第12話



今日最後の仕事を終えて待ち合わせのお店に向かうと、晴稀くん姿があった。


「お疲れ様~!待たせたかな?」


「お疲れ様!ううん、全然大丈夫だよ。…今日星南ちゃん来るんだよね…?緊張する…」


「どうしたの、改まって!いつも仕事してるじゃない!」


「そう。いつも仕事なんだよ…。本当の僕を見せても大丈夫か、仕事の時のままいくか悩んでる」


「素の晴稀くん見ても、そのままを星南は受け入れてくれると思うよ?」



晴稀くんがオタクで気弱なことを知っている人は数えられるほどしかいない。


スタッフさん達にもいつも気を使って優しい、みんな表舞台での顔と裏の顔も変わらない晴稀くんだと思っている。



だけど仕事の顔と、プライベートの顔が違うのは普通のことだ。



「そうだよね…。星南ちゃんも2.5次元舞台に興味が出たんだっけ?」


「舞台に興味が出たっていうよりは、出てる俳優さんのこと好きになったみたい!だから、色々話を聞きたいんだって!」


「なるほど、そうだったんだね。星南ちゃんが正直に話してくれてるのに、僕だけいつまでも演じてちゃだめだね」


晴稀くんの気持ちに踏ん切りがちょうどついたタイミングで、星南が入ってきた。


「お疲れ~!ちょっと迷っちゃって……って晴稀くん!?」


「うん、ここでよくご飯食べてるんだ!高校の時からの仕事仲間であり、趣味仲間!」


「そうだったんだぁ~!趣味仲間…?ってことは晴稀くんも2.5次元舞台好きってこと??」


「ちょっと違うかな。めぐみちゃんも僕もアニメとか漫画とかゲームが好きで高校生の時から気が合ったんだよね」


「そうなんだ!晴稀くんもめぐみんもそんな素振りなかったから全然気づかなかった!いいじゃんいいじゃん~!」


星南の反応にホッとしている晴稀くんにピースを送ると、彼は笑顔を返してくれた。


「僕の弟が2.5次元舞台の俳優をやっているから、色々話せることはあるかもしれないね。仕事以外でもこれから仲良くしてくれると嬉しいな」


「もちろんだよ!むしろ仲良くしてください!!晴稀くんの弟くん2.5次元舞台出てるんだ!さすが晴稀くんの弟くんだね!!


星南のコミュ力の高さと、偏見のなさで2人は仕事での付き合いから、友達になれたようにみえた。


私も星南とは仲のいい友達だったけれど、隠していた趣味を話すことができて、今まで以上に仲良くなれる気がしていた。



「めぐみちゃんから少し話は聞いたけど、2.5次元舞台にでている俳優さんが気になるんだっけ?」


「そうなの!これは運命かも~!って思っちゃったんだよね!一目惚れというか…」


「俳優さんの名前は?」


「伊原雅紀くん!」


「雅紀くん!弟が最近話していたような…。確か今度発表される舞台で一緒になるって言ってたかな…?」



情報解禁前の舞台で共演…!


私は何の作品が舞台化されるのか、わくわくした気持ちだった。


蒼人くんは、夏の舞台まで情報が出ているから、多分その作品には出ないだろうけど…。



「ごめん、弟から電話かかってきた。出てもいいかな?」


「もちろん!」

「大丈夫だよ!」


「もしもし、颯汰?どうかした?」


「はる兄ぃ~!ちょっと今からこっち来れない??」


「何かあったのか?こっちって…今どこにいるんだ?」


「今役者仲間とご飯来てるんだけどさ~!みんなはる兄が俺の兄貴だって信じてくれないの!!

そんなわけないだろ!って笑われるんだよぉ~!」


「颯汰、おまえ結構酔ってるな?迎えに行くから場所教えて」


「ええと…雅紀くーん!ここなんてお店でしたっけ~?」


電話を外して、晴稀くんが私たちに声をかけた。


「颯太、雅紀くんと一緒にいるみたい」


私たち三人は顔を見合わせた。

こんな偶然があるのだろうか…?


さっそく晴稀くんが気を利かせてくれた。



「僕も今ご飯食べてたんだけど、合流してもいいかな?」


「え!はる兄たちも合流してくれるの~!嬉しい~!お店のURLメッセージで送るから待ってるね!!」


そういうと電話は切れた。



「…とりあえず、ここのお会計を済ませて、向かおうか?」


晴稀くんは颯汰くんの元気さに少し疲れた様子だった。


「は、は、は晴稀くん!!!!ありがとう!!!!」


「そんな、僕は何もしてないよ。星南ちゃん、強運の持ち主なんじゃないかな」


「いやいや、晴稀くんがいなかったら、こんな話になってないからね!!やっぱり雅紀くんって運命の人なのかも~なんちゃって!」


「でも、なかなかないよ!こんなチャンス!星南!頑張って!私もサポートするね!!」


「ありがとう!めぐみん!!」


お会計を済ませた私たちは、タクシーで颯汰くんたちのいる場所まで向かった。





お店につくと、颯汰くんが外で私たちを待っていてくれた。


「あ!はる兄~!待ってたよ~!!それにめぐみちゃん!!一緒だったんだね!!…っとそちらはもしかして星南ちゃん…?」


「知っててもらえるなんて嬉しいな~!」


「もちろんですよ!!『私たちの恋日記』みてます!!いや~!こんな有名人来たら、

みんなびっくりしちゃいますよ!裏口から入って良いって言われてるので、こっちから入ってください!」


颯汰くんに案内され、そのままほかの俳優さんたちの集まる部屋についた。





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