第22話 嫩のライバル登場?

 嫩先輩とDVDを観ていたのだが、まさかの魔法少女ものだった。

 莉央は、嫩先輩の趣味は魔法少女ものだと思ったのだろうか。

 それはなさそうだけど。


「面白かったわね〜。悪役の子に惹かれてしまう主人公……可愛いわねぇ」


 嫩先輩は主人公の親みたいな目線でこの物語を楽しんだようだ。

 まあ、高校生が小学生のことを見るとそういう感じになるだろう。

 それはまあいいとして、嫩先輩はこういうのが好みなのだろうか。


 ロリコ……幼女趣味だとしたら、私に勝ち目はない。

 だって、もう成長してしまっているから。

 でも、私の告白をOKしてくれたのだから、心配はいらないだろうか。

 悶々と一人で考え込んでしまう。


「どうしたの、沙織ちゃん?」

「ふぇっ!? い、いえっ、なんでもないですよ!?」

「……そう?」


 朝ごはんを食べ終え、お皿を洗う。

 嫩先輩の問いから逃げるようにして洗ったから、いつもより洗い方が雑になってしまった。

 あとで洗い直した方がいいだろうか。


「あの、先輩は……どういう人が好きですか?」

「え? いきなりどうしたの?」


 案の定、聞き返された。

 自分でもなにを訊いているのかわからない。

 私はどうしちゃったんだろう。


 でも、なんとなく理由はわかっていた。

 今朝見た夢とさっき観たDVDが小さい子つながりだったから、意識せずにはいられなかったのだ。


 夢は時に、自分の願望を映し出すこともあるという。

 でも大昔は、相手が自分を想ってくれていると相手が夢に現れると信じられていた。

 私が少しでもああなりたいと思って夢を見たのかもしれないし、嫩先輩が小さい子が好きで夢の中の私が小さくなったのかもしれない。


 ぶっ飛んだ思考だと自分でもわかっている。

 でも、そういう考えでもめぐらせていないとどうにかなりそうだった。

 嫩先輩は、他の人のこともよく見ていてよく褒めている。

 私だって嫩先輩のそういうところを何度も見てきたはずなのに、それが嫌になってしまったのだ。


 ――私だけを見て、私だけを褒めてほしい。


「どんな人って言われても……どういう人も好きよ?」

「……私のことは、特別じゃないんですか?」

「え? 私、だれのことも特別扱いするつもりはないわよ? どんな子でも尽くしてあげたいって思うから」


 ……そうだ。こういう人だった。

 わかってはいたのに。

 そう、みんなに平等に優しいことがこわいと感じていたのに。


 嫩先輩は、私が嫩先輩と付き合いたいという願いをかなえてくれただけなんだ。

 はじめから、私に特別な感情はいだいてくれていないとわかっていたのに。


「そ、そうですか。わかりました」


 今すぐにでもどこかへ逃げ出したかった。

 私は嫩先輩のことが……たぶん好きなのに、その嫩先輩から恋愛感情を感じられないのだから。

 恥ずかしさと絶望とで、頭がぐちゃぐちゃになってきた。


「大丈夫? 具合悪そうだけど……」

「だっ、大丈夫ですっ! 放っておいてください……っ!」


 ――ピンポーン。

 私が嫩先輩と距離を置こうとしていると、不意にインターホンが鳴った。

 こんな時に来客かと思ったけど、気が紛れるならなんでもいい。


「ちょっと出てきますね」


 嫩先輩にそう言って、玄関に向かう。

 妹やお母さんたちが帰ってきたのなら、鍵を持っているからインターホンなど鳴らさず勝手に入ってくる。

 それで来客だとわかった。


「はーい?」


 ガチャッとドアを開けて確認する。

 だが、私の目線では最初その姿を捉えられなかった。

 来客は……小さい子だったから。


「こんにちは」

「え、あ、はい。こんにち……」


 そこまでで言葉を切った。

 目を疑った。

 本来なら黒か茶色かどっちかであろうその髪が、異様に白かったから。

 まるで二次元の世界からそのまま飛び出したみたいな感じ。


 髪を染めているのかとも思ったけど、小学生くらいの子が髪を染めるだろうか。

 染めてたら学校からなんか言われるだろうし、それはなさそうだ。

 じゃあ、なんでこんな真っ白に?


「沙織は、この髪色に興味があるのね?」

「……その、声……」


 小学生にしては異様に大人びた口調。

 とても懐かしい、優しくて慈愛に満ちた声。

 嫩先輩と似ているけど、決して間違うことのないその声は――!


「……シ、シロ……?」

「ご明察。大きくなったわね、沙織」


 もう会えないと思っていた。

 その存在が、今、目の前にいる!

 その事実だけで胸がいっぱいになった。

 会いたかった。とてつもなく、会いたかった。


「うっ……うわぁぁぁん!」

「どうしたの? 大丈夫?」

「ごめん……ごめんね……私のせいで、シロが……!」

「そんなことはいいのよ。あなたを守れてよかったわ」


 私の目の前にいるこの白い子は、紛れもないシロだ。

 思わぬ再開に、あたしはいつまでも涙を流した。

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