第11話 襲撃
「ありがとう」
神楽耶に再度感謝の言葉を言うと、淡く光りを放っていた。その光は心が温かくなるような優しい光であり、疲れた心が癒されるようである。
「轟さんはまだかな? 車の中で待つか」
そう言いながら車の扉を開けようとした瞬間、守と戦っていた方向から巨大な爆発音が聞こえてきた。それは突然の出来事であり、何名かの悲鳴が反響をして周囲に響き渡っている。
「な、何が起きたんだ!?」
爆発の方向を向くと、血を流しながら倒れている魔法騎士団の団員が多数見受けられた。助けてと言いながら血を吐いている魔法騎士もいるようで、京平が救急箱を持って駆け出している姿が見える。
「何が起きた! 状況の把握を最優先にしろ!」
遠くで守が指示をしている。
何が起きたのか、誰かの襲撃なのか分からないが、危険な状況であることは出雲でも理解ができていた。
「な、何が起きたんだ!? 魔法騎士団の人が血だらけで倒れているし、襲撃があったのか!?」
過去にも魔法騎士団は襲撃者に襲われたことがある。各地方都市にある支部や、演習をするために集まった時に襲われたことなど両手では数えきれないほどだ。
だが、今回はこれまでとは何かが違うと出雲は感じている。自身が調べていた時に覚えた魔法騎士団への襲撃事件では、これほどまでの被害が出たとは書かれていなかったからだ。
「あの魔法騎士の人達が……俺はどうすればいいんだ……」
周囲を見渡して何か出来ることはないかと考えていると、遠くから受験生を早く逃がせと叫ぶ声が聞こえてくる。
その声の主は京平であるようで、手当てをしながら守と同様に指示を出しているようだ。
「凄いな……動揺をしている俺が馬鹿みたいだ……怯えてしまって体が動かなかったし……」
自身を責めていると近くから悲鳴が聞こえた。
その方向を向くと、同じ受験生の男性であった。男性は腰を抜かして怯えているようで、その視線の先を出雲は見ると黒い仮面を付けて黒い服を着ている全身が黒一色の性別が分からない集団が立っているのが見えた。
「だ、誰だ!? あれが襲撃者なのか!?」
出雲が驚いていると、守が一瞬のうちに目の前に現れた。
流石副団長であろうか。見た瞬間に判断をして迎え撃つ準備を終えてしまったようだ。
「あれは我々の宿敵であり、周囲の各国のトップを唆して戦争を起こしている白銀の翼という集団だ」
「白銀の翼ですか? 聞いたことがないです」
「表に出てこない裏で暗躍をする集団だからな。あの黒い仮面はかなりの強さだぞ。気を付けるんだ」
守がかなりの強さというのだから、とてつもなく強いのだろう。
見ているだけで寒気がするほどの威圧感を感じる。今にでも腰を抜かしてしまいそうだ。
「敵は十人か。俺一人じゃ厳しいかもしれない。出雲君は早く逃げるんだ!」
名前を呼んで逃げろと言ってくれた。
嬉しいのだがもっと違う場面で憧れの魔法騎士団の人に名前を呼んでほしかったが、今はそんなことは言えない。腰を抜かしている男性の腕を掴んで車に乗り込もうとすると、何かが上空を通り過ぎた。
「逃げろ!」
「え?」
振り向いた瞬間に車が爆発をした。
通り過ぎたのは白銀の翼の一人であったようで、逃げるための車を破壊したのである。爆風によって出雲は地面を何回か跳ねながら転がってしまう。
「がっは! ぐぅうううう……」
体を強打してしまい、肺から空気が全て出てしまった。
息を吸うことができないためにとても苦しい。何度か息を吸おうと試みるが中々吸えない。
「く、苦しい……」
喉を両手で抑えながら苦しいと言い続けていると、誰かが背中を叩いてくれた。
「大丈夫か! 気をしっかり持て!」
叩いてくれた声の主は守であった。
何度か背中を叩いてくれると息が吸えるようになったので、大きく深呼吸をして息を整えていく。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」
「気にするな。生きていてくれてよかった」
出雲が生きていたことに安堵をしているようである。
痛む体に鞭を打って立ち上がると、目の前に黒色の仮面を付けた白銀の翼の一人が双剣を持ち立っていた。
「白銀の翼!?」
