第22話 久しぶりのダンス

 いとこの挙式が行われてから、ホテルの会場で披露宴が行われていた。


 一番いとこのなかでは年上で和真兄ちゃんより五つ上なんだ。

 実は旦那さんの信也しんやさんはかなでさんの職場の上司で、挙式からずっと参加しているのが見える。


 挙式と披露宴の受付とかを任されたりして、あまり話すことができないまま披露宴の中盤に差し掛かっていた。





明日香あすか姉ちゃん。きれいだな」


 披露宴では最初に白無垢で入場してきて、わたしはそれがとてもきれいだなと思っていたんだ。

 わたしはネイビーのワンピースを着て椅子に座って拍手をしていた。


 挙式では露出の少ないウェディングドレスを着た明日香姉ちゃんはとてもきれいで言葉では表せないものがあった。


 自分も将来ああなるのかなと考えながら披露宴の食事をしていたけど、少しそれ以上にドキドキしていることがあったんだ。


美琴みことは先に食事を終えた方がいいぞ。これから出番が出てくるんだからな」

「うん。ありがとう、和真兄ちゃん」


 和真かずま兄ちゃんの言う通り、食事はできるだけ早めに終えるようにしていた。





 新郎新婦がお色直しを終えて、今度は色打掛を着た明日香姉ちゃんが歩いてくるのが見えたんだ。

 いまは食事を終えて余興が始まり、いまは新郎側のビデオメッセージが流れている。

 わたしは控室にいるのでその映像はあまり見れていない。


「衣装は大丈夫?」

「はい」


 自分以外は明日香姉ちゃんの同級生でみんなパステルカラーのパーカーやシャツに黒いスキニージーンズという服装で統一されている。


 わたしが着ているのはダンス部で使っていた練習着のなかで明るい色のパーカーに黒いスキニージーンズ、スニーカーという服装で髪も結ったままで踊ることにしていた。


 ダンスを大勢の前で踊るのは久々で一年ぶりくらいになるかもしれない。

 わたしは少し緊張したまま衣装に着替えて、会場の更衣室として借りた部屋で踊りの確認をしていたの。

 ワクワクとドキドキが混ざったような気持ちでイヤホンで最終確認していく。


「美琴ちゃん。そろそろだって」


 余興で明日香姉ちゃんの高校時代のダンス部のメンバーとわたしの九人でステージ上で踊っていくんだ。





 拍手が起きて、会場に入るとキャップを目深に被ったわたしは心を落ち着かせて待つことにした。

 明日香姉ちゃんが好きな曲で踊れるのはとてもうれしい。


「それでは新婦が高校時代のチームSunnyとスペシャルゲストによるダンスパフォーマンスです」

「ヒュー!」


 明日香姉ちゃんは高校生のときにダンス部で地区大会とかは優勝していたことがあるほど。

 ダンス部の創部メンバーの一人でかなりレベルの高いメンバーが集まったことで創部二年目、同好会から部活に昇格して初の全国大会出場を勝ち取ったという。


 わたしの通っている学校とはライバル校みたいな感じで、共に全国大会に来たことも覚えている。

 そのことはほとんど知っているのか、拍手が聞こえてくるのが見えたんだ。


 司会が音楽をかける合図をかけているのがわかった。


 意外と広く感じて、わたしは曲がかかるまでうつむいて待つことにした。

 曲が流れるとみんな驚きの表情を浮かべてステージを見てくるのが見えた。


「すごい! 九人の動きがそろってる」

「かっこいい! ヤバい、レベル高すぎない?」

「あの九人のなかで一人だけ、動きが違うんだけど」

「あのキャップ被ってる子?」


 そんなことはお構いなしに踊っていくけど、心臓が激しく波打っていくのがわかった。

 踊るのはジャニーズ、明日香姉ちゃんが好きだと言っていたグループ、数年前にデビューしてとても踊りがすごいんだ。


 そのなかで選んだのはデビュー前に披露されていた曲を使って踊っていくんだ。

 簡単そうに見えて実は難しい振付ばかりで苦戦していた。

