第2話 高校の近所
後期になって二週間が過ぎて、通っている高校では文化祭の余韻すらもう無くなっている。
この地域では一番古い女子校になる伝統校であるけど、偏差値は高くはなくはない。
初等部から中等部が隣の敷地、高等部と短大が同じ敷地にある。
でも、実際に初等部から通う同級生はあまりいない。いまはほとんどが中高から入ってくる子が多いらしい。
高校の同級生にはおばあちゃんの代から通っている人も少なくはない、それだけ通わせたいと思える学校なんだと思う。
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
帰りの学活を終えて担任の田中先生が教室を出てからは教室は生徒しかいない空間になる。
清掃のない日で今日はいつもより早く帰れるので、みんなは放課後にどこかへ行こうと考えているらしい。
「またね~」
「ねえ。どこに行く?」
「そういえば、この前話してた男子はどんな感じなの?」
「全然! 会ってから、急に冷めた感じ」
「駅前のスタバかゴンチャかな? それかIKEAのフードコートとか」
「あそここの前、苦情が来たらしいよ。やめておこうよ」
「ねえ~、このあとアニメイトに行かない?」
ざわざわとした教室内ではこんな会話が生まれては消えを繰り返している。
そのなかで誰かが音楽を流して、何かを撮影しているみたいなそぶりをしている。
わたしは指定のサッチェルバッグを持って教室を出ようとしていたときだった。
「
「あ、
声をかけて来たのは同じクラスの
おっとりした感じで内気な子が第一印象だったけど、それは百八十度変わった。
定期的に行われている軽音楽部のライブで彼女の表情はとても楽しそうな笑みを浮かべてギターを弾いていた。
でも、それが見られるのは軽音部が活動しているときだけだ。
最近はボカロからJ-POP、洋楽まで幅広くカバーしたり、自分たちで作詞作曲をして曲を持っていたりしている。
「今日はごめんね、先客がいるの」
「そうなんだ~。ごめんね、今度の日曜にライブやるから。見に来て」
「うん。またね」
日菜はギターケースを抱えて、すぐに教室を出て行ってしまった。
教室に残っているのはこれから部活に行く生徒、まだ帰らずに友だちを待ってる生徒、バイトなどの時間まで