第12禍 猫ドア
ヤバいヤバい! 今マジで見ちゃった!!1!
10年以上経った今でも、数枚の写真と共にネット上で語り継がれるとある話―—「猫ドア」。
それは、ネット掲示板2ちゃんねるに立てられたスレッドの一つ、[死ぬほど怖い話を聞かせてくれpart220]に突如書き込まれたこのようなレスから始まった。
うちの猫ドアからオジサンが頭出してた! 眼鏡かけてて髪がほとんどない波〇さんみたいなやつ! 俺が気づいたらすみませんって言って引っ込んだ!
ギャグとしか思えないその描写にスレの住人たちは冗談だと思ったのか、数人から書き込み主を茶化すようなレス=返信がついた。[死ぬほど怖い話を聞かせてくれ]というスレッドは掲示板以外でもその名を知られており、こうやってあからさまな嘘を書き込みにくる者は珍しくなかったのだ。
しかし書き込み主はスレ住人からの茶化しを気にかける様子もなく、興奮した様子でドアの向こうに何もいない事、そのオジサンに見覚えは無い事、飼い猫は部屋の隅で眠っている事などを次々書き込んでいく。
すぐドア開けたのに何もいない件
え、なにあのオジサン……全然見おぼえないんだけどgkbr
(スレ住人のレスに対して)見間違えじゃねーよ!!!笑 うちのぬこは俺のそばで絶賛就寝中……飼い主のピンチやぞ!
短時間に10件以上の書き込みをしている事から、荒らしだと判断して無視を呼びかける住人も現れる中、
また出た! 真顔でこっち見て引っ込んだ!コエー!!
再び男の顔が現れたという書き込み。大半の住人はすでに飽きて別の話題に移っていたが、まだ数人はその書き込みに興味を持っていた。
男の正体は地縛霊に違いない、いや書き込み主に恨みを持つ幽霊だと好き勝手な推測が飛ぶ中、住人の1人がもう一度現れた時にカメラで撮影して見たらどうか、と提案する。
たしかに……二度ある事はっていうもんな
おk ちょっと撮ってみるは
それを最後に、今までは十数秒に一回あった書き込みがぱたりと止んだ。
そして10分後。
よっしゃ撮れた! まじではっきり写ってる!
そのような書き込みと共に、1枚の画像が投稿された。今までは反応しなかった住人達も、その書き込みに反応して画像を開いてみる。
そこに写っていたのは、おそらく30代前半くらいの男性が猫ドアに頭を突っ込んでいる様子だった。
くだらね
釣り乙
だまされたわ まぁ面白かったのは認めてやるよ
嘘の話題=釣りだった事に呆れる住人達。先ほどまではレスすべてに反応していた書き込み主がまったく書き込みをしなくなったのも、これが釣りである事を示していた。
なぁ……543(件の画像が添付された書き込みの番号)の画像なんかおかしくね?
だが、スレッドの終盤、住人の1人が再びこの画像の話題を持ち出す。
実は書き込み主が最初に住人のレスに答えていた時、部屋の全体が写った画像を投稿していたのだ。その画像には男の顔が出てきたという猫ドアも写っていたのだが、周りの物と比較すると明らかに大きさがおかしい。猫ドアは一般的に縦横20cm以上のサイズのものが多いが、画像の猫ドアはどれだけ大きく見積もっても縦横10cm程度のサイズしか無い。人の頭が通らないのはもちろん、この大きさでは猫も満足に出入りする事はできないだろう。
おかしいのはそれだけではない。書き込み主が頭を猫ドアに突っ込んでいると思われる画像だが、猫ドアの隙間からわずかに見える首は地面の方を向いているにも関わらず、体はほぼ正面を向いている。普通首を大きく捻ると体もその方向に向くが、画像ではまるでそのような様子はない。
そして極めつけに部屋全体を写した画像の明度を上げると、部屋の奥の暗闇に奇妙なものが写っている事が分かった。カメラの方をじっと見つめている猫が2匹、そのうちの一匹は首が無いように見える。そしてそのすぐそばには裸足の足が2本、猫と寄り添うようにして立っていた。
続く[死ぬほど怖い話を聞かせてくれpart221] ・[死ぬほど怖い話を聞かせてくれpart222] ・[死ぬほど怖い話を聞かせてくれpart223]もこの奇妙な画像についての話題で持ちきりだったが、書き込み主は最後まで姿を現す事は無かった。そして1連のスレの流れは、2枚の写真と共に怪談[猫ドア]として現在まで語り継がれている……。
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