第7話 リンク

 ふと気づくと、目の前に扉があった。ところどころ錆びた鉄の扉。どこかで見たような気もするが、思い出せない。

 

 ポケットから取り出した鍵を回し扉を開ける。すると梅雨明けのまだ少し湿った風が頬を撫ぜた。

 雲一つない青空に目を細め、視線を下の方にやる。アスファルトの地面には雑草が勝手気ままに生えており、ここに人の立ち入りがあまりない事を示していた。

 

 目が光に慣れると、自分がかなり高い所にいるのだと分かる。これは……学校の屋上だ。目の前にはグラウンドが広がり、その向こうにはよく行くショッピングモールが見える。左に目を向けると、自分の家の屋根が小さく見えた。


 へぇ、屋上ってこんな風になっているんだなどと吞気に思っていると、自分の意思に反して体が動く。


 屋上のへりに立つと、グラウンドで走り回る生徒たちがよく見えた。今シュートを決めたのは俺の友達だ。グラウンドの隅の木陰で談笑しているのは、授業をサボっている連中だろうか。

 

 そうして数分その光景を見ていただろうか。体が再び動き出した。右足を前に出し、宙でぶらつかせたかと思えばすぐに引っ込める。それを繰り返す。


 まさか、飛び降り自殺?


 眼下にはコンクリートで舗装された道、あそこに落ちれば確実に死ぬだろう。体は決意がつかないかのように足を出して、引っ込めることを繰り返している。


 俺は死にたくなんてない。から離れようとするも、体の自由はきかず、ギリギリのところでとどまったままである。


 だが、不意にその動きが止まった。風にのって、なにやら焦った声が聞こえてくる。視線をそちらに向けると、グラウンドにいた生徒の1人がこちらを見て大声をあげていた。1人、また1人、事態に気づく生徒が増えていく。騒ぎに気づいた教師が大慌てで校舎に駆け込むのが見えた。


 体が強張る。だがそれは恐怖によるものではない。覚悟を決めたのだ。


 やめろ。やめろ。


 体がゆっくりと前に傾いていく。もはやグラウンドの騒ぎは視界に入らない。ただ真下の地面だけを見据えている。


 そして。


 屋上から足が離れた。






「……!」


 目を開けると、俺は机に突っ伏していた。どうやら授業を受けているうち、寝てしまっていたようだ。


「うるさいなぁ……おーいちょっと窓閉めて」


幸い寝ていた事は教師にはバレていなかったようで、グラウンドの大声に顔をしかめながら窓の方を見ている。いつもはそんな事気にしないはずだが、たしかに今日はやけにグラウンドの方が騒がしい。


 それにしても、嫌な夢だった。風の感覚、体の震え、グラウンドの喧騒。そういったものが今でも生々しく記憶に残っている。

 俺疲れてるのか? そう思って何の気なしに窓の方に目をやった瞬間。


 落ちてきた彼女と目があった。

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