第27話 嫩のはじめての特別を
「シロに会ったおかげで創作の道筋が見えてきたーっ! サキを黒幕にしてユキにそれを気づかせてスピカさんと一緒に悪霊の仕事をやっていく! 第二の人生がここでスタートじゃーい!」
莉央がなにやらブツブツ……いや、大声で意味のわからないことを発しているすぐそばで、私と嫩先輩は気まずく向かい合って座っていた。
あの後家に帰ったらまだ嫩先輩がいて、話があると言われて自分の部屋に戻ったはいいものの、なかなか口を開いてくれない。
どうしよう。正座してるからそろそろ足が限界なんだけど。
「……なさい」
「へ?」
「ごめんなさい。私、沙織ちゃんに色々とひどいこと言ってしまったんじゃないかって……今更気づいたのよ……」
あぁ、そういえばそうだっけ。
シロのことがあってすっかり忘れていた。
いや、嫩先輩とのことがどうでもよかったわけじゃなくて、シロと再会できた喜びと感動と驚きで忘れてしまっていただけだけど。
「でも、嫩先輩はそういう人だってわかってますから。気にしないでください」
「だめよ。私が気にするから」
キッパリと断られてしまった。
なんだか、今の嫩先輩はいつもの嫩先輩じゃない気がする。
とても芯があるというか、言葉や雰囲気に強さが感じられるというか。
「本当にごめんなさい。私、ようやく気づいたのよ。特別がなにかって」
「え……」
嫩先輩がいつもと違うと感じたのは、そこにあるようだ。
でも、本当にわかっているんだろうか。
ついさっきまでみんなは平等って思っていた人に特別がなにかって。
「私、あなたをだれにも渡したくないの」
「ぶふっ!?」
嫩先輩に似つかわしくないような言葉が飛び出て、私は吹いてしまった。
「あの真っ白な子に会って気づいたの。真っ白な子は沙織ちゃんにとって特別な子だとしても、私は絶対渡したくない」
「え、あ、あの、嫩先輩落ち着い」
「あの子以外にも、私以外だれにもなびいてほしくない。これが特別で、好きってことでしょ?」
力強く聞かれて、私は声も出せずコクコクと首を縦に振ることしかできなかった。
それでも嫩先輩は満足したようで、いつものように優しい笑みを浮かべている。
「よかった。沙織ちゃんに肯定してもらえて」
いや、よかったって言ってるけど、これ軽く脅迫っぽい気がするんだけど。
なんか逆にこわいよ。
これなら前の嫩先輩の方がよかったなぁ。
独占欲強めになっちゃってるし、どうしちゃったんだろう。
「あー、あの、ちょっといいですか?」
「ん? なにかしら?」
嫩先輩が言っていた真っ白な子は、多分シロのことだろう。
シロとなにか話したことはわかるけど、どうしてそこまで固執するのかはわからない。
でも、私にとってシロはお姉さんでヒーロー。
恋愛感情というより、友情の面が強い。
「えっと、その、シロのことなんですけど……恋愛感情はないですよ……」
「え」
「あと、私が好きなのは嫩先輩だけです……」
私が小さな声で頬を赤らめながら言うと、嫩先輩は目を丸くした。
「え……てっきり、私に愛想つかしてあの子のところに行くんだと思ってたわ」
「そんなわけないじゃないですか……嫩先輩にとって特別でありたいから、特別視してくれない嫩先輩がちょっとあれだったというだけで」
「そっか……そうなのね……」
嫩先輩はすごく安心しているようだった。
シロとなにを話したのかは知らないけど、私にとって特別な好きは嫩先輩だけだ。
はじめはシロと雰囲気が似ているから気になっていたというだけだけど、一緒に部活をして過ごしていくうちに、次第に嫩先輩本人に好意を寄せていた。
「ありがとう、沙織ちゃん。本当にごめんね。これからは沙織ちゃんだけを見るわ」
「えへへ、こちらこそありがとうございます。みんなに優しかった嫩先輩が変わったらきっと私以外の人はびっくりしちゃいますね」
「ふぉぉぉ! これはあれか仲直りのパターンですねわかります。ナマモノのジャンルもなかなかによき……」
空気を読まないオタク妹が介入してきたことによって、私たちの間に漂っていたピンク色のオーラがどこかへ消え去った。
それでも、この日常が好きだ。
嫩先輩は私だけ見ると言っていたけど、きっとそれじゃだめだ。
妹やシロや夕陽先輩とかと一緒にいることによって、私と嫩先輩の絆がどれほどのものか見られるんだろうと思う。
特別という感情は第三者がいてこそ成立するものだから。
「嫩先輩、うちのバカ妹がすみません……」
「ふふっ、いいのよ。にぎやかなのも好きだから」
だから、いつまでもこうしてみんなで過ごせたらななんて思う。
いつまでもというのは難しいかもしれないけど、きっと叶えてみせる。
そう誓いながら、バカ妹を部屋から追い出した。
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