第14話 夜泣神
大きな叫び声やサイレンを聞くたびに思い出してしまう話を1つ。
高校3年生の秋、深夜に部屋で受験勉強していたら、
“ホワァァァァァァァッッァァァ!???”
みたいな声が外から聞こえてきた。文字にすると伝わりにくいけど、鳥の鳴き声を人が真似して、それのピッチをめちゃくちゃ上げた甲高い叫びって感じ。イヤホンしてても気づいたくらいだから、結構デカい音だったと思う。
で、なんだなんだと思ってカーテンを開けてみると、変な生き物が見えた。
俺の家の近くには小学校があるんだが、その屋上の給水塔の上に丸っこい鳥のような何かがいる。夜だったからシルエット程度しか見えなかったけど、ほぼ球体の体に2~3本の翼がついていて、それを激しく動かしている。給水塔とほぼ同じくらいの大きさだったから、普通の鳥じゃないってのはすぐ分かった。
もっとよく見ようと1階から双眼鏡を持ってきたんだけど、その時にはもういなくなってたから詳細な姿を見る事は叶わず。でも叫び声自体は夜が明けるまでに数回聞こえてきた。
翌日その事を親に話してみると、意外な返答が。
「へー。まるでアガボウノカミやね」
「アガボウ?」
アガボウノカミ、漢字だと夜泣神と書くらしい。曰く、この地域の郷土史にちょろっと出てくる神で、これが叫び声をあげると、止まっていた場所にその回数に応じて凶事が起こるのだとか。携帯で調べてみると、出てきたのは丸い体の一部に顔のパーツや手足が密集したキモいモンスターだった。たしかに丸っこい体は夜に見たものと同じだが、翼はどこにもない。
「ま、大きな鳥と見間違えたんでしょ」
そう言われると否定はできない。その時は、やっぱ双眼鏡でしっかり見れていればなーなんて思いながら学校に行ったんだが……。
その日の夕方、自転車で家に帰っていると我が家の方向から煙が立ち上っている。猛烈に嫌な予感がして急いで向かうと……小学校が燃えてた。
ちょうどあの変な生き物がいた真下の教室(たしか理科室だったと思う)から黒煙がモクモク上がってて、消防士が放水を始めていた。
俺も野次馬に混じってその様子を見てたんだけど、当然頭には夜泣神の事がちらついている。
そして中で何かが爆発したのか、黒煙が噴き出す理科室の中が一瞬赤く発光した瞬間。
“ホワァァァァァァァッッァァァ!???”
またあの叫びが聞こえた。例によって爆音で、それもすぐ近くから。
声のした方を振り返ると、野次馬の群れから少し離れたところにいるサラリーマン風の男の頭がぐらぐら揺れている。小太りのそいつは顔を天に向けて口を大きく開けたまま、しばらく頭を揺らしていたかと思えば、その姿勢のままビデオの早送りのような速度で歩き去ってしまった。
以上が俺が体験した話。それ以降小学校で変な事件とかも起こってないし、あの叫び声も聞いてない。
けど怖いのが、あの叫び声って俺にしか聞こえてなかったぽいんだよね……。あんだけデカい声で叫んでりゃ絶対俺以外の人間も聞いているはずなのに、誰も気にしてなかったし……。なにかアイツと通じるものでもあんのか?って事で、今でも叫び声やサイレンを聞くたびにドキっとしてしまう。
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