夕陽目線での乗馬

 昔から色々なことがすぐわかった。勉強もスポーツも、回数を重ねることなく苦労せずいい成績が取れることが多い。苦手な教科や競技なんかもまったくない。自分でいうのもなんだけど、要領がいい方なのだと思う。だけど、それが当たり前だと思っていた。当たり前じゃないと気づいたのはつい最近で、その時にはすでに孤立してしまっていた。人と違うということは悪いことではないはずなのに、なぜか嫌われてみんなが遠ざかっていく。


 でも、かえってよかったのかもしれない。みんながそういう態度を取るのだということがわかったから。もう僕はこれから、人に期待することはないだろう。


 ☆ ☆ ☆


 花園乗馬クラブは今日も平和そのものだ。まあ、平和じゃなかった時なんてないんだけど。馬も落ち着いていて、落馬騒動もない。いい日になりそうだ。


「うわわわ……だれか助けてーっ!」


 ……さっそく平和をぶち壊す悲鳴が聞こえてきた。声の主は本当に想定外のことばかり引き起こす。僕がいるところからだと姿は見えないが、声でだれかわかる。女子の中でもひときわ可愛い声をしている。だけど、その中身は可愛さとは程遠い。ついでにいうと、顔もそれほど可愛くない。声が特徴的なだけだ。


 それはそうと、僕は声がした方へ歩いていく。助けようと思ったわけではなく、なにが起きたのか知りたいだけ。ようするに、好奇心で動いているのだ。そして、声がした厩舎の中をのぞくと、そこは水浸しになっていた。


「うわ……これはひどいな……」

「あ、夕陽さん……!」


 ことの張本人であろう沙織が僕の方に駆け寄ってきた。沙織の服もよく見ると濡れている。盛大に水をぶちまけたことが見てわかる。


「……一応聞くけど、なにがあったんだ?」

「あー、えっと、ムーちゃんにお水あげようと思ってたくさん入れたら……こんなことに……」


 沙織がチラッと見た先を見ると、青色のバケツがあった。おそらく、たくさん入れた水の重さに耐えられなかったんだと思う。なんでたくさん入れて持っていこうとしたんだ。


「じゃ、後片付けがんばれよ〜」

「手伝ってくれないの!?」

「なんで手伝わないといけないんだよ」

「えー、手伝ってよー。お願いー」


 沙織が泣きついてくる。正直めんどうくさい。このままだと永遠に泣きつかれそうだ。

 ぶちまけた水は放っておけば乾くだろうから、バケツを拾えば後片付けはすぐ終わるのに。そう思ってふと目についたムーンフラワーの馬房をじっと見てみると、そこにはボロ取りの道具が立てかけてあった。ボロ取りの途中で水を運ぼうとしてこうなったのか。それに気づいた時、大きなため息が出てしまった。このバケツは僕が片付けるとしよう。


「もう水ぶちまけるなよ」

「えへへ、ありがとー!」


 沙織は満面の笑みでブンブンと力いっぱい手を振ってくる。そんな元気があるなら、バケツくらい自分で片付けてほしいものだ。


 それより、沙織は本当にムーンフラワーがお気に入りのようだ。ここに来た時からずっと乗っているから、愛着でもわいたんだろうか。ムーンフラワーはすっかり『沙織の馬』というイメージが定着していた。ムーンフラワーも沙織のことを気に入っているみたいで、沙織が通りかかると必ず窓から顔を出している。なんでそんなにお互いがお互いのことを好きなんだろう。僕は乗れればだれでもいいんだけど。まあ、相性がいい子の方が乗りやすくはある。


 だけどわからない。僕にとって馬はそれだけの存在。普通に乗れて、普通に大会に出られればそれで満足なのに。どうして沙織はムーンフラワーにこだわるんだろう。嫩がフラワーシャワーに乗るのは、単にその子を乗りこなせる人が他にいないからだと聞いたことがあるけど。


