第89話 開けるなって

 中学生の時、当時付き合っていたGくんに誘われて、近所にあった廃屋探検をする事になりました。廃屋と言っても、田んぼと山の境目でひっそりと自然に同化していた、小さな作業小屋といった風体の建物です。

 メンバーは私とGくん、それと私の友達のAちゃんと、Aちゃんと付き合っているOくんの4人。あけすけに言ってしまえばWデートで、廃屋探検もそれ自体がメインではなく、デートコースの1つだったんだと思います。

 さて、夜の8時に廃屋から最も近いGくんの家に集まった私たちは、各々懐中電灯を持って廃屋へと向かいました。夏の8時とはいえ辺りは大分暗くなっており、遠くからは祭囃子の練習の音が聞こえていたのを覚えています。それ以外は……Gくんの手の感触にドキドキしていた事しか記憶にありませんね(笑)。

 5分もせずに着いた廃屋の扉をGくんが開けると、かびた臭いが鼻を突きました。風雨に晒されて、木の部分が腐っているのでしょう。Oくんが一歩踏み出すと、床が何とも嫌な音を立てて軋みました。

 懐中電灯で照らされた室内には何もなく、錆びてボロボロになった工具がいくつか散らばっているだけです。外から入ってきた風にあおられて、誰かが捨てたお菓子の袋がカサカサと動いていました。

 さすが男の子……とほめるべきなのか、GくんとOくんは臆する様子もなく室内に入り、あちこちに懐中電灯を向けています。そしてその光が最後に向いたのは、部屋の奥にあったもう1つの扉でした。


「ここ入ってみようぜ!」


 小屋の大きさ的に、部屋がもう1つあるというのは分かっていました。しかしかびた臭いが充満する小屋の、さらに奥へ入っていくのは、ためらわれます。しかし男子2人は異様に高いテンションのまま、私とAちゃんの手を引きました。


「よーし、じゃあ開けるぞー!」


 まるでプレゼントの入った箱を開けるようなテンションのGくん。その手がドアノブにかかり、勢いよく扉が開かれます。

 そしてその瞬間



 

 開けるなって言ってるだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!





 と、男の人の大声が響き渡りました。

 突然の事に全員パニックになり、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら小屋から飛び出し、一目散にGくんの家へと逃げ帰りました。

 十分灯りがあるところまで戻ってきた安堵感で、涙目のAちゃんと抱き合っていると、男子2人の様子がおかしい事に気づきました。お前が仕掛けたのか、いやお前の方こそ騙しやがったなと互いに罵りあい、今にも喧嘩を始めそうな雰囲気です。

 とりあえず2人を落ち着かせて話を聞いてみると、とんでもない事が発覚しました。なんと2人は日中にあの小屋を訪れており、私たちを脅かすための仕掛けを用意していたというのです。まぁ中学生にできる仕掛けなのでそんな大したものではなく、Gくんのスピーカーを奥の部屋にセットしておき、私たちが入ったタイミングでOくんがこっそり音声を流す、という単純なものでした。しかしあんな場所でいきなり人の叫び声が聞こえてきたら、誰だってびっくりします。

 じゃああの男の人の声がそれだったんだ、と聞くと、2人はそろって首を振りました。事前の打ち合わせでは女の人の叫び声を流す予定だったようで、そこでまったく別の音声が聞こえたからこそ、お互い相手に騙されたと思ったそうです。

 Gくんの子供っぽさには幻滅しましたが、そうなると気になるのがあの声の主です。GくんとOくんでないのなら、一体あの声は誰のものだったのでしょう。隠れていた生身の人間のものか、もしくは――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る