第29話 ヴィズ
「やっと倒した……このドールがあと何体いるんだ?」
デパートを守っている魔法騎士を見ると、話していた魔法騎士の男性もドールを倒して、押されている仲間の支援に入ったようだ。
「どうしてこんなことに……白銀の翼は何がしたいんだ!」
地面に神楽耶を差して再度叫ぶと、教えてやろうかと聞きいたことがある男性の声が聞こえてきた。
どこからしたのかと周囲を見るが姿が見えず、上空を見ると水色の仮面を付けている男性が地上に降りてくる。
「お、お前は!? どうしてここに!」
「不思議か? 俺は白銀の翼だぞ?」
水色の仮面の男性は白い無地の服を着て黒いズボンを履き、フード付きの水色のローブを着ている。
以前とは違う服装なので一瞬誰だか分からなかったが、声と仮面によって高潮町で戦った男だと理解ができた。
「結構な数の魔法騎士が死んだみたいだな。あの魔法は驚いただろう? 協力をして発動したんだぞ?」
「あの魔法って、黒色の巨大な火球か!」
「そうだ、黒球煉弾。イニスとの連携技だ」
イニスって誰だ? もしかしてあの黒色の仮面のことか? 魔力や魔法を合わせて連携して放つ……そんな魔法もあるのか。
その時ふと思ってしまう。連携ということはこの場に黒色の仮面もいると言うことである。もし守と出会ってしまったら何が起きるか分からない。
「何一人で考えているんだ? この俺を前にしてそんな余裕があるのか?」
声がしたと共に首筋に剣が当てられていた。見えない、気が付かない、気配を感じれない。その一瞬の出来事に強さの格を教えられた気がした。
でも、それをされても怯えていられない。ここで引いたら島民や魔法騎士がさらに被害を受けるからだ。
「余裕なんてないさ――俺は逃げない。戦うだけだ!」
「そうか。なら今日が貴様の命日だ!」
首筋に当てられている剣を弾いて、出雲は水色の仮面に斬りかかり始める。
これが沖海島での本格的な白銀の翼との戦いの火蓋が切られた瞬間であった。
「そうだ、俺の名前を言っていなかったな。俺はヴィズだ、覚えておけ!」
「ヴィズ!? それがお前の名前か!」
「そうだ! 俺な水の翼、ヴィズだ!」
剣に黒い水。黒水を纏わせて斬撃を放ってくるが、その一つ一つを受け流すことに成功をしている。
「あの時の俺とは違う! いくらお前が強くても俺がお前を倒す! 何度でも言うぞ! 正義を成すために俺はいる!」
「しつこいなお前は、正義はないと言っている! 白銀の翼は世界を正すために存在をしているんだ!」
一度でも触れたら致命傷になる黒水を纏う剣を、出雲は剣で受けたり、体全体を使って避けながら攻撃を繰り出している。
「動きは確かに良くなったが、それでも俺にはあまり変わっていないように思えるぞ? それが全力か?」
「そんなことはない! 俺はまだ!」
鍔迫り合いながら蹴りを放つが軽々と避けられてしまう。
顔を歪めて何度も攻撃を避けられつつも攻撃としていると、先ほど話した魔法騎士の男性が大丈夫かと叫んで話しかけてくる。
「全然大丈夫じゃないです! 俺はこのヴィズと戦います! 他のドールをお願いします!」
「分かった! 必ず生き残れよ!」
「はい!」
その言葉を最後に、魔法騎士達は仲間を助けながらドールを相手にし始めたようだ。その様子を横目で見ていると、余裕だなと眼前に迫る剣を押し込まれながら言われてしまう。
「人の心配をしている余裕があるのか? 今にも俺に殺されそうだぞ? あそこに転がっている魔法騎士と同じにしてやろうか?」
ヴィズの視線の先を見ると、腹部に剣が突き刺さったまま力なく倒れている魔法騎士の姿がそこにあった。
もし言われた通り、自身があのような姿になってしまったら、麗奈や美桜は悲しんでくれるのだろうかと考えてしまう。いや、そう考えることすらヴィズの思惑なのかもしれない。
「そんな揺さぶりに引っかかるものか! 俺は必ずお前を倒す!」
「やってみろ! お前程度に邪魔をされてたまるか!」
神楽耶を上部に弾かれ腹部に切先が迫るが、体を捻ってギリギリ避ける。
また、流れるように右斜めに切り上げられた剣は、頬の薄皮を斬って空を切った。
