第20話




午前中の仕事を終えるまではなんて事のない日だった。


なぜこんなことになってしまったのか。




いつものように移動前に光莉さんからミルクティーを受け取って、

光莉さんの運転で次の現場に移動していた。


受け取ったミルクティーはまだ冷たかったけど、

光莉さんがいつも水滴をきれいに拭いてから渡してくれる。


そしていつものようにSNSのチェックの時間だ。


蒼人くんのおはように和んでいると、それは突然やってきた。


メッセージが受信され、差出人を確認すると…


"廣野圭斗"の文字が目に入る。



私は声もなく頭を抱えた。


まだ内容を確認していなかったが、前回のメッセージの流れからどんな内容なのか想像がついてしまったからだ。


恐る恐るメッセージを開くと、思った通りの内容がそこには書いてあった。



『めぐみちゃん、お疲れ様です!今日稽古が早めに終わるんだけど、

もしよかったらご飯行きませんか?もちろんめぐみちゃんの仕事の予定もあると思うので

断ってくれても大丈夫です。返事、待ってます。』



圭斗くんからのご飯のお誘いが来てしまった……!


そんな機会なんてあっても連絡が来ることはないと思ってたけど、

まさか本当にお誘いがくるなんて…。



普段"橘晴稀"なんて有名人と二人でご飯に行ったりしている私が言えたことじゃないけど、

もし誰かに見られたらどうしたらいいの!?


そもそも二人で話すなんてできる!?


私一人で決めることはできないと思い、光莉さんにすぐに相談することにした。


「光莉さん、ちょっと相談があるんですけど…」


「ん?どうしたの?」


まずこの前颯汰くんに呼ばれて舞台俳優さんたちの飲み会に行ったこと。


そこで圭斗くんと連絡先を交換したこと。


今日圭斗くんからご飯のお誘いがきてることを順に話した。


「なるほど~?別に行ってきても大丈夫よ!いつも橘くんとご飯に行ってるのと変わりないわ!」


「そ、そうですよね…」


「マネージャーとして特に止める理由はないかな。めぐみの好きにしていいよ」


「ん~~、悩みます。俳優としての圭斗くんは尊敬してるし、

仕事の話は聞いてみたい気持ちもあるんですけど…。なんか苦手意識があるいうか…。」


「めぐみは橘くん以外に仲の良い同世代の男の子いないからっていうのもあるんじゃない?」



確かに…。


光莉さんの意見は最もだった。


あいさつ程度の会話をすることはあっても、打ち上げに同席していても特に仲良くなる、という事が無かった。



私は今までがっつり恋愛ものの作品に出たことがないし、出ていたとしても主人公の親友ポジションなことが多い。


今後そういう仕事が来ることもあるだろうし、同世代の男の人に少しでも慣れた方がいいかもしれない。


ご飯に誘ってくれたことと仕事のことは全く別のことだけれど、“今後の仕事の為の経験”と思うとこんなチャンスは無いだろう。



それに勝手に苦手に思っているだけで、

光莉さんの言う通りこれまでそういう機会がなかったからどう対応していいのか分からないだけ、という気もする。



「確かに。そうかもしれませんね!舞台のお仕事についても聞いてみたいし、行ってみようと思います!」


「了解!お店はどうする?いつものところ行くなら連絡しておいてあげるけど」


「確認してみますね!」




『お疲れ様です。

お誘いありがとうございます!

是非ご一緒したいです。

場所はもう決めていますか?』



返事を送って、ミルクティーを飲んで窓の外を眺めていると、すぐに返事が来た。



『本当??断られるだろうな、と思ってたからすっごく嬉しいです!

場所はまだ決めてないけど、僕がよく行くお店はどうですか?料理はもちろん、美味しいスイーツもありますよ』



美味しいスイーツ。


その心躍る文字を見たら、断る理由は無くなった。



『是非そのお店に行ってみたいです!』


『じゃあそこにしましょう!場所はURLを送りますね!僕の名前で連絡しておくので、着いたら僕の名前を伝えて下さい。楽しみにしてます。』


『ありがとうございます!わかりました。

私も楽しみにしてます。』



甘いものにつられたような形で、圭斗くんのとご飯が決まった。


晴稀くん以外の男の人と2人でご飯に行くなんて初めてのことで、今更ながら緊張してきた。



そういえば圭斗くんはどうして私をご飯に誘ってくれたんだろう。


テレビの仕事に興味があるのかな?


まあ、いっか。


色んな人の話を聞くことはプラスになることが多いよね。



そんなふうに思いながら、少しぬるくなったミルクティーを飲んでいた。






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