか?」
そう言って守が海岸の奥にいる魔法騎士の一人を指差した。
そこにはピンク色の長髪をしている女性が武器を片手に持って立っている姿が見える。
「もしかして、あの人って柊楓さんじゃ!? 魔法騎士でありながらモデルとしても活動をしている人よ! 私ファンなの!」
麗奈が目を輝かせているようだ。
出雲はよく魔法騎士の雑誌は情報を集めていたのでこの場にいる有名な人は知っている。一目見ただけで、誰がどのような活躍をしたのか瞬間的に思い出せるほどだ。
「柊さんの前にいる緑髪の男性は、都市部防衛戦で活躍をした保志宗介さんだね。それにその横にいる茶色の髪をしている女性は柊さんと共に魔法騎士北方支部の襲撃を解決した人だね」
スラスラと二人に説明をしていると、守が良く知っているなと関心をしていた。
「昔から調べていましたから、家には魔法騎士についての調べた資料が沢山ありますよ。今度お見せしましょうか?」
「いや、遠慮をしておく。見たら怖そうだ」
見せないでいいと手で拒否をされてしまう。
絶対喜ぶと思っていた出雲は落ち込んでしまうが、一人の魔法騎士が近づいてきたことで楽しい時間は終わりを告げた。
「副団長さんも来ていたのね。周りにいるのは部下かしら?」
話しかけてきたのは柊楓であった。
先ほどまで持っていた武器は閉まっており、その美しく綺麗な顔で出雲達を品定めするように見ている。
「ひ、柊さん! 私ファンなんどす!」
麗奈は緊張のあまり噛んでしまったようだ。
話しかけられた楓はクククと喉を鳴らすように笑うと、右手を差し出した。
「ファンでいてくれてありがとう。だけど、同じ魔法騎士なのだからファンとして見れないわよ? それでも平気?」
「だ、大丈夫です! プライベートの時だけファンでいます!」
「それでいいわよ。辛く当たってしまう時があるかもしれないけど、その時は許してね」
笑顔で麗奈の頭を撫でている楓は、側に立っている守に「ねえ」と話しかけている。
「なんだ?」
「部隊にいる三人って入ったばかりの新人よね? それなのにこの大規模な作戦に投入するの?」
新人には荷が重いと言っている楓に対して、守は三人が「鍵」になるとだけ返答をしている。鍵とは何だろうか。会話を聞いていても意味が分からない。
「鍵ねぇ……戦力としてもままならないのに、勝利の鍵になるとは思えないけど」
勝利の鍵だったようだ。
確かに今の俺じゃ戦力には遠いかも知れない。だけど、それでも俺は魔法騎士として戦いたい。
「確かに今のままじゃ戦力には遠いかも知れませんが、すぐに戦力になります! 俺は魔法騎士です!」
楓の目を真っ直ぐに見て思ったことを言うと、麗奈がスッと前に出て来た。
「出雲はあの白銀の翼を二人追い返したんですよ? それだけでも充分戦力です」
「そうなの? それは期待をしていいのかもね。魔法騎士の中でまともに白銀の翼と戦った人は限られているから、貴重な戦力になりそうね」
一転して出雲のことを戦力だと決める楓だが、それほどまでに白銀の翼とまともに戦った経験は大きいのだろうと考えることにした。
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