「よく避けたな。だが、それがいつまで続くか!」
ヴィズの言う通り。
避けても避けてもギリギリだ。いつまで躱し続けられるか分からない。突きや切り上げ切り下げなど、様々な攻撃をしても当たり前のように躱される。
「通じないか……なら、あの時の感覚を思い出して――」
高潮町で黒色の仮面とヴィズと戦った感覚を思い出していた。
素早く時が止まったような感覚。攻撃が遅く感じ、それに合わせて攻撃を当てていた時のこと。
「あの時を思い出せ――あの時の感覚を!」
全身強化を施して神楽耶の刀身に炎を纏わせる。一瞬にして自身の限界を引き出して、目の前で剣を構えているヴィズを見据えた。
周囲で戦闘を行っている魔法騎士や、崩れる家屋の音が瞬時に聞こえなくなる。耳に入るのはヴィズの声や動いた際にする音だけである。
「本気になったか。そのステージに立ったお前を倒さないと怒られるものでな。やらせてもらう!」
「お前を殺す! 平和を乱す悪を滅する!」
声を革切りに二人同時に動いた。
剣と刀、金属同士が衝突し合う音や、空を切る音が周囲に響き渡る。斬り合う最中に足での攻撃や、剣を躱して肘でヴィズの腹部を攻撃して少しずつだがダメージを負わせている。
「よく当ててくるな。どの魔法騎士よりもお前と戦う意味がある!」
「俺にはない! 早くお前を倒してこの戦いを終わらせる!」
「そんなことができるかな?」
言葉を言い終えたヴィズは体を捻りながら勢いよく剣を振るってくる。回転により遠心力を加えた重い一撃を神楽耶で受けるが、威力が高いために踏ん張りがきかない。そのため、後方に大きく吹き飛んでしまった。
「ぐうううう!」
宙に浮いて吹き飛ぶが、態勢を整えて地面に力強く足を置いた。
足を置いたことでひび割れた地面をチラッと見つつ、前方にいるヴィズを見据える。回転での攻撃が脅威であるが、一度受けた攻撃なので対処が可能だと瞬時に考えた。
「受けきったか。このまま死んでいた方が楽だっただろうに」
「俺は死なない! 差し違えてでも!」
ヴィズの顔面を目掛けて突きをするが、軽々と首を傾げることで避けられる。
避けられることは百も承知なのでそのまま下に斬り下ろす。だが、見切られていたのか後方に飛ぶことでその攻撃も避けられてしまった。
「まだまだ甘いな!」
「くそ!」
後方に飛び、地面に着地を下と共に出雲のいる前方に勢いよく突っ込んでくる。そしてそのまま連続で突きを繰り出してきた。
「避けられるか?」
「そんな攻撃なんか!」
体を屈めたり首を曲げることで繰り出される突きを避けるが、両頬を斬られてしまい血が宙を舞う。一突きが致命傷になるその突きが、視線の端を何度も通り過ぎる。もし目に入ったら、失明どころではない。
様々なことを考えていると冷や汗が流れ落ちる。このままでは避けられないので、神楽耶で受け流すことにした。だが、次の瞬間距離を開けたヴィズは黒く染まった水の斬撃を連続で飛ばし始めた。
「以前にお前に放った技だ。連続で受けきれるか?」
「黒水斬か! あの時は反応ができなかったけど、今は違う!」
自身が発した言葉通り、連続で向かってくる黒水斬を神楽耶で受け止めて上空に弾いていく。一回、二回と上空に弾くと、三回目の黒水斬を弾けずに受け止めるしかなかった。
「弾け……ない! どうして!」
地面が割れるほどに踏ん張るが、三回目の黒水斬の威力が高いのか神楽耶で切り上げようとしてもびくともしない。
「教えてやろうか? この三回目に込めた魔力が違う。ただそれだけだぞ」
「そ、そんな!? たったそれだけ!?」
「そこまでは教えないがな。ただ、お前は前二つが弾けたから油断をしただろう?」
確かに弾けると油断をした……だけどこの威力の差は大きすぎる。
まったく別の技のように思えるし、同じ黒水斬とは思えない。だけどまだ一つ目の技でピンチに陥っていてはダメだ。これ以上の技が来るかもしれないので、この程度のハードルは乗り越えなければいけない。
王女騎士の魔法騎士 天羽睦月 @abc2509228
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