第1章
第1話 魔法騎士団への壁
今でも夢を見る。
子供の頃に出会った夕凪美桜との記憶を。
たった一年間の短い奇跡のような時間だったけれど、それでもその時間は今でもとても大切な記憶だ。
「あの時は楽しかったな。突然さようならって言ってどこかに行ってしまったけど、美桜は一体どこにいるんだろうか。幸せに暮らしているのかな」
学校帰りの眩しい夕日を感じながら、歩いている少年・黒羽出雲。
彼は現在十五歳の中学校三年生だ。これからの進路を考えなければならないのだが、進路を決められずにいる。幼少の時と同じ耳にかかるまでの黒髪をしながら、優しい性格をしていると一目で分かる容姿を持つ少年に成長をしていた。
「親は高等学校に進学してと言っているけど、俺は諦めきれないんだよな。あの時に出会った夕凪美桜。彼女がどこかに行く前に迎えに行くって言ったからな。その約束を果たしたいけど、俺はどうすればいいんだ」
帰る前に行われているホームルームにて、担任の教師が進路をそろそろ決めろと言っていたことを思い出す。
卒業生達の進学先一覧を聞いた時は、やはりと言うべきか高等学校に進学する人が多かった。一般企業に就職をした人もいるみたいだが、だいたいは魔法を専門とする高等学校や、普通科の高等学校に進学をしている。
「やっぱり普通は魔法科がある高等学校や、一般的な高等学校に行くよな。友達は普通科の高等学校に行くって言っていたし、俺はどうしたらいいんだ。このモヤモヤは一体……」
魔法を専門に扱う高等学校があるように、この世界には魔法が溢れ、身近な存在となっている。いつからあるのかは分からないが、ある研究によると地球が誕生した時からあるらしい。しかし、その魔法を扱える人間は少なかったのだが、世代を重ねるごとに少しずつ扱える人が増えていく。
最近では世界人口の一割の人々が魔法を扱えるまでになり、様々な魔法が生み出されている。近代では幅広い分野にて重宝されている神秘な力となっている。
「俺も魔法は使えるけど、全く上手く扱えないんだよな。魔法は天からの才能とはよく言ったものだよ」
出雲のように魔法を上手く扱えない人は多い。同じ魔法であっても威力や発動に要する時間などが違う人が多数いる
魔法を上手く扱うコツは、義務教育期間中に教わることはない。独自に編み出して鍛錬をするしかないのである。
「もっと魔法も上手く扱えるようになりたいけど、どうしたらいいんだ?」
自身の右手を見ながら溜息をついていると、商店街に店を構えている電気屋が目に入る。そこには店頭に大型テレビが置かれており、ある職業のことを特集している番組が映し出されていた。
「今日は魔法騎士団の特集なのか」
魔法騎士団はこの島国である日本において、凶悪な魔法犯罪の対処や、国防の要として多種多様な仕事をしている王直轄の組織である。
ちなみに、王というのはこの日本を統べる国王のことだ。近々今まで見せて来なかった王女をお披露目すると報道された時は国中が沸き上がったものだ。
「格好いいな。魔法騎士団に入れば夕凪美桜の情報を得られるのかな。いや、そんな簡単にはいかないか。魔法騎士団に入れるかも分からないのに」
落胆をする出雲。
魔法騎士団に入るための試験は難しいと有名である。王直轄の国防の要であるのだから当然といえば当然である。魔法騎士団は十五歳から二十五歳までの人々に受験資格が与えられるが、その間に一回しか受験ができない厳しい試験である。
そして試験の内容は外部に漏らすのは禁止であり、仮に外に漏らしたら相応の処罰を国から与えられるが、処罰の内容すら報告されていないので存在を消されるのではと噂されている。
「魔法騎士団に入りたいけど、推薦者が一名必要で署名と捺印が必要なんだよな。応募するのもハードルが高いや……」
全てのハードルが高い魔法騎士団。それでも応募者は後を絶たない。魔法が得意な人、国防の要として活躍したい人など国のために活躍をしたい人が多いからである。
「昨年は合格者なしなのか。今年は来月に受験があって、応募締め切りが今月末ね。あと十日しかないけど、推薦人がいないから応募できないんだけどさ」
溜息を吐き、モヤモヤとした気持ちを胸に秘めながら空を見上げて歩き始めるといつの間にか目的地である剣術道場に到着をした。
美桜と別れてから漠然とどう守るかを当時から考えていたので、とりあえず剣術を学ぼうと動いていた結果、剣術道場に通うことにした。
「まさか秋風商店街の側に五百年以上も続く剣術道場があったなんて知らなかったな。広い敷地があって門下生も多いし、よく入れてくれたものだよ」
袋に入れて肩から下げている木刀を見ながら道場に入っていく。
その道場とても歴史が長く日本にて有名な流派の一つである天明流を現在は七代目当主である前当主の息子が教えている。
出雲に関しては何故だが引退をした前当主が教えてくれているが、とても厳しいため辞めたいと心の端で考えてしまっている。
「辞めたいけど強くなるためだし、続けないとな!」