「僕にもわからないことがあるなんて……しゃくだなぁ……」


 本人に聞こうにも、高いプライドがジャマをして素直に聞けない。僕はまたため息をつきながら、沙織が見ていないところでこっそりムーンフラワーに水をあげるのだった。


 ☆ ☆ ☆


「ちょっと夕陽ちゃん!」

「は? ちょ、なんだよ……!」


 一人で黙々とご飯を食べていると、嫩がものすごい剣幕で迫ってきた。すごく大きな声だったから、一瞬沙織が叫んでいるのかと勘違いしそうになった。いったいなんなんだ。


「あなた、沙織ちゃんに変なこと吹き込んだんじゃないでしょうね!」

「なんの話だ?」

「とぼけないで! 私はわかってるんだから!」

「ほんとなんの話してんだよ……」


 嫩が怒っている理由がわからない。ちゃんと理由を説明してほしいものだ。

 とりあえず落ち着かせたいけど、今の嫩は暴れ馬くらい扱いづらい。下手したら噛みつかれそうだ。これはただの例えだけど。


「だからっ、沙織ちゃんに言ったんでしょ!? 私がフラワーシャワーと親睦を深めていること!」

「あー、あれか」


 あれは親睦を深めているというより、ただイチャイチャしているだけのように見えたけど。乗りこなせる人が嫩しかいないとはいえ、嫩とフラワーシャワーもお互いの信頼関係ができているように思える。少し羨ましいような、そうでもないような。まあ、嫩は馬への愛が行き過ぎているところもあるから、沙織たちとは少し違う関係になっているのかもしれないけど。


「あれか、じゃないわよ! やっぱりあなたが犯人だったのね!?」

「落ち着けよ。なんでそれで僕が犯人ってことになるんだ?」

「だってあなたくらいしか沙織ちゃんに言わなさそうだし」

「僕のことなんだと思ってるんだ!?」


 嫩は怒ると手が付けられないということは知っていたけど、こんなにも思い込みが激しいなんてことは全然知らなかった。あまり近寄りたくない人種だ。


「待て。いったん落ち着け。とりあえず沙織のところへ行こう。僕が無実だと証明してみせる」

「……は? え? ほんとにあなたじゃないの?」


 僕が本気でそうしようとしているのを察してか、嫩は自分が間違っていたと理解してくれたらしい。まだ「でも……どうして……」とかぶつぶつ呟いているから、完全にうたがいが晴れたわけではなさそうだけど。嫩を落ち着かせることには成功した。


 だけど、その代わりに嫩のひとりごとが止まらなくなってしまった。なんで嫩はこうもおかしいところがあるのだろうか。子ども会員の中では一番年上のはずなのに。乗馬をはじめたばかりに芽生えた『あいつを負かしてやりたい』と思っていたのがバカらしくなってきてしまう。圧倒的な存在感で、僕が唯一ライバル視している人。それなのに、なんだか一気に近しい人みたいになってしまった。


「あの、もういいよな?」

「えっ? あ、そ、そうね。うたがって悪かったわ」


 わりとすんなり解放された。うろたえるより、はじめからこうすればよかったのかもしれない。

 嫩はどうしたかというと、真っ先に沙織のところへ飛んでいった。僕のことを聞くつもりだろう。本当にしていないから、またこっちに戻ってくることはないと思う。まったく、なんでだれに聞いたか確認せず僕を責め立てたのか。


 これで一件落着だけど、嫩のせいでなんかどっと疲れてしまった。今日はいつもより早めに寝よう。そう決めて、またご飯を食べ進めた。

 ……んだけど、嫩がまた戻ってきた。今度はなんの用だろう。戻ってくるのが早すぎるんじゃないか?


