第3話 道場破り
「荷物は確か……麗奈が門の側に置いてくれたはずだけど……」
道場の入り口を見ると、そこには麗奈が纏めてくれていた通学鞄や木刀を入れていた袋が置かれているのが見えた。
いつもサポートをしてくれるな麗奈は。俺も何かしてやれたらいんだけど。どうして俺にここまでしてくれるんだろうか? いつも優しいな麗奈は。
そんなことを考えながら出雲は門の側に置いてある荷物を手に取り、そのまま道場に一礼をして帰宅をすることにした。
「もう夜かー。一日は早いな」
暗い空を見ながら家がある方向へ歩いて行く。
出雲の家は三階建ての一軒家で両親と祖母との四人暮らしであるが、両親は仕事の都合で海外へ行っているため、祖母との二人暮らしである。
「ただいまー」
家の扉を開けると、パタパタと階段を下りてくる音が聞こえてくる。
祖母が下りてくる姿が目に映り、好きだという水色の着物を着ていた。
「今日も着物を着ているんだね」
「お帰りなさい。昔から好きだからね。さ、夕食にしましょうかね」
白髪の長髪を髪留めで纏めており、着物との相性がいい髪型をしている。祖母は優しさが人柄として溢れている顔をしており、近所の子供達と遊んだり老人会の人達と日々を過ごしている。その中で、両親が仕事で留守にしている出雲の面倒も見てくれている。
「いつもありがとう」
「どうしたの突然? 珍しい」
クスクスと小さく笑っている祖母は、突然感謝をされて驚いたのであろう。
両親の代わりに魔法騎士団の試験を受けることを祖母に伝えたいが、言うタイミングが見つからない。
「さ、今日は出雲が好きなハンバーグよ。良いお肉が肉屋の未来さんに売っててね買ってきたのよ」
「未来さんのお肉は美味しいからね」
肉屋の未来さんとは、祖母と仲が良い老人会に加入をしている一人である。三十年以上も商店街に店を構えており、この地域に根付いて商店街を活気づけようとしている人でもある。
「いただきます」
「ゆっくり食べてね」
ハンバーグに白米、そしてサラダが目の前に置かれていた。
祖母は可能な限り手作りをしてくれるので、いつも申し訳ないと感じてしまう。
「いつもありがとう。凄い美味しいよ」
「今日はどうしたの? そう言ってくれて嬉しいわ」
笑顔で嬉しいと言ってくれる。
雰囲気が良い今が言うチャンスかなと思った出雲は、祖母に魔法騎士団のことを話すことにした。
「今日さ、道場に言った時に源十郎さんが魔法騎士団を受けるための推薦人になってくれるって言ってくれたんだ」
その言葉を聞いた祖母は、昔から好きだったからねと食べながら言葉を発する。
「でも一回しか受ける資格がないのに、今でいいの?」
「うん。今じゃないとダメなんだ。昔にした約束を果たさないといけないからね」
夕凪美桜とした約束のことを祖母は知らないが、何かを果たそうと決意を決めていることだけは理解してもらえたようだ。
「道場の前当主である天竜源十郎さんね。後日何か渡さないと」
「ごめんね。いつも迷惑をかけて」
「いいのよ。家族以外の推薦が必要だものね。私が力になれたらよかったのに」
「大丈夫だよ。ありがとう」
感謝の言葉を言いながら、魔法騎士団のことを説明して夕食を進めた。
その時に何度か質問をされるが、一つずつ答えていくと祖母が笑顔になっていることに気が付いた。
「凄い笑顔だね。そんなに面白かった?」
「ごめんなさいね。楽しそうに魔法騎士団のことを話すものだから、ついね」
無意識に楽しそうに話していたようだ。
魔法騎士団のことは大好きだし、入りたいと思っていたから情報を調べていた。ファンしか知らないことや、戦歴など幅広く一般に知られていない情報も知っている。
「沢山調べたみたいね。それぐらい好きなら試験に合格できるわよ」
「ちゃんと合格をして約束を果たすよ! 応援しててね!」
「応援しているわよ。頑張ってね」
それから楽しく談笑をしながら夕食を楽しんだ。
自室に戻ると、左側にあるベットにダイブをして目を閉じる。一気に疲れがどっと襲い掛かるが、奥にある窓側に設置してある机の上に置いている魔法騎士団の書類を通学鞄にしまわないとと思うが、訓練で消費をした体力が戻らない。
「夕食は楽しく食べれたけど、まだ体力が戻らないや……」
うつ伏せになり続けているわけにはいかないので、唸りながら起きて机に移動をした。
「確かこの書類の束の中に推薦人を書いてもらう書類があったような……」
机の上には魔法騎士団の受験のための書類が置かれている。
受験要綱や魔法騎士団のことが書かれている説明書類など、多数の書類の中から推薦人の名前を書く書類を見つけた。
「この書類の推薦人欄に源十郎さんの名前を書いてもらって、提出をすれば試験を受けられるのか。やっとここまで来た……後は試験に合格をするだけ……」
