最終話 いつでもリスタートできる
三月の終わりになって、桜の開花情報が東京でも報道された頃。
近所の桜も咲き始めているのが見えて、お花見とか良いのかもしれないと考えていたんだ。
近くの公園では毎年お花見ができる場所があるみたいで、今度お花見をするのも良いかもしれない。
今日は気に入っている服装に歩きやすい靴を履いていくことにしたんだ。
「今日は彼氏と出かけるんでしょ?」
「うん。行ってきます。夜には帰ってくるから」
実は
最初は反対されると思ったけど、彼のことを家族写真を撮ってくれたカメラマンだと聞くと納得してくれたんだ。
それですんなりと交際していることを隠さずに済んだなと思っている。
そのときからしばらく父さんがショックを受けていたけど、最近は立ち直ってきているんだ。
「いってらっしゃい。奏くんによろしくね」
「うん」
玄関で父さんが笑顔で送り出してくれたのが、とてもうれしかった。
外に出るとあの日と違って全然寒くない、逆に季節外れの暖かさが体を包んでいく。
足取りもなんとなく軽くなって、早く歩ける気がした。
御茶ノ水駅で改札を抜けてすぐに人の多さに驚く。
あちこちに外国人観光客が多くいて、さらに多くなっているような感じがした。
待ち合わせは御茶ノ水駅で神田明神から上野へ行くことにしたんだ。
そのときに駅の改札で奏さんの姿を見かけてたけど、一度すぐに行かないで待ってから行こうと考えていた。
少し時間を経ってからはわたしは彼を話していくことにしたんだ。
「奏さん」
「おはよう。
「うん。早くお参りして、パンダを見に行きたい」
奏さんと手を繋いで、神田明神へと向かうことにしたんだ。
神田明神でお参りすると、ここで願ったことが現実になっているのかもしれない。
去年、願ったのは『とにかく見守っていてほしい』という願いを考えていたんだ。
それで見守ってくれたのかもしれないから、そのお礼をしてから帰ってすぐに帰らないといけないんだ。
「今日は久しぶりにお参りしてから、お昼ご飯に行こうと思ってるよ」
「あのカレー屋さんに行ってみたいなと感じてる」
「うん。そうしようか! 動物園の前にそうしよう」
去年の夏に生まれた双子の赤ちゃんパンダを見に行きたいなと思っていたんだ。
本当は一般公開してからすぐに行こうと考えていたけど、テスト前だったのとその頃にインフルエンザで学級閉鎖をしてしまったから行けていなかった。
御茶ノ水駅の奥にある玉ねぎのような屋根の建物が気になっていたんだ。
「あれ……なんだろ」
「あ、あれ気になる?」
「うん。あれ教会なのかなって」
そうすると奏さんと一緒に近くまで行ってみることにしたんだ。
「あれはニコライ堂って言うロシアの教会だと思う」
スマホで調べてくれたみたいで詳しいことを教えてくれた。
「ロシア正教会の教会みたい」
「そうなんだ。わたしはあまり見たことがないから、不思議で」
とても不思議な形の屋根と独特な色合いで、とても日本じゃない空間があるんだなと考えていたの。
「それじゃあ、上野に行こう」
「うん」
上野の方へ徒歩で行こうとしていたとき。
「湯島天神に行かない?」
奏さんの提案で学問の神様が祀られている湯島天神に行くことにした。
そこは御茶ノ水駅からしばらく歩くんだけど、湯島天神は意外と近くにあるみたいだった。
そこまで歩いて行くんだ。
「美琴、これからお参りしておいた方がいいかなって」
「ありがとう。奏さん」
来月には高校三年生で進学を希望しているので受験が始まるんだ。
三年生の夏になれば、専門学校の入試や短大や大学の総合選抜型入試が始まっていく。
もちろん就職試験も同じでほぼ同時進行で行われていくんだと思う。
それに結城の短大に内部進学する生徒もいるので進路の選択の仕方は人それぞれになると思う。
総合クラスはだいたいそんな感じで決めることが多いかな。