「夕陽ちゃん……」


 でも、今回はモジモジしていて、まるで告白でもするような雰囲気だった。……まさか、それじゃないよな。いやまあ、そんなことはありえるはずもないから、それは除外する。


「……ごめんなさい」

「え?」

「沙織ちゃんから聞いたわ。私の早とちりだったみたいで……本当にごめんなさい」

「それをわざわざ言いに戻ってきたのか……?」


 律儀というかマジメというか……そんなこと別に望んでいないのに。どうやら嫩は謝らないと気が済まないようだ。


「当たり前よ。謝罪は大切だもの」

「あー、わかったよ。僕は大丈夫だからもう謝らないでくれ」


 ふふんと胸を張る嫩の態度はよくわからないが、その心がけはすごいと思った。僕ならテキトーに謝って「はい、終わり!」って感じだから。嫩のことを純粋に尊敬した。いや、ほんとに。


「それならよかったわ。じゃあね」


 今度こそ、本当に嫩は去っていく。その時、ふと気づいたことがある。もしかしたら、そういう優しさみたいなところにフラワーシャワーが懐く理由があるのかもしれない。そう思ったが、本当のところはわからない。そういうのは関係ないかもしれないし。


「……少し、観察していくか」


 ここまで来ると、好奇心を抑えることなんてとてもできなかった。


 ☆ ☆ ☆


 雪が降っている。季節はもう冬になっていた。普段はあまり寒いとか暑いとか声に出して言わない方だけど、この日はめちゃくちゃ寒かった。


「さむっ……こんな日に水仕事とかしたくねー」

「気持ちはわかるけど……それなら今日は休めばよかったじゃない。必ず来なきゃいけないわけじゃないんだし」


 嫩がなんか言っているが、軽くスルーさせてもらう。僕には沙織と嫩を観察する使命があるから。使命を果たすためなら、どんなに寒い日でも……


「って、やっぱつめてーっ!」

「……なにがしたいの?」


 嫩が冷たい目で僕を見てくる。やめろ、これ以上気温を下げないでくれ。というか、馬に水をあげるためにバケツに水を汲んでいるのに、なんで冷たい目で見られなきゃいけないんだ。身体が冷えるより先に、心が凍ってしまいそうだ。それでもなんとか水仕事(馬への水やり)を終えた僕は、寒さに耐えながらひっそりと二人のことを観察することにした。


 まずはさくらだ。僕よりも乗馬の経験は浅いはずなのに、どうしてムーンフラワーと親密な関係になれているんだろう。その謎を解き明かしてみたい。今はどうやら馬房の掃除をしているようだ。観察していることに気づかれないように、馬と仲良くしているフリをしながら少しずつ近づく。そして、沙織はようやくムーンフラワーの馬房の中に入っていった。


「ムーちゃーん。今日も可愛いねー!」


 なにをするかと思えば、嫩と似たようなことをしていた。


「なにしてんだ、あいつ……」

「夕陽さんこそなにしてんの?」

「うわぁっ!?」


 いつの間にか背後に人がいた。全然気づかなかった。でも、沙織じゃないからひとまず安心だ。声をかけてきた人は、確か沙織と同い年だったはず。名前はド忘れしたけど。


「なに? 沙織ちゃんのこと好きなの?」

「ち、ちげーよ! だれがあんなやつ!」


 とっさに否定したけど、この否定の仕方だと逆に怪しまれてしまいそうだ。なんかずっとニヤニヤしてるし。本当に違うのに。なんで女子って恋バナとか好きなんだろう。理解できない。


「大丈夫だって。沙織ちゃんには言わないからさぁ」


 なにが大丈夫なのか。誤解している時点で大丈夫じゃないと思うんだけど。


「ほんとに違うんだって」

「照れなくてもいいのにー」


 こいつ、話が通じない。あんまり関わったことないけど、こういう性格だったっけ。人の弱みを握るとこうも性格が変わってしまうのだろうか。いや、これは弱みじゃなくてただの誤解だからいいんだけど。