 でも、練習をし重ねていって慣れてくると、そんなことは関係なく踊れるようになってきて本物に近づけられるようにしたかったの。


「サビのそろい方すごい!」


 ステージでフォーメーションを変えながらサビの振付に入るところはこだわって、振付がそろうように練習してきた。

 そのなかでアクロバットなしでダンスのみで魅力を出す曲を練習することにしたんだ。


 ダンス部を辞めてからもうすぐ一年が経つくらいなのに、ダンスすることを辞めるのはできなかった。

 久しぶりにがっつり踊るのがとても楽しくて、きちんと話していることが多くなっていたんだ。


 やっぱり踊るのは好きなんだなと感じることができたの。


「あの九人すごいな……」


 九人で踊るのは本番まで五回しかなくて、最終リハで動きとか確認することが多かった。




 最後のサビで踊り始めていくけど自分でハイテンションになってキャップを取って片手に持ちながらステップを踊っていくんだ。


 ダンス部の大会のときみたいな照明で照らされているからか、不思議と緊張とかはない。

 逆に楽しすぎて笑顔でキャップのつばを後ろにし、被り直して踊り始めた。


 そのまま一曲の最後まで踊りきれたのがとてもうれしかったなと感じている。

 曲が終わってから一瞬だけ間があったけど、しだいに大きな拍手と歓声が聞こえてきた。


 目の前がチカチカしていくようなそんな感覚になっていたけど、九人でお辞儀をした。

 そのときにマイクを渡された人が息を整えながら、話を始めた。


「ありがとうございました! メンバーの紹介を行いたいと思います。Sunnyのリーダーの加藤かとう流歌るかです。メンバーの飯島いいじま穂香ほのか江藤えとうりえ、幸田こうだ彩也子さやか佐々木ささきひなた、高橋たかはし萌絵ももえ弓原ゆみはら千草ちぐさ渡辺わたなべ玲香れいか


 各メンバーの紹介が始まっていて、名前を呼ばれてお辞儀をしていくのが見えた。

 そのなかで拍手をしていると、ステージを見てくれたのは拍手をしてくれている。


「そして、今日のメンバーで最年少の瀬倉せくら美琴さんです! 現役の高校生としてメンバーに入ってくれました。高校は違うんですが、参加してくれました。明日香のいとこです」


 わたしはキャップを脱いでお辞儀をしていると、驚きの表情を浮かべている人たちも多くいた。

 でも、両親は安心したような表情をしているのが見えて、わたしがダンス部を辞めた理由を知っているから少し心配していたのかもしれない。


 そのなかで奏さんも驚きの表情を浮かべているのを見つけて、少しドキドキしているのが見えた。


「今日は信也さん、明日香。ご結婚おめでとうございます! 末永くお幸せに」


 そう言って帰るときに明日香姉ちゃんがボロボロ泣いているのが見えた。

 それを見てなぜか自分も泣きそうになってしまった。





 披露宴が終わるときに明日香姉ちゃんがぎゅっと抱きしめてくれた。

 いきなりだったからとてもびっくりしてしまった。


「ありがとう。美琴ちゃん、とてもよかったよ」

「こちらこそだよ。明日香姉ちゃん」


 わたしがダンスを始めるきっかけになったのは明日香姉ちゃんだった。

 高校の文化祭に呼ばれて、小学一年生になったばかりのわたしすぐにダンス教室に通い始めたんだ。


「これからお幸せに。明日香姉ちゃん」


 そう言うと明日香姉ちゃんが泣き笑いの表情で見てきたんだ。


「美琴、とても楽しそうでよかったよ。もうダンスは好きじゃないって思ったから」


 父さんが泣きそうな表情でこちらを見てきたんだ。


「ううん。部活で踊るのが嫌いなだけだよ」


 車に乗るとスマホがLINEに奏さんからメッセージが来ている。


『すごかったよ』


 それだけだったけど、ほめられてうれしかったなと思った。

 今日は会えたけど話せなかったので、春休みにまた会いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る