第94話 24

 中学生の頃、好きだった動画配信者を真似てゲーム実況をしていた時期がある。垂れ流しのプレイに中学生の拙い実況をつけただけの低クオリティな動画がメインだったものの、最終的にはチャンネル登録者1000人を超えていたと思う。もっとも、大人になった今では、公表していた女子中学生という肩書きによる集客力が大きかったのではないか……なんて邪推をしてしまうのだけれど。


 20本くらい動画をあげて、ようやく色々慣れてきた頃から、動画に変なコメントがつくようになった。


 24しました


 動画を投稿すると、数分経たずにこれだけがコメントされる。

 24しました? 24時間私の動画を待っていてくれたって事なのかな? と初めは好意的に受け止めていたけれど、学校で唯一私がゲーム実況をしている事を知っている友達に話すと、


「それ荒らしだよ!」


 どうも24というのは24つーふぉー、つまり通報しましたという事らしい。本来なら犯罪や違反行動をした人に使われるネット用語が、どうしてか私の動画にコメントされているという事だった。たしかに中学生の私はネットリテラシーもあやふやで、気づかないうちに何かをしでかしていたのかもしれない。けれど当時はそんな事に考えが及ばず、ただただ首を捻るだけだった。


「そのままにしてたらもっとひどいこと言われるかもしれないから、今のうちにブロックしちゃえ!」


友達の言葉通り、そのコメントをしている“・”という名前のユーザーをブロックして、私と他の人にコメントが見えないようにしておいた。

 けれど、その次の日に投稿した動画にも、


 24しました


 というコメントがついた。ユーザーはデフォルトのアイコンに“・・”という名前。ブロックされた事は分からないはずなのに、他のアカウントでコメントをしたらしい。友達は警察に通報しようと言ってくれたけれど、正直こんな事で警察が動いてくれないのは分かっていた。それに今のところは変なコメントが1個つくだけだし、ほっといてもいいんじゃないかとも思っていた。どうせ別のアカウントでコメントをしてくるなら、ブロックしても変わらないし。


 放置するようになってからも、相変わらず24しましたのコメントはつき続けた。途中でちょっといらずら心が出てきて、学校が台風で休みの日には朝の10時くらいに動画を投稿したり、頑張って夜更かしして深夜の2時に動画を投稿したりした時もあった。そんな時も、数分経たないうちに例のコメントがつく。害はないけれど不気味だった。


 チャンネルを作ってからもうすぐで1年っていう冬の日。学校から帰ってすぐに撮影を初めて、夜の9時に動画を投稿した。そのままスマホでSNSを見ていると、動画サイトの方からコメントがついたと通知が来る。いつもならほっとくんだけれど、一瞬見えた通知の内容がいつもと違う気がして、動画を開いてコメントを確認してみた。


 42ました


 翌日学校に行くと、緊急全校集会で体育館に集められて、私の学年の子が車に撥ねられて意識不明の重体だと聞かされた。コメントの変化とその事件の起こったタイミングがあまりにドンピシャで、とても偶然と思えなかった私は、家に帰るとチャンネルをすぐに削除した。まだ動画のオリジナルは手元に残っているけれど、これを今さら投稿する気はない。


 ここから余談。車に轢かれた子は事件の数週間後に目を覚まして、今は後遺症もなく元気に暮らしているそう。そう聞くとやっぱりコメントと事件は関係なかったのかなと思いつつ、チャンネルを削除したからこういう結果で終わったんじゃないのか、と不謹慎な事も考えてしまう。

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