 それよりも、話している間に沙織の姿が見えなくなってしまっていた。思ったよりも会話に気を取られていたようだ。こいつが変なこと言うから。


「じゃ、わたしはこれで失礼するから、頑張ってね」

「だから違うって言ってるだろ!」


 耳にふたでもしてあるのか、こっちの話をまったく聞いて貰えない。こういう人とはなるべく関わりたくないと思った。終始ニヤニヤしていて、正直気味悪かった。


「ってか、まじであいつどこ行った!?」


 沙織を追いかけていたはずなのに、完全に見失ってしまった。……あいつのせいだな。今度の大会でコテンパンに負かしてやる。


 まあ、それはいいとして、沙織を探さなければ。隠れられるところは限られているから、すぐに見つけられると思うんだけど。とりあえず探してみよう。……と決意したところで、割とあっさり見つかった。沙織は嫩と話しているみたいだ。あの二人は本当に仲がいいな。どうせ誤解するなら、あの二人の方がよっぽどだと思うけど。まあ、あの二人は少し特殊だから決定的瞬間でもない限り「あの二人ってもしかして……?」という感じにはならないか。


 それにしても、なにを話しているんだろう。少し遠いから、声が聞こえない。もう少し近づいてみようか。


「私、さっきムーちゃんとイチャイチャしてたの!」

「そ、そう……よかったわね……」


 沙織はウキウキした様子で話しているけど、嫩は顔が引きつっている。仲がいいというより、沙織の片思いだな。沙織の押しの強さにはかなわないのか、嫩は逃げることなく話を聞いている。基本的にいいやつなんだよな。


「あ、夕陽さん!」

「げっ」

「めちゃくちゃ嫌そうな顔してるわね」


 できれば今は関わりたくなかった。これじゃあ、隠れた意味がないじゃないか。ゆっくり近づくけど、乗り気ではない。なんで見つかってしまったんだろう。


「夕陽さんも聞く? 私とムーちゃんのラブラブ話」

「いや、いい。何時間も聞かせられそうだから」

「えーっ!? 聞いてくれないのー!?」


 めんどうくさい。沙織の相手をするのは、他の年下の相手をするより疲れる。というか、沙織のことを他の年下の子と同じように見れないし。めちゃくちゃ子どもっぽいから、小学校低学年と話している方がまだストレスがない。


「ねー、聞いてよー」

「しつこい」


 だけど、ふと思う。これはまたとないチャンスなんじゃないかと。僕が知りたいことをそれとなく探れるんじゃないかと。


「沙織」

「え、な、なに?」

「今日だけは全部聞いてやる」

「ほんと!?」


 このあと地獄が待っているだろうが、それになんとしても耐えなきゃいけない。耐えた先にはきっと、望む答えが待っているだろうから。

 嫩はついていけないみたいな顔をして、沙織に気づかれないように去っていった。本来なら僕も嫩と同じ側にいたんだろうけど、今は知りたいという気持ちが抑えられない。今度嫩にも聞いてみようか。断られる可能性高いけど。


「でも、急にどうしたの?」

「え、なにが?」

「だっていつもは私がこの話しようとするだけで逃げるのにさ。ほんとどうしたの?」


 しまった。勢いで押し切ったけど、やっぱり変に思われちゃったか。これは目的を伝えてしまった方がいいのかな。でも、なんでそんなこと知りたいのって聞かれても返事に困っちゃうし……


「ねーねー、どうしてー?」


 こいつ本当に子どもっぽいな。もう面倒くさいから言ってしまおう。

 そんなこんなで事情を伝えたのだが、沙織は腕を組んで「うーん」と首を傾げるだけだ。そんなに難しいこと言ったっけ。


「ムーちゃんがどう思ってるかは知らないけど、私はひとめぼれ……かなぁ?」

「……は?」


 沙織が突然意味のわからないことを言う。いや、意味はわかるけど、そういうことじゃなくて。『ひとめぼれ』ってどういうことだ。それが、沙織がムーンフラワーにこだわっていた理由なのか。……わからない。ひとめぼれってだけでそこまで好きでいられるのが。


 ひとめぼれも立派なきっかけではあると思う。マンガとかでちょっと見たし。でも、ひとめぼれがきっかけで始まるものは、長く続いたことがあったのかが記憶にない。ひとめぼれしたはいいものの、そのあとに自分の理想と違ってガッカリした……というストーリーだった気がする。


