第7話





いよいよこの日が来てしまった。



今日はアフタヌーンの撮影日。


今回のドラマの告知は私1人で、一緒にドラマを撮った仲間たちは誰もいない。


とりあえず、当たり障りのないことを言えるようにしておかないと……。



楽屋で緊張していると、ドアのノックオンが聞こえた。



「本日アフタヌーンでご一緒するので、挨拶にきました。」



ドアの外で声が聞こえた。


今日私以外のゲストの情報聞いてなかったことを思い出した。


誰がゲストなんだろ?


「はーい!どうぞ……!?」



え?



嘘でしょ……?



ドアの扉を開けた私は固まってしまった。



「初めまして、紀田蒼人です。本日はよろしくお願いします。」


「伊原雅紀です!冬城さんとご一緒できるなんで感激です!よろしくお願いします!」




蒼人くんと雅紀くん……!?


私の目の前に現れたのは、紛れもなく私がいつもSNSで見ている彼らだった。



「あれ?冬城さん?大丈夫ですか?」


何も喋らない私をみて、蒼人くんが声をかけてくれた。



あ、あ、あ………


名前呼ばれたああああああ!!!


どうしようどうしよう!!!


こんな時こそ役入って平然を装わないと…



「す、すみません、大丈夫です。挨拶に来て下さりありがとうございます。冬城めぐみです。本日はよろしくお願いします。」



「僕達テレビはあまり慣れていないので、冬木さんもいらっしゃって良かったです」



私がいるから良かったです…!?


いやいや、私もう何も頭回らないよ…?


光莉さんが言ってたサプライズってこれの事?!



こんな大事なこと、事前に言ってくれないと困るよぉーー!!!



「私もあまりお昼の番組には慣れていないので、おふたりがいらっしゃると心強いです。」



「確かに!冬城さん、あんまりバラエティとかでてるイメージないですよね!俺結構冬木さんが出てる番組チェックしてるので!」


そう言って爽やかな笑顔を見せてくれる。


雅紀くんが私の出てる番組チェックしてくれてるなんて……


もう今日私、死ぬのかな……



「ありがとうございます。」


私もお二人の舞台拝見してます。と言いかけて、口を噤む。


これって言わない方がいい事…?なのかな?



「では僕達はこの辺りで。撮影始まりましたら、よろしくお願いします。」



「こちらこそ、よろしくお願いします。ありがとうございました。」




2人が去り、ドアを閉める。



私…


蒼人くんと会話した……?



ずっと会ってみたかった、話してみたかった蒼人くんが目の前いて、


私の名前を呼んでくれて、


手を伸ばせば触れられる距離に


蒼人くんが居た……?



急に全身が熱くなるのを感じた。



私、本当に蒼人くんと一緒に仕事できる日が来たんだ。


顔が自然と緩んで、真っ赤になっていた。



私かなり平然を装えてたよね…?

大丈夫だよね…?


蒼人くんのファンだってバレてないよね…?



というか、これからの本番も絶対に変な姿見られたくない…!!



バラエティ番組に対する苦手意識よりも、蒼人くんとの一緒の仕事で頭がいっぱいになった。



しばらくすると、楽屋に光莉さんがやってきた。



「めぐみ〜今日はミルクティー買ってきたよ〜」



「光莉さん!!!!ミルクティーなんて悠長なこと言ってる場合じゃないよ!!!!どういうこと!?さっき蒼人くんと雅紀くんが挨拶に来たんですけど!?」



「あ、もう挨拶来てくれたんだ〜!サプライズだよ〜サプライズ。ちょうど向こうも番宣で出るみたいだよ〜」



光莉さんの言葉を聞いてハッとした。


先週情報解禁した流行巡り番組。

そういえば、アフタヌーンと同じテレビ局だ。



「もう〜〜!!!心臓止まるかと思いましたよ!!!先に言って下さいよぉ!!!」


「ごめん、ごめん。先に言うと、それこそ今日までの仕事が手につかなくなると思ってね」



確かに…。


1週間前から蒼人くんとの仕事を知っていたら、私はずっと上の空だったかもしれない。


流石光莉さん。

私の行動をよく分かっていらっしゃる…。



「どうしようどうしよう!え!挨拶に来てくれた時、変じゃなかったかな!?メイクもしてもらってたし、衣装着てたし…。大丈夫大丈夫。えーっと…本番の席どこだったっけ?」


急に現実なんだと実感したら、


頭が更にパニックになった。



「めぐみ、落ち着いて。いつも通りにしてればいいのよ!あなたは可愛いし、みんなの憧れのモデルなのよ!大丈夫よ!」


「光莉さん…。うん、ありがとうございます!」



光莉さんに励まされて、落ち着いたのも束の間。


昨日の台本に書かれている座席をみて発狂した。



「え!?えーーー!?光莉さん!!!どうしよう!?私、今日蒼人くんの隣の席なんですけど!?」


「隣の席って……少し距離もあるし、2時間くらいのことでしょ?」


「いやいや、2時間ですよ!?蒼人くんが2時間横にいるってことですよ!?ずっと緊張しちゃうよ……」


慌てている私をみて、光莉さんは少し笑みをこぼし、深呼吸して話始めた。



「めぐみ、テンパっても大事なことは忘れないでね?舞台を見に行ってるってことは絶対言わないこと。もちろん蒼人くんのファンだってことも絶対言わない。それと番宣はしっかりやること。それ以外でちょっと失敗しても大丈夫!そこだけちゃんとやれればね!」


「…………分かりました。お仕事だし、ちゃんとやりたいって気持ちもちゃんとある。うん、頑張ってきます!」


「それでこそめぐみ!応援してるわよ!」



光莉さんの言葉はいつも私を落ち着かせてくれる。


これは仕事だ。


私一人の感情で、周りに迷惑をかけることだけは避けなければならない。


高校生の時からずっと見てきた憧れの人。


こんな形で出会えるなんて思わなかったから、正直心臓が飛び出しそうなくらい緊張してるし、今すぐ立ち去りたい様な感情にさえ駆られる。


でも同じくらい、一緒に仕事をしたいって気持ちもあるし、よく見られたいって思ってる。


今日の撮影、絶対に上手くやってみせる…!







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