第95話 失敗したのに
つい数日前の事。
俺が友人と自宅で勉強をしていると、棚の上に置いていた携帯が鳴った。
画面を見てみると、そこにはBの名前が。この時点で俺は少しおかしいな?と思った。
Bは高校時代の同級生だが、特別親しかったわけでもない。何か用事がある時だけ言葉を交わすような、本当に"ただのクラスメイト"という関係だった。同じ大学に行くという事で一応連絡先だけは交換していたが、この2年間、連絡はおろか姿を見た事もほとんど無かったはずだ。
今さら何だろうかと思いながら電話に出ると、
『なぁ、助けてくれよ! お願いだよ! 友達だろ!? なぁ!?』
開口一番がそれかよ、と吹き出しそうになったが、とにかくBは尋常じゃないくらいに焦っていた。助けてとだけ言われても意味わかんねぇよとか、友達っていうほどの関係じゃねぇよとか言いたい事は色々あったが、それを許さない切羽詰まった口調でBは話し続けた。以下がその時聞いた話だけど、正直意味わからない部分もあったから、そこは俺なりの解釈で補足している。
どうもBはいつもつるんでいるグループで、二つ隣の県にある古い霊園に肝試しに行ったらしい。それくらいなら大学生の悪ふざけというありがちな話なのだが、このグループというのが大学でも有名な不良の集まり。今まで知らなかったが、Bもその中の1人だったようだ(もっとも電話でのBの言葉を信じるなら、無理やり付き合わされていただけらしいが)。
話を戻すと、霊園についた不良たちは持ってきた酒で酒盛りをはじめ、酔った勢いで墓石を蹴ったり供え物を散らかしたりと大暴れ(Bは止めようとしたと言っていたが……本当か?)。しまいにはネットで有名な降霊術を試して、本当に幽霊が出てきたら動画に撮って一儲けしてやろうぜwwwという流れになったらしい。
それで実際にやってみたものの、幽霊どころか動物の一匹すら出てこないのですっかり白けてしまって、その日は解散という事になったそうだ。
『失敗してんだよ! 何も起きてないんだよ!』
やたらそこを強調するBをなんとか宥め、話を先に進めさせる。
霊園から家に帰ってきたB。しかし、この時すでに異変は起こっていた。霊園には2台の車で行ったそうなのだが、もう1台に乗っていた数人と連絡が取れない。下宿先にも戻っていないし、電話も繋がらない。どこかで事故ったかとネットニュースを一通り漁ってみても、事故のニュースなんてどこにもなかった。
まさか犯罪に巻き込まれたのか? けど20を超えた若い男女複数を何の痕跡も残さず消す事なんてできるのか? しかし実際問題誰とも連絡が取れないのは間違いなくおかしいだろ! なんて不良グループ内で言い合っているうちに、残っていたメンバーの中で最年長だったCと不意に連絡がつかなくなった。さらに続けざまにCの彼女のF、Bの後輩のHも忽然と姿を消したという。そしてBと直前まで喋っていたJが個室トイレからいなくなった時、ようやくBは取り返しのつかない事態になっていると気づいた。
『なぁこれ絶対○○○○様(伏字・前述の降霊術)のせいだよな!? でもおかしいんだよ絶対に成功していないはずなんだよ失敗したはずなんだよ何でこんなことになってんだよなぁ助けてくれよ友達だ――』
その瞬間、今まで黙ってペンを動かしていた友人が突然俺から携帯を奪い取ったかと思えば、聞いたことのない冷ややかな声でBに向かって話し始めた。
「○○○○様って何か知ってるか? そこらの低級霊を呼び寄せるしょぼい降霊術だよ。それが失敗したってどういう意味か分かってねぇだろ。低級霊程度じゃ近寄れもしないやばいのがそこに居座ってんだよ。そいつに向けて低級な霊を呼ぶための儀式――作法をしたんだお前らは。下手するとこっちまで巻き込まれるんだよ二度と関わんな」
Bは何かを叫んでいたが、友人は有無を言わさず通話を切った後、実にスムーズに着信拒否設定をしてから携帯をこちらに返してきた。絶対そいつに関わるんじゃねぇぞの言葉と共に。
オチから言ってしまえば、その後こっちの身に怖い何かが起こる事はなかった。だからこの話を非常に客観的に見れば「突然昔の知り合いが電波発言をかましてきて、それに友人が電波発言で応戦して着拒した」という身も蓋もないストーリーになる。それではあんまりなので補足しておくと、不良グループが行方不明になったのは本当だった。特に最初の車ごと消えた数人については全国ニュースでも流れたという。Bの安否も気になったが、そちらは友人に止められた。
ちなみに、友人曰く不良グループがやった事は「一般市民がスターリンを手招きで呼ぶ」ような事らしい。いまいち分からないような分かるような例えだった。
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