第14話 突然の訪問者

「動けない……辛すぎる……」


 消え入るような声で意識を失ってしまった。

 布団をかけずにうつ伏せで寝続けると、誰かが側で話しているような声が耳に入ってくる。誰が話しているのか、誰が部屋にいるのか分からずに目を開けると、体を包む形で布団が巻かれていることに気が付いた。


「布団が巻かれてる。誰がしてくれたんだ?」


 起き上がって未だにふらつく足で立ち上がると、部屋の扉が静かに開いていた。

 扉の前に立っていたのは麗奈であり、その手にはオボンを持っておりその上にお粥が置かれているのが見えた。


「お、起きたの!? 大丈夫!?」


 机にオボンを置いた麗奈がふらついている体を支えてくれる。支えてくれなければ危うく倒れるところだったので、感謝しかない。


「ありがとう。なんか体が辛くてさ」

「魔力の使い過ぎらしいわよ? 試験でどんな魔法を使ったのよ」

「ちょっと張り切り過ぎちゃってさ。あ、だけどそのおかげで合格したんだよ!」


 痛みを我慢しながら笑顔で麗奈に報告をした。

 すると目を見開いた麗奈は涙を流してしまう。いきなり泣き出してしまったのでどうすればいいのか慌ててしまうが、「嬉しくて」という言葉を聞いて心が温かくなった気がする。


「ティッシュがあるから涙を拭いて。喜んでくれてありがとう」

「いえいえ。出雲の夢だもんね。叶ってよかった」

「ありがとう。これから魔法騎士団で活躍してくよ!」


 ベットに座らせてもらいながら決意を麗奈に伝えると、今は何か食べて元気になってと言われた。部屋にかけている時計を見ると、既に時刻が十二時を超えていることに気が付いた。


「昼だって意識をしたら途端にお腹が空いてきたよ」

「そうなると思って胃に優しいお粥を作ったのよ、食べて」

「おお、ありがとう。美味しそうだよ」

「見ただけで分かるの? 食べて食べて」


 そう言いながら麗奈は一口の量をスプーンで出雲の口元に持っていく。


「自分でするからいいよ」

「そんなこと言わずに、今くらいいいじゃない」


 押し切られてしまい、出雲は麗奈のスプーンを口に入れた。

 すると仄かに甘さを感じる美味しいお粥だと感じる。一口食べたらさらにもう一口食べたくなり、もっと頂戴と麗奈に言ってしまう。


「そんなに美味しかったの?」

「美味しかった! もっと食べたい!」


 もっともっとと言い続けていると、なぜだか麗奈は頬を赤く染めて恍惚の表情をしていることに気が付いた。何か変なことを言ったかなと思いつつ、料理を食べ進めることにする。


「麗奈って料理上手だよね。たまに道場で食べるオムライスとか美味しかったよ」

「本当!? あれは結構練習したのよ! 美味しいなら早く言ってよね!」


 前のめりになって、出雲の鼻先数センチの距離に麗奈は顔を近づけて頬を膨らませて怒ってくる。その際に視線を下に移すと、胸が見えたのですぐさま横を向いた。


「どうしたの?」

「な、なんでもないよ!」


 胸が見えたなんて言ったら何をされるか分からないからな。絶対に頬を叩いて来ると思うから、秘密にしよう。以前にスカートの中を見てしまって、頬を踏まれた経験を活かすことにした。


「ならいいけど。さ、全部食べてね」


 飲み込む前にスプーンを口に入れられてしまうが、麗奈を悲しませないために頑張って噛んで飲み込んでく。何度か吐き出しそうになってしまうが、どうにか完食をすることができた。