そう言葉が口から出ると、男性とも女性とも分からない機械的な音声でなぜ知っているのかと話しかけられた。
「教えるものか! お前達は世界を混乱に陥れているんだろ? なら倒すべき敵だ!」
神楽耶を引き抜いて対峙をすると、白銀の翼の一人は愚かなと呟いて両手で一本ずつ持つ剣で交互に攻撃をしてくる。
恐らく斬りかかってくると思っていたのが幸いしたのか、体が反応をして防ぐことができた。
「そう簡単にやられるものか! 俺は魔法騎士団の団員に、魔法騎士になるんだ!」
合格をしたとはいえ、まだ正式に入団をしたわけではないので、なるんだという言葉を発した。
「魔法騎士か。我々の邪魔をする存在だ! お前達の存在は、世界を救済する障害でしかない!」
「世界の救済ってどういうことだ!」
鍔迫り合いながら意味が分からないことを聞いていると、守が惑わされるなと叫びながら戦っていた。
自身は一人と戦うので精一杯なのだが、守は三人と戦いながらもどこか余裕を感じさせている。
「出雲君は無理をするな! 今の君じゃ厳しい相手だぞ!」
そんなことは一撃を防いだ時に分かっていた。
攻撃が重く、威圧感を鳥肌が立つレベルで感じているからだ。しかし、それでも引けない理由があるからこうして戦っている。
「大きな壁が現れたら乗り越える! それが魔法騎士団の敵であるのなら俺は戦う!」
黒い仮面の右手の剣を弾くと、思いついた技を放とうと決める。
それは炎を纏わせた刀で天明流の連続で斬りかかる天明流・連撃という技である。名前通りの連続で斬りかかる技であるが、魔法と合わせることで強大な威力を有すると出雲は考えたのだ。
「俺だって戦えるんだ! 悪を滅する魔法騎士だ!」
叫びながら黒い仮面に向けて炎を纏わせた刀で連続で斬りかかるが、左手に持つ剣で軽々と防いでくる。だが、防がれることは百も承知だ。諦めることなくさらに速度を上げて振り下ろす。
「防がれることなんて百も承知だ!」
上下左右、斜めなど様々な角度から斬りかかる。
幾度か剣を弾いて攻撃が当たるかと思った場面があったが、紙一重で避けられ続けてしまっていた。
「当たらない! どうして!」
何度も降り続けるがその全てを避けられてしまう。
焦りながら突きをしていると、神楽耶を弾かれて黒い仮面が左膝で出雲の腹部を蹴り上げた。鋭い痛みを腹部に感じていると、右頬を剣の握り部分で殴られてしまう。
「お前は既に十回以上死んでいるぞ。私の気まぐれで生きているだけだ」
「な、何を……」
確かにそうだ。剣の握り部分ではなく、刃の方で斬ればいいだけだ。
しかし目の前にいる黒い仮面はそうすることなく、握り部分で攻撃をした。なぜそんなことをしたのかは分からないが、遊ばれているのではないかと想像をしてしまう。
「俺で遊んでいるのか?」
考えたことを言ってみると、黒色の仮面は小さく笑い始めた。
「わざわざそんなことをするわけがない。お前の力量を計っていただけだ」
「力量を計る? どうしてそんなことを!」
「決まっている。白銀の翼に武器を向ける人間の力を計測して、叩き潰すためだ」
同じ人間のはずなのに人間という言い方に違和感を感じる。それに計測して叩き潰すとは、性格が悪い。
「叩き潰されない! 俺は必ずお前達を殲滅する!」
神楽耶に纏わせている炎の火力を上げる。
どうすれば勝てるのか分からないが、いつの間にか遠くで戦っている守を見て、思うように戦ってみることに決めた。
「とやかく悩んでも仕方ない! 天明流と魔法を合わせた技でお前を倒す!」
「やってみるといい。お前には無理だと思うがな」
周囲の魔法騎士が戦っている音を聞きながら、出雲は初めて命を懸けた戦いに身を投じることとなった。先ほどまでは試されている形であったのだが、今は違う。
既に冷や汗が流れてしまうほどに威圧感を放つ黒色の仮面。それを受け続けていると気絶をしそうになる。
「そんな威圧感なんて効果はないぞ!」
切っ先に炎を集めて一直線に放つ。
咄嗟に思いついた遠距離技であるが、意表を突く攻撃としては上々だと思った通り、黒い仮面は避けられずに両手に持つ剣で防いでいた。
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