木製の身の丈以上の門の前で頷いていると、自然と扉が開いた。
そこには前当主である天竜源十郎が、白い髭を左手で触りながら右手で木刀を握っている姿が目に入った。以前は体格が良かったそうだが、現在は線が細い体に肩を超す白髪の長髪をしている。また、白い髭がとても目立ち、地域の子供達から髭仙人と呼ばれているとかいないとか。
「こ、こんばんわー。今日もお元気そうでよかった――」
言葉を言い終える前に木刀で斬りかかられてしまう。
源十郎の細腕から出ているとは思えないほどに力強い一撃を、素早く袋に入れたままの木刀で防ぐことができた。
「急に振るってこないで下さいよ!」
「戦闘では相手が攻撃をするとは言ってはくれないと、いつも言っているだろうに。剣士なら常に戦場にいる気持ちを持つのだ」
力を籠めて剣を押し込んでくるので、袋を左斜めに倒して木刀を取り出した。
「俺だって剣士としての自覚はあります! 覚悟をしてください!」
目の前で木刀を構える源十郎を見つつ、構える。
天明流は流れるような連続攻撃や、力強い一撃の攻撃が得意な流派である。また、魔法との親和性が高い型が多いので、排出した門下生達は流派と魔法を活かした道に進むことが多い。
「覚悟だと? よく言うようになったな。未だに恐れが瞳に現れているぞ」
「そ、そんなことないです!」
バレていた。
虚勢を張っていたのがすぐに分かってしまう。流石は前当主だ。それでも俺は多くを克服して強くならなければならない。あの子を探すために、出会った時に守れるようになっているために。
「今日こそは一本を取ります! 俺は強くならなきゃいけないんです!」
木刀を構えている出雲。その様子を目の前にいる源十郎と周囲にいる通行人の人達が見ていた。
未だに同乗の敷地内に入っていないので、周囲の通行人達がまたやってるよと微笑ましい視線を出雲に向けていた。
「頑張れ門下生ー。今日こそ髭仙人に勝てよー」
「そうだよ! 負けっぱなしはダメだよー!」
大人から子供まで応援をしてくれる。
その声を耳に入れながら、勝ちますと声を上げて源十郎に向けて駆け出した。
「威勢だけは良いみたいだな。それだけじゃ勝てないぞ」
飛び上がって木刀を振るうと、簡単に防がれてしまう。
細い体のどこにそんな力があるのかと不思議に思うが、源十郎が以前に魔力で身体能力を上げていると聞いたことがあった。
「もしかして魔力で身体能力を!?」
「ほう。どこかで聞いたのか? そうだ。魔力を操作することを覚えたら俺のような体でもお前のような若者と同等の身体能力になれるんだ。ということは、お前が身体能力を上げられたらもっと強くなれるぞ」
「教えてくださいよ!」
鍔迫り合いながら言うが、源十郎は自分で見つけろとして言ってくれない。
「見つけろって言ったって……どうすれば……」
ガキンという音が木刀からすると、一度距離を取ることにした。
特殊な加工をされている木刀なので、金属音に似た音が発生する。普通の木刀であれば既に折れているが、特殊な訓練用の木刀なので簡単には折れない。
「お前は魔法騎士団に入りたいのだろう?」
源十郎が突然魔法騎士団の話を振ってきた。
どうして入りたいことを知っているのか分からない。
「入りたいのならこれくらいは基本だぞ。会得をするんだ!」
「そう言われたって! どうしたら!」
瞬間的に距離を詰めて連続で突き攻撃をしてくる源十郎。その攻撃を木刀で受け流すことで方向をずらしながら首を左右に振って避ける。
いくら木刀とはいえ、当たればただでは済まない。それが特殊な加工をされているモノであればな猶更である。
「魔力を感じろ! 全身に行き渡らせて血液のように循環をさせるんだ!」
「そんなことを言ったって!」
悩んでいるとヒントをくれた。いつもそうだ。源十郎さんはヒントをくれる。解決法は教えてくれないけど導いてくれるんだ。
教えてくれたヒントを頼りに両足に魔力を巡らせると、一瞬で源十郎の背後に回ることができた。
「動けた!? 成功した!?」
目を輝かせて喜んでいると、油断をしたなと木刀で腹部に突きを受けてしまう。
「ゲッホ……ガッハ……」
「一度できたからって油断をするな。だから攻撃を受けるんだ」
地面に両膝を付いて何度も咳き込んでいると、道場から一人の女性が駆け寄って来るのが見えた。その女性は出雲と同い年の現当主の娘である。
「大丈夫!? またお爺ちゃんが本気でやったんでしょ!」
「いや、俺はそこまでは……」
「すぐ俺はって言う! 普段はワシって言っているくせに、出雲君と訓練をする時だけ俺って格好つける!」
茶色の肩にかかるまでのショートカットの髪を揺らし、綺麗な水色の瞳で源十郎を睨みつけている彼女の名前は天竜麗奈という名前だ。
出雲とは違う中学校に通うが、道場でよく会うので自然と仲良くなったのである。
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