第21話



圭斗くんが予約してくれたお店に向かっている最中、既に到着して中で待っていると連絡がきた。


「遅くなりましたっ!」


個室のドアを開け、手前の席に腰を下ろした。


「全然ですよ!絶対断られると思っていたから、今日来てくれてめちゃめちゃ嬉しいよ〜!」


「せっかくお誘い頂いたので…!圭斗くんが良ければ、舞台のお話とか聞きたいです!」


「お!舞台も興味ある感じですか~?」



とりあえず注文を済ませて、料理が運ばれてくるまでの間に自然と仕事の話になった。



「舞台と映像のお仕事、どっちが好きですか?」


気になっていることがありすぎて、よくあるインタビュー雑誌のような質問をしてしまった。



「うーん、結論から言うとどっちも好きですかね!役者始めた頃は、映像の仕事の方がいいなって思っていたんだけど、

舞台ってその場でお客さんの表情、リアクションが感じられるのですごく好きになったな〜!」


「私は目の前にお客さんがいる状態でお芝居をしたことがないので、考えるだけで不安で緊張します…!」



「僕も最初はそうでしたよ!もちろん、今でも緊張しますけど(笑)


初めのころの緊張でガチガチって感じじゃなくて、程よい緊張感というか…。

最後のカーテンコールを見ると、頑張ってよかったなー、喜んでもらえてよかったなーって思うんだよね」


「それは…素敵な景色なんでしょうね!」



カーテンコール。

舞台終演後に行われる、出演キャストが登場しお客さんにあいさつをすること。

この時にお客さん側が立ち上がって拍手を送ることを"スタンディングオベーション"という。素晴らしかった、感動したなどお客さん側からの最大限の賛辞である。


私は舞台からの景色は知らないけれど、観客の目線では何度も見たことがある。


やり切った気持ちとお客さんの喜んでいる表情を同時にその場で感じることができる機会はそう多くはない。


映像は場所も時間も変えることができるし、表現できる幅が広い。

たくさんの人に見てもらえることも映像の良いところだと思う。



急にこんなことを聞いてしまって申し訳なくなった。


「ごめんなさい」


「え?どうしたの?」


「えっと…失礼な質問だったかなって…」


「そんなことないよ!僕はめぐみちゃんが舞台の仕事にも興味があって聞いてくれたなら嬉しいなって思いましたよ!

あ!もし舞台に興味あるなら今度僕が出る舞台、見に来ませんか?」


「え、迷惑にならないかな…?」


「あー…、めぐみちゃん目立つもんね?」


「あ、そこは大丈夫なんだけど…」


「そこ大丈夫なんだ!?じゃあめぐみちゃんさえよければ是非来てください〜!」


「……ちなみにどんな舞台なんですか?」


「庭球!っていう漫画原作の舞台!

…めぐみちゃん漫画とか読みます?」



て、庭球!?

そういえば圭斗くんも庭球の出演が決まっていたかも…


この間の当落で落選してしまって次の先行を申し込もうと思っていたところだ。

観に行けるならうれしいけど…



なんだろう。


蒼人くんが出ている舞台には他の子たちと同じようにしたい。


芸能人だから、みたいな特権を使いたくない。


私は他の子たちと同じように、普通の蒼人くんのファンでいたい。


……そっか…私…


蒼人くんが出ている舞台は、蒼人くんのファンとして観に行きたいんだ…。



しばらく一人で考え込んでしまっていると

圭斗くんの顔が目の前にあった。


「…めぐみちゃん?」


ち、ちかい!!

近くで見てもやっぱり格好いい…じゃなくて…


「あ!ごめんなさい!」


「大丈夫だよ〜。どうしたの?」


「庭球って人気の漫画ですよね!好きな漫画だったのでびっくりしてしまって」


「そうだったんだ!知ってる漫画なら話も分かりやすいと思うし、どうしますか?」


「えーっと…ごめんなさい!観てみたかったんですけど、またの機会にお願いしてもいいですか?」


「もちろん!なんなら僕が出て無い舞台でも、仲間が出てる舞台なら用意できると思うんで、気になるのあったら連絡してね〜!」


「ありがとうございます…」



庭球を観に行けるチャンスだったけど…


圭斗くんにお願いして蒼人くんが出てる舞台に行くのは、


自分の中で何か違うのだ。





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