 まあ、そうなるのはわからなくはない……かな。ひとめぼれをしたことがないから断言できないけど。でも、ひとめぼれなんて、相手の内面を見ていないのと同じことなのではないかと思う。……たぶん。


「えっとね、最初はひとめぼれだったんだけど……知れば知るほど好きになっていったの。フーちゃんを夢中で追いかけまわすところも、私が首を傾げると一緒に頭が動くところも、あのツヤツヤな黒い体も、まん丸でつぶらな瞳も全部好きなの!」

「……後半は他の馬でも当てはまりそうだな……」


 沙織の説明はわからない部分が多かったけど、きっかけがどうであってもそこからいい方に変化していくことがあるのを知った。きっかけなんて、ただの始まりにすぎないのか。


「……僕もそういう子に出会えるかな?」


 なんだか、沙織とムーンフラワーの関係が一層うらやましく思えてきた。あんなに仲が良くてお互いのことを信頼しているなら、大会でもペアを組めば最強になりそうだ。乗る馬との相性で結果が左右されることが多いし。相性が合わなければ最悪馬が言うことを聞かないことだってあるし、逆に相性がよければスムーズに進めることができる。そういうことを先生から聞いていたはずなのに、いつの間にか忘れてしまっていた。いや、もしかしたら考えないようにしていたのかもしれない。学校での人間関係のように、馬との信頼関係が壊れてしまったらと思うと、こわかったのかもしれない。このままおびえているなんてダメだ!


「夕陽さんなら大丈夫でしょ。きっとすぐ見つかるよ」


 なんの根拠もないのに、沙織の言葉でなぜか少しだけ自信を持てた。沙織が言うと本当にそうなるような気がする。


「ありがとな。がんばってみるよ」

「うん! 見つけたら教えてね!」

「じゃあな」


 手を振ってわかれる。なんだか聞くかどうか迷っていた自分がバカらしく思えてきた。さっさと聞けばよかったんだ。

 その日は家に帰ってからも、沙織の言葉が忘れられずに残っていた。


 ☆ ☆ ☆


 そして、それから何日か経ったある日。ついにその時がやってきた。……と思う。


「他の子よりは僕が好きな顔つきをしているけど……」


 その日は馬の入れ替えがあったようで、見知らぬ馬が一頭いた。元々いた馬とはそんなに関わりがなく、どこか別の乗馬クラブに移ってもそんなに寂しく思わない。乗ったこともなかったし。

 その場所に、新入りの馬が現れた。栗毛といって、薄い茶色みたいな色をしている。沙織や嫩のお気に入りの馬たちと外見の特徴は被らなかったな。


「ブルルッ」

「うわっ!」


 突然鼻を鳴らしたかと思うと、鼻水が辺りに飛び散って僕にも直撃した。


「……こいつっ」


 馬はスッキリしたようで、気持ちよさそうな顔をしている。他の子も悪気なくすることだし、いつもならそんなに気にしないけど……今日は違った。イラッと来たけど、逆に面白いじゃないか。絶対に手懐けてやりたくなってきた。

 ネームプレートを見てみると、『ハナアラシ』と書かれている。


「へっ……やってやろーじゃねーか! 見てろよ、ハナアラシ!」


 ニヤリと笑いながら叫ぶも、何言ってんだこいつという顔をされた。そりゃ、人間の言葉なんてわかるわけないだろうから当然だろうけど。なんだか調子狂うな。

 まあ、それでいい。今はそれでいい。こっちが頑張って歩み寄っていけばいいだけなんだから。学校では居場所が見つからなかったけど、もしかしたらここでなら……


「あーっ、夕陽さんがぬけがけしてるー!」

「ぬけがけって……そりゃ、新しい子入ってきたら気になるでしょう……」


 沙織と嫩が仲良くこっちに向かってきた。なんでかはわかんないけど、この二人なら僕のことを嫌うなんてことはないかもしれないと思っている。そう信じたい。

 もしかしたらここが、ずっと前から僕の居場所だったのかもしれないと今更ながら気づいた。

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