どのような内容の試験か一切分からないので不安もあるが、なぜだか落ちるという言葉は出てこない。絶対に合格をして夕凪美桜を見つけ出すということしか考えられなかった。
「明日、源十郎さんに書いてもらおう。そうしたら試験の日まで訓練あるのみだ」
これからのことを考えながら眠りにつくことにした。緊張をして眠れないと思っていたのだがそんなことはなく、すぐに熟睡をしてしまう。
そして翌日。目覚めた出雲は学校へと向かい、滞りなく放課後を迎えた。
「さて、道場に行くか。源十郎さんに書類を書いてもらわないとな」
昨日と同じように商店街を通って道場に向かうことにした。
途中の電気屋にて、テレビでまたもや魔法騎士団のことを特集していたことに気が付く。
「また魔法騎士団のことを特集しているのか。試験が近いからなのかな?」
横目でテレビを見つつ歩き続けることにする。
既に知っている情報ばかりであるが、来月に試験が行われるという言葉を耳にすると、早く書類を出さないとと焦りが出てくる。
「こんにちわー。源十郎さんいますかー?」
天明流の敷地内では既に門下生達が訓練をしている姿が目に入る。
出雲のような学生は学校帰りの放課後から参加をするのであるが、学生ではない門下生達は早朝から訓練をしている。流派を広めるためや、大会に出て優勝をするためである。
「他の人は凄いな。朝からやって未だに訓練をしているんだから。俺も試験までにもっと強くならないと」
道場内を進んで源十郎を探していると麗奈とすれ違った。何やら急いでいるようで、何があったのかと心配になる。
「どうしたの? 何かあった?」
「あ、出雲君! 大変なの! 道場破りよ!」
「道場破り!? それって大変じゃん!」
自身の力を試したいがために、道場に挑戦をする人達がいる。
看板を奪ったり、流派を途絶えさせる目的の人が多い。天明流に来た道場破りの目的を知らない出雲は、不安な気持ちが溢れていた。
「看板が目的らしいわ! 長い歴史がある天明流だから、破ったら自身の流派の評判が上がるからと言っているわ!」
「そんなことをしても意味がないのに!」
看板が目的であったようだ。
出雲が天明流に通ってから初めてのことなので、どのように対処をしたらいいか分からなない。今は流れに任せるしかないのかと思うしかなかった。
「お爺ちゃんが母屋の左側にある武道場で話を聞いているところだから、行ってあげて!」
「分かった!」
麗奈に言われるがままに武道場に移動をすることにした。
武道場とは毎度天明流道場の広場で源十郎と訓練をしている出雲とは違い、剣術の訓練をする所として作られている場所である。そこに移動をすると、五人の若い男性達と向き合っている源十郎の姿があった。
「おい爺さん! 現当主を出してくれや!」
「今はいないと言っておろうに。それに相手の力量も感じ取れないようじゃ、たかが知れているな」
源十郎の煽りに痺れを切らしたのか、赤髪の男性が手に持つ木刀を握り締めながら、死ねと叫びながら襲い掛かる。
だが、その攻撃を素手で軽く受け流した源十郎は両手を勢いよく赤髪の男性の腹部に当てて、武道場の壁まで吹き飛ばした。
「相手の力量も測れないやつが道場破りなど片腹痛いわ!」
源十郎の一喝が効いたのか、若い男性達は顔を強張らせて固まっている。しかし、壁に吹き飛ばされた男性は止まらないようで、木刀に魔法をかけたのかバチバチと音をさせながら構え始めた。
「ほう……雷属性の魔法を扱うか。だが、まだ上手く扱えていないようだが?」
「うるせえ! これで沢山の道場を破ったんだ! ここだって!」
「自信があるようだが、まだ上を知らない。お前達は弱い!」
バチバチと音を奏でながら床に貼られている畳を焦がしつつ振り下ろされる木刀を、源十郎は魔力を籠めた両手で白刃取りをして中心部分から二つに折った。
目の前で起きたことを理解ができていない赤髪の男性は、目を見開いて動けなくなってしまっているようだ。
「お前達は弱すぎる。心も弱い。何もかもが最底辺だ」
辛辣な言葉を浴びせられるも、事実であるために言い返せないようだ。そしてそのまま源十郎は、若い男性達に門下生になれと言い放つ。
「俺達を門下生に!? 道場破りをした相手によくそんなことを言えるな!」
「当然だろう。道に迷っている若者を導くのが大人の役割だ。お前達を導き、より良い道へ進ませるためだ」
源十郎の懐を深さを受けた若い男性達は、お互いに顔を見合わせてお願いしますと頭を下げたのである。
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