どちらかと言うと大学と短大よりも専門学校への進学が多いので、夏休みには専門学校や大学の総合選抜型入試(前はAO入試だった)はある程度決まってくるんだ。
年内には就職や指定校推薦が終わって、残るのは特進クラスと総合クラスの一部の人が大学共通テスト、国公立や私立の大学、短大、看護の専門学校などの一般入試が始まるんだ。
「奏さんは受験のときってどんな感じでしたか?」
「俺? 専門学校をすぐに受験して夏休みには進路決定してた。だから冬休みにすぐに免許を取ったんだ」
「免許か……あまり気に留めたことがないな」
湯島天神の境内のなかに入ると、手と口を清めてから拝殿に行く前にずらりと並んだ絵馬には志望校に受かりますようにと書かれているのが見える。
「美琴。行こう」
「うん」
拝殿でお参りしてからすぐに上野方面に歩いて行くことにした。
二十分くらいで上野公園に来て、コンビニでパンと温かいコーンポタージュの缶を買って食べることにした。
「最初に食べていった方がいいね」
「うん」
上野公園の桜はまだ咲いていなくて、これから咲くのかもしれない。
それでもお花見をしているような人たちもいて、とても賑やかな感じがしているんだった。
「お花見してみたいね。いつか」
「うん。今度、うちの地元にある桜が満開になりそう」
「それじゃあ、今度遊びに行こうかな?」
「また楽しみが増えた」
奏さんが驚いたような表情をしていたが、すぐに微笑んでくれたんだ。
「うん。楽しみにしてる」
奏さんはスマホで予定を入れているらしい。
「来週でもいいなら、行けるよ」
「うん。今度に行きたいなと思ってるんだ」
わたしは奏さんとお花見がとても楽しみになって来たんだ。
ご飯を食べてからはすぐに上野動物園で双子のパンダを見ようとしていたけど、整理券を配布が奏さんと一緒にもらったときになくなったと話していた。
ギリギリで少し間に合ってよかったなと考えている。
双子のパンダは名前が十月に決まっている。
家族連れが多い感じで、小さな子はお父さんに肩車されていたりしている。
「パパ、
「これから会えるよ」
「やった~」
一般公開されたときはとてもかわいくて、見てみたいなと考えていたんだ。
わたしは奏さんと離れないように手を握っていた。
そこには小さなパンダがこっちを見ているのがわかったのが、とてもうれしくて声が出そうになった。
「かわいい」
「うん。かわいいね」
テレビで見るよりも大きくなっていて、相変わらずじゃれ合っているのがとても微笑ましく見てしまうんだ。
奏さんも自然と笑顔で見て建物を後にしてから写真を撮り損ねたことに気がついた。
「撮り損ねたけど、俺は目に焼きつけたよ」
「かわいかったよね」
そのまま時間が過ぎていって、とても時間が足りないと感じてしまった。
奏さんが横浜に出かけたときのように送ってくれたの。
「美琴が一年前に失恋したんだよね?」
「うん。あのときは失恋して引きずってて」
そのときに彼は力強く抱きしめてくれて、わたしはびっくりしてしまった。
大きなぬくもりが体を覆うのに慣れていなくて、心臓がドキドキしていくのがわかった。
奏さんの背中に手を回したときに小さな声でこう言ってくれた。
「でも、いつでもスタートができると思う」
初めて経験した失恋から一年が経つのに、いまはとても幸せな恋をしている。
落ちるところまで落ちて、そこからいつでもリスタートできるんだと思った。
それを気づかせてくれたのは奏さんだったのかもしれない。
「奏さん、これからもよろしくお願いします」
「うん。ずっとそばにいるよ」
そう言うと奏さんはそっと体を離して、自分の着ているコートをわたしの頭から被せてキスをしたんだ。
「またね」
「うん」
コートを再び奏さんが着ると、駅の方へと走っていくのが見えた。
家に帰っても心が躍っていることが多くて、みんなが話していることが多くなっていたんだ。
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