第25話 短い会話
「あ、さっき言ってた光属性ってどういうことなの?」
聞きそびれたことを再度聞いてみること、美桜は闇を滅する唯一の魔法よと教えてくれた。
「闇ってなに?」
「闇はね、白銀の翼の組織に入っている人が使う闇属性の魔法のことよ。あらゆる魔法を強化するし、あらゆる魔法より上位に位置している強力な魔法なの」
「それほどまでに強力な魔法なんだ……俺は勝てるのかな……」
これからどのように戦うのか分からないし、火属性の魔法で闇属性の魔法に対抗ができるのか定かではない。
だけど、唯一対抗ができる光属性の魔法を持つ美桜がいるのなら、協力をして対抗できるのかもしれない。
「まだ詳細は言えないけど、光属性を使える人がもう一人いるかもしれないわ。可能性の話だけどね」
「もう一人いるかもしれないの!? それなら勝てる可能性が大きくなるね!」
もう一人いるのなら、協力をすれば白銀の翼に勝てるかもしれない。
それなら自身が壁になってまで勝利を引き寄せればいいと考えている。その出雲の考えを察してか、美桜は自身を犠牲にしちゃダメよと注意をされた。
「分かってる――美桜を守るんだから、先には死なないよ」
「うん。それでいいの」
急にしおらしくなってしまった美桜。
どう話をしていけばいいのか分からなくなってしまうが、とりあえず美桜の手を握ろうと右手を伸ばす。
「だ、大丈夫だから! 俺がいるから!」
そう言いながら膝に手を置いている美桜の左手を握ると、その手は女性らしく細く柔らかく、強く握ったら壊れてしまうような気がする。
それなのに美桜は強い女性だ……出雲にはない心の強さや強靭な精神力を持っている。逆に守ってほしいくらいである。
そんなことを考えていると、帰るわねと話しかけてきた。
もう帰ってしまうのかと寂しく感じていると、これから毎日会えるわよと鼻先を突かれながら言われてしまう。
「あ、守さんの下で魔法騎士になるからか!」
「そうよ。そんな寂しそうな顔をすることはないわ」
クスクスと小さく笑う美桜の姿を見て、可愛いと口に出してしまった。そして出雲の言葉を聞くと、そんなこと初めて言われたわと返答をしてくる。
「誰かに可愛いなんて初めて言われたわ。ありがとう」
「初めてなの? 恐れ多くて言えないのかな?」
腕を組んで考えていると、美桜が出雲に言われるのが一番嬉しいわと言ってくれた。その言葉の意味が分からないが、何か返答をしないといけないと思ってしまう。
「心から思っている言葉だよ。昔から美桜は可愛い!」
「恥ずかしいからもう言わなくていいわよ……」
両手で顔を覆って照れているようだ。
その姿はとても綺麗で可愛い。動作の全てが可愛い人など見たことがないが、目の前にいる美桜は全てが綺麗で可愛い。
「そろそろ時間も迫っているし帰るわね。明日には退院ができるらしいから、本部に来てと守さんが言っていたわ」
「分かった。ありがとう」
「いいのよ、明日からよろしくね。二人でいる時しかこんな風に話せないけど……」
そう言いながら俯いてしまう。
確かに他の人がいる場所で、美桜が崩した口調で話していたらどのように思われるか分からない。周囲に二人の関係を疑われてしまったらダメだ。
「二人でいる時に昔のように話そうね。それ以外は王女と魔法騎士だよ」
「そうなるわよね……いつか普通に話せるときが来るといいわね」
そう言い、手を振りながら部屋から出て行った。
一人残された部屋には美桜の香りと思われる良い匂いが残っており、その香りに癒されながら眠ることにした。
「麗奈が来て、テレビで会見をしていた夕凪美桜が来た。怒涛の一日だったけど、久々に話せてよかったな……」
麗奈と美桜にと話した内容を思い返していると、美桜のことをどのように呼んだらいいのか聞くのを忘れていることに気が付いた。
「夕凪美桜って呼ぶのもダメだと思うし、呼び方を聞けばよかったな。明日会えたら聞いてみよう」
明日に行うことを決めて眠りにつく。
体が癒えることを願って、美桜とずっと一緒にいられることを願って、麗奈が側に居続けてくれること願いながら眠る。
そして翌朝――よく眠れたと感じている出雲はベットに立てかけてある神楽耶を触ると、仄かに熱を持っている気がした。
「金属だから冷たいはずなのに、熱を持っている気がする。どういうことだろう?」
