第7話 沙織と二人の先輩たち
「……なぁ、僕場違いじゃないか?」
「いやいや、そんなこと言ったら私もですよ……」
嫩先輩に遊びに誘われたあと、夕陽先輩にもそのことを話した。
そうしたら、目を丸くしてしばらく固まってしまった。
……気持ちはすごくわかる。
それでも、しばらく経ったら「まあ、行ってやるか」と言ってもらえた。
本当に、夕陽先輩は付き合いがいい。
最初にいだいていた一匹狼という印象は、もうどこかへ消え去ってしまっていた。
「お待たせ~。あら、二人とも早いのね」
「まあ、時間の大切さは叩き込まれているので……」
寮生活を送っていると、なにかと時間を気にすることも多い。
時間に間に合わないと自分が困るだけだから。
そういう意味では、自宅から学校に通っている子が羨ましく思えてくる。
寮もいいところはいっぱいあるけども。
「二人とも可愛いわね」
「えっ」
「いや、僕の方はそんなことないだろ」
嫩先輩の視線は私たちの顔よりも下に向いているから、多分服装を褒められているんだろう。
いつもはお互いの制服しか見ていないから、新鮮に感じるのはわかる。
嫩先輩も白くてふわふわした上着がうさぎみたいで可愛い。
でも、私はというと……上着はともかく、中身はジャージだ。
私服はほとんど汚れてもいいような服ばかりで、このピンクのジャージが一番まともだったというだけで選んできた。
女子力がないにも程があるだろう。
それなのに「可愛い」だなんて、嫩先輩の見る目を疑ってしまう。
夕陽先輩はどこぞのロックなバンドみたいな格好をしているから、可愛いというよりはかっこいい部類だと思うんだけど。
「そ、それより……今日はどこに行くんですか? なにも聞いてないんですけど……」
「あら、そうだったかしら。ごめんなさい。今日は二人の行きたい場所に合わせようと思っていたのだけど」
「えっ」
そんなこと聞いていない。
聞いていたら、事前に二人で決めてきたのに。
ちらりと夕陽先輩の方を一瞥する。
やはり夕陽先輩も困っているみたいで、手を口に当ててなにやらブツブツつぶやいている。
必死に行き先を決めようとしているみたいだけど、はっきり言ってこわい。
直接は絶対言えないけど。
「それなら……競馬場に行くか?」
「へ? な、なんでですか……?」
「だって、二人とも馬術部じゃないか」
それはそうだ。間違っていない。
だけど、馬術と競馬は同じ馬が関わっていても全然違うものだ。
なんでそういう風に一緒のものとして考える人がいるんだろう。
「いや、でもそれなら夕陽先輩が……」
「僕のことは気にしないでくれ」
かっこよく言っているけど、私が気にする。
あと、これはちょっと言い方が悪いかもしれないけど、私は競馬には興味がない。
嫩先輩がどう思っているかはわからないけど。
それより、私は別に競馬が嫌いなわけではない。
競馬場に行きたくないというよりかは、馬が関わっているということで一緒くたにされたのが許せなかっただけだ。
まあ、馬は好きだから行っても私は楽しめると思うけど。
「うーん、それじゃあ図書館に行きましょうか」
「へ? 私は別に構いませんけど……私たちに合わせるって言ってませんでしたか……?」
提案しないと言っていた張本人が提案したことにおどろく。
私としては行き先が決まったことに安堵したけど、こうも意見をコロコロ変える人だったっけ?
「ごめんなさい。こうしてても行き先決まりそうになかったから……」
「あー……それは……そうですね……」
私は優柔不断だし、夕陽先輩もなにかを提案することは苦手そうだ。
やっぱり、嫩先輩は人のことをよく理解している。
多分最初に二人に合わせると言ったのは、二人の行きたい場所があればそこにするよって意味なのだろう。
嫩先輩はそういう人だから。
「そうだな。図書館なら僕の探している書物もあるかもしれない。そこにしようか」
「わ、私も……その……馬についての本があれば見てみたいかもです……!」
「よし、決まりね。それじゃあ行きましょうか」
なんだかよくわからない集まりだけど、それなりに楽しくなりそうだ。
でも、この辺に図書館なんてあっただろうか。
私が詳しくないだけで、もしかしたら近くにあるかもしれないけど。
もし遠出することになるとしたら、お金の心配が出てくる。
今月やばいんだよなぁ……
「沙織ちゃん、どうかした?」
「あ、い、いえ。なんでもないです……!」
でも、そんなこと言っていたらせっかく決めてくれた嫩先輩に申し訳ない。
自分の事情は飲み込んで、私は二人の先輩たちについて行くことにした。
この日をきっかけに、二人と仲良くなれたらいいな……なんて思いながら。
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