第96話 フラッシュ・ゴースト
これから話すのは私が30年間ずっと追ってきたある現象、その一例である。
――O府在住30代男性の証言
ちょうど5年前の事でした。出張に必要な書類を作成するのに手間取って、いつもより遅い時間に会社から帰ってきたら、マンションの入り口付近に人だかりができていたんです。何かあったんですかって近くにいたサラリーマン風の男の人に聞いたら、これから人が死ぬみたいなんですよーって答えが返ってきました。
へー人が死ぬのかー、まぁ疲れてるしさっさと風呂入ろって思ってマンションのエントランスに入ったところで、背後から凄い音が聞こえてきて、慌てて振り返ったらさっきまであんなにワイワイしてた人たちが全員いなくなってて、代わりに男の人が地面で潰れてました。あとから聞いた話ですが、その男の人はマンションの住民でも何でもなくて、近くに住んでた高校教師だったみたいです。監視カメラには自殺の数秒前に落下地点で1人立ち止まっていた僕の姿が映っていたみたいで、間一髪でしたねって警察の人に言われましたよ。
―—S県在住20代男性の証言
前の彼女にプロポーズした時、フラッシュモブを依頼する事にしたんす。まぁ若かったし初めての彼女で浮かれてたんで。たしかそこそこいい値段のするところにお願いして、30人ほどダンサーの人を用意してもらいました。
途中過程は省いて結論だけ言っちゃえば、プロポーズとフラッシュモブは大成功でした。こっちもいっぱいいっぱいだったんではっきりとは覚えてないけど、ダンサーの人も30人ほどの予定だったのが100人くらいいて、サービスしてくれたんだなぁと。しかもプロポーズが終わって、俺と彼女がその場を離れるまでみんなで拍手しててくれたんですけど、おめでとう!おめでとう!!ってもう絶叫レベルで叫んでくれる人たちまでいて、ほんとにあの会社に頼んでよかったなって心の底から思ったんですけど……。
それで後日会社まで改めてお礼に言ったら、担当の人が微妙な笑顔を浮かべながら俺をブースに連れ込んで、今からの話は他言無用でお願いしますよっていきなり。
担当さんが言うには、用意したダンサーは本当に30人だけで、あとの70人ちょっとについては全く知らない。最後に叫んでいた人たちもうちのスタッフじゃなかったって事らしいです。
他言無用なのに話してよかったのか……?
……もう彼女とは離婚したんでセーフでしょ、多分。
―—T都在住50代女性の証言
私は毎年市民マラソンのスタッフをやらせてもらっているんですけどね、その年だけはなぜか途中リタイヤが異常に多かったんですよ。ゴールした人たちも、皆おかしいくらいにヘトヘト。もう10年は走っている常連さんですら、フラフラの状態でゴールする有様でした。
気になって常連さんに話を聞いてみたら、スタート直後から飛ばす異様に速い先頭集団がいて、それですっかりペースを崩されてしまったと言います。
でも常連さんの前にそんな集団はゴールしてないんですよ。ぽつぽつと数人の塊でゴールしたのが20人ほどいたくらいで、常連さんが話していたような数十人以上の集団なんてどこにもいませんでした。
途中の給水所にいた人たちに確認してみると、途中まではたしかにその集団は存在していたようです。見た人いわく、給水所には目もくれずに、軽快に走り去っていったと。ところがある地点からぱったりと見たという人が消えてしまったんです。数十人の人間が一瞬で消えるなんてありえないってことで、今でも私たちの間では語り草ですよ。
いかがだっただろうか。この「何十人もの人間が突然現れ、そして突然消える」という現象の体験報告は、1890年スイスの街バーゼルでの報告まで遡る事ができる。場所や時間を問わないこの奇妙な現象には、未だ不明な箇所が多い。
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