第3話




仕事を終えて、晴稀くんと待ち合わせしているお店に向かった。


光莉さんの名前で予約してあったので、

店員さんに光莉さんの名前を伝えると席まで案内してくれた。



「あ、めぐみちゃん。お疲れ様」


「晴稀くんもお疲れ様!遅れてごめんね」


「全然!僕もさっき来たばかりだよ」



飲み物と料理は晴稀くんが先に頼んでいてくれたので、乾杯をして食べ始めた。



「晴稀くんとこうやって会うの久しぶりだね〜!それで、相談って?」


「そうだね、お互い忙しくなって会いづらくなったもんね。うん…。実は、杏澄ちゃんのことなんだけど。」


「あー。もしかして、“また”?」



彼は静かに頷いた。



「僕のどこがいいんだろう…。根暗だし、陰キャだし、オタクだし。こんな話できるのめぐみちゃんしかいなくて、いつもごめんね。」



そう。


人気急上昇中のイケメン俳優“橘 晴稀”の素の姿は、大人しくて控えめで、私と同じくアニメ漫画ゲームが好きなのだ。



「全然!私で良かったらいつでも話し聞くよ。晴稀くん、格好いいし優しいし、そりゃ好きになるよ〜!いつも否定的すぎ!」


「そうかな…。仕事中の僕は本当の僕じゃないよ。みんなが求めてる“橘 晴稀”を演じてるだけ。本当の僕を知ったらみんな幻滅するよ」


「そんなことないと思うけどな〜。そんなこと言ったら、私だってアニメ好きだし、2.5次元の舞台も好きだし、俳優さんだって好きだし。演じてるのは私も同じだよ。」


「めぐみちゃん…。」


「ほらほら!そんなネガティブなことばっかり言ってないで!杏澄ちゃんのこと考えよ?」


「そうだね、ありがとう。今回のドラマがカップルの役だから一緒にいることも多いからだと思うんだけど…。今日の朝早めに来たって行ってたでしょ?悠翔くんより30分早く僕には集合時間を伝えてたみたいで、僕が行くと杏澄ちゃんが来ていて、そこで好きだって言われたんだ。」


「なるほど、杏澄ちゃんも考えたね〜!それで?晴稀くんは杏澄ちゃんのこと、どう思ってるの?」


「僕は…。今は誰かと付き合うとか考えられない。お芝居がすごく楽しいんだ。こんな僕でも別人でいられる。」



晴稀くんは以前から何人かに告白されている。


初めて告白された時は、テンパって直ぐに断ってしまったそう。


ドラマの撮影中だったので、その後の撮影もギクシャクが続き大変になった。


それ以降どう断ればいいか毎回悩んでいるのだ。



「その気持ちわかるな〜!私も今は仕事が楽しい!もうすぐクランクアップだし、断るならその後が良さそうだよね。」


「そうだよね。うん、クランクアップの日に伝えるよ。ありがとう」



杏澄ちゃんへの対応をどうするか決められた晴稀くんは、さっきまでより気持ちが楽になった様で、食事を楽しんでいた。



「あ、そういえばね、颯汰そうたの初舞台が決まったんだ!」


「え!颯汰くんもう舞台決まったの??すごい!!おめでとう〜!!なんの舞台出るの?」



颯汰くんは晴稀くんの4つ下の弟。


メンズモデルをやっていたが、晴稀くんの影響もあってか、役者を目指していたのだ。



「実はね…キラキラプリンスの舞台なんだよ!」



「え?えーーーーー!?あの“キラプリ”!?めちゃくちゃ凄いじゃない!!誰役なの!?」



キラキラプリンス、通称“キラプリ”はリリースから大人気のアイドル育成アプリゲームだ。


アイドルを育てて、アイドルランクを上げながら、トップアイドルを目指す。時にはマネージャーの主人公との恋愛要素もある、楽しい要素満載のゲームなのだ。


2.5次元舞台が人気になり始めて、

キラプリも去年初めての舞台化が決定。


大人気アプリなだけあって、その人気はすごいものとなった。


再現のクオリティとアイドルものならではのファンサービスが売りで、初舞台の俳優さんも多かったが、一気に知名度が上がり他の舞台によく出ている人も多い。



真堂しんどう 守琉まもるくん!まさかこんな人気キャラに颯汰が選ばれると思わなかったよ!」


「え!?まもるん!?凄すぎ!!!でも、颯汰くんめちゃめちゃ似合いそう〜!!!最高じゃない!!!」



私も晴稀くんもキラプリユーザーで、リリースからずっとやっているゲームなのだ。


「まだ公表されてないから、誰にも言わないでね(笑)めぐみちゃんは誰かに言ったりしないとは思うけど!」


「もちろんだよ!颯汰くんのまもるん見たいな〜!キラステ自体、ちょっと気になってたんだよね〜!今度の舞台応募しようかな〜!」


「あ、それなんだけど…。関係者席で2人呼べるみたいで、めぐみちゃんが良ければ一緒に見に行かない?僕舞台は見に行ったことないし、めぐみちゃんがいれば心強いと言うか…」



晴稀くんの思いがけない言葉に、考えるよりも先に言葉が出た。


「行く!!!行きたい!!いいの!?」


「もちろんだよ!良かった〜!颯汰も喜ぶよ!」



蒼人くんが出ている舞台を中心に観劇しているので、気になってはいたものの行けていなかったのだ。



「舞台はいつあるの?」


「実はね、今キラステやってるでしょ?それの最後にシークレットでで来るんだ!直近だから、予定大丈夫かな…?」


「なにそれ!めちゃめちゃいい感じで颯汰くんが出てくるってこと??てっきり次の舞台で決まってるのかと思ったよ〜!」


「そうなんだ!颯汰いい役決まってよかったよ〜!」


「えっと、晴稀くんはいつなら空いてる?私の方がスケジュール合わせられると思うから、都合がいい日で大丈夫だよ!」


「僕は次の木曜がオフなんだけど、どうかな??」


晴稀くんの言葉を聞いて、スケジュールアプリを起動した。


「…すごい!あたしも木曜がオフ!最高だね!」



「良かった〜!後、最大の問題が…。僕達2人で行くと流石に目立つよね…?どうしよう?」


関係者席と言えど、一般のお客さんからも見える席なので、晴稀くんと私がいるところ見られたら、すぐにネットニュースになるだろう。



「その点に関しては任せて!いいアイデアがあるから!」



その後もアニメ、ゲーム、仕事の話をしたりして、その日は解散となった。



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