「美味しかったよ。ありがとう」

「いえいえ、少しは元気が出たようでよかったわ。明日には治りそう?」

「それは分からないけど、治るようにするよ」

「私のお粥を食べたんだから、きっとすぐ治るわよ」

「そうだよね。ありがとう」


 麗奈の優しさに触れていると、寝てはいけないのが眠気が襲ってくる。目を何度も擦っていると、眠いのと聞かれてしまった。


「少し眠いだけだよ。麗奈がいるから寝ないけどね」


 大欠伸をしてしまっていると、寝ていいわよと麗奈は言う。

 寝ないよと再度言うが、病人なのだからと言われてしまってその言葉に従うことにした。


「そう?」

「そうよ。気にしなくていいからね」

「ありがとう」


 お言葉に甘えて眠ることにした。

 布団の中に入って眠る準備をすると、麗奈がゆっくり休んでねと言ってくれる。その言葉はとても優しく、まさに聖母のような声色に感じた。


「私は掃除とかしておくから、ゆっくり休んでね」

「助かるよ。おやすみ」


 布団を被って眠ることにした。

 満腹になったこともあり、すんなりと眠りに落ちることができた。なぜここまで麗奈は優しくしてくれるのか、答えは既に分かっている。それは麗奈が好いてくれているからだ。


 どうすればいいのか答えを出せないまま、熟睡をしてしまう。少ししか考えることができなかったが、ここまでしてくれる理由を改めて確認でいたのは大きかった。

 様々な思いを麗奈から感じながら寝ていると、ゴソゴソと何かが布団の中に入って来る感覚で目が開いてしまう。


「なんだ? 布団が動いている?」


 何が起きたか分からずにゴソゴソと音がする方を向くと、麗奈が布団に入っている姿が目に映る。なぜここにと思うが、入ってくる意味が分からない。

 どうして麗奈がここにいるのか、掃除をすると言っていたのだがどうなったのか聞きたいことが山積みになってしまう。 黙ってやり過ごそうと目を閉じてもう一度眠ることにした。目を瞑っていると背中柔らかい感触悶々としてしまうが、目を強く閉じて眠ろうと頭の中で言葉を言い続ける。


「起きてるの?」


 話しかけられてもシカトをするしかない。

 この状況で返答をしたら何をされるか分からない。今はこの場をやり過ごすしかない。


「寝てるのかな? 突っついちゃおうかな」


 麗奈が頬を軽く突いてくる。

 とても優しい手つきで何度も突かれると、反応がないからつまらないと言い始めていた。飽きて遊ばれるのが終わるかなと考えていると、麗奈が静かに部屋から出て行くのを薄目で確認した。


「やっと満足をして出ていったかな? どうして布団に入ったんだろう?」


 麗奈の行動が理解出来ないでいると、自然と眠気が襲ってくる。


「眠いな……もう一眠りをするか。早く体を治さないとな」


 大欠伸をして布団をかけて眠ることにした。

 微かに香る麗奈の匂いを感じつつ、静かに寝息を立て始める。それから何分何時間経過をしただろうか。心地よく眠っていると、体が揺さぶられて目が覚めた。


「うう……」


 熟睡をしていたので突然起こされても言葉を発することができない。

 誰が起こしたのかと目をゆっくりと開けると、目の前に屈んで顔を見てくる麗奈の姿があった。


「やっと起きた。もうすぐ夕食だよー?」

「夕食!? それって夜ってこと!?」

「そうよー。花子さんも帰っているから、一緒に食べましょう」


 花子さんというのは出雲の祖母のことである。普段は婆ちゃんと呼んでいるので、久しぶりに名前を聞いた。商店街の人や、源十郎達は花さんと呼んでいるのを聞いたことがある。


「婆ちゃんもいるのか。かなり体調は良くなったから、もう大丈夫。心配かけてごめんね」

「ううん。謝ることないわよ。試験を頑張った証拠よ」

「ありがとう」


 そう言いながらベットから出ると、麗奈と共に二階に移動をした。

 リビングに入ると既に祖母が夕食を食卓の上に乗せている途中なようで、起きていた出雲を見て体調の心配をしてくれた。


「もう平気なの? 凄い辛そうだったから心配していたわよ」

「ごめんね。魔力の使い過ぎで体調を崩していたみたい。だけどもう大丈夫! 心配かけてごめんね!」


 笑顔で祖母に大丈夫なことを伝えると、安心したわと言ってくれた。かなり心配をかけてしまったので、これからはあまり心配をかけないようにしないとと決める。


「さ、麗奈ちゃんも一緒に食べましょう。今日は特性ハンバーグよ」

「花子さんの特性ハンバーグ! 私好き!」


 目を輝かせながら輝く笑顔で喜んでいる麗奈。

 その姿を見て、麗奈がいると場が和らいで良いなと思っていた。麗奈のおかげで暗い雰囲気が和らぎ、楽しく食べることができるからである。

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