不思議だと思いながらベットから降りて立ち上がると、部屋の扉が静かに開いた。
「あ、起きたのね」
扉の前に立っているのは祖母である花子であった。
何やら紙袋を持っているようで、出雲を見ながら驚いているようだ。
「あ、婆ちゃん……心配かけてごめんな……」
「いいのよ。魔法騎士としての職務を全うしただけでしょ? 制服を持って来たから着替えて行きなさいな」
そう言いながら紙袋を手渡してくれる。
その中には丁寧に畳んである制服が入っており、取り出すと皺ひとつない。
「夢を叶えたんだから、次は夢を掴み続けることよ。守れる力があるのだから、その力を活かすことよ」
「うん、ちゃんと活かす!」
祖母にガッツポーズをすると、早く着替えなさいと怒られてしまった。とにかく速く着替えなければならないと思い、素早く制服に着替える。
皺ひとつないので着るのを躊躇ってしまうが、着なければ始まらないので素早く着替えた。
「似合っているじゃない。格好いいわよ」
「そう? よかった」
制服を伸ばしてくれているのでありがとうと言うと、頑張りなさいよと激励をしてくる。急にどうしたのだろうかと思うが、入院をしていたので気を付けてという意味なのだろうと考えることにする。
そして制服のまま談笑をしていると、部屋の扉が数回叩かれる音が聞こえてきた。
「はーい! どうぞー!」
どうぞと声を発すると、そこには守が神妙な面持ちをしながら立っていた。
「守さん!」
「元気そうでよかった。もう怪我は大丈夫か?」
「はい! もう元気です!」
飛び跳ねたりして自身の体が全快をしたことを伝えると、それはよかったと改めて言ってくれた。だが、何やら守の顔が強張っているのに気が付くが、どう触れていいのか分からない。
「そちらにいるのはご家族の方かな?」
守の言葉を聞いた祖母は、いつも孫がお世話になっていますと頭を下げた。
その姿を見た守は、こちらこそいつもお孫さんにはお世話になっていますと返している。
「入団してから大活躍ばかりですよ。この前も一人で戦って、敵を追い返していましたから」
「それは凄い。頑張っているわね出雲」
「それほどでも……俺はまだまだだから、もっと強くなるよ!」
力強く返事をすると、守は期待をしているよと笑顔で言う。
そして、続けて一緒に来てくれとすぐさま笑顔を消して言った。先ほどからどうしたのか気になっているが、祖母がいる手前聞くことができない。
「時間もないので、これで失礼します。出雲君行こう」
「あ、はい! 婆ちゃん行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
後に続いて部屋を出ようとした時、守が祖母に対して料金は魔法騎士団がお支払いしますのでと話しかけた。
「そうなんですか? ありがとうございます」
頭を下げた祖母を見つつ、二人は病室を後にする。
廊下を歩く守の横に行くとかなり険しい顔をしていることに気が付くが、先ほどから何に対して焦っているのか気になる。
「険しい顔をして何かあったんですか?」
意を決して聞いてみると、敵襲だと一言だけ守は発した。
一瞬言っている意味が分からなかったが、美桜の言った言葉によって白銀の翼が動いたのだと察した。
「白銀の翼ですか!?」
「そうだ。王女様が白銀の翼のことを公にした結果、攻める速度を速めたようだ」
攻める速度――やはり高潮町にいたのは敵情視察といった形だろうか。
敵対をする魔法騎士の強さや、国の内情を知ったことで攻めてきたのだろう。
「これから本部で会議だ。出雲君と麗奈君は命令を待つように」
「分かりました!」
それしか返せない。
とりあえず指示を待ってから動くことになった。白銀の翼との戦争が近いのかと緊張が全身を襲うが、怯えてはいられないと自身の心を鼓舞する。
「多分死者が出るかもしれない戦いになる。覚悟をするように――」
その言葉を残して病院の前に停車をしていた車に守は乗り込んだ。死者が出る戦いとは一体どのような戦闘なのか想像がつかない。
それでも魔法騎士となったのだから、国民を守る義務がある。力を最大限に使用をして、戦闘に臨まなければならない。怖さを秘めながら、出雲は車で魔法騎士団本部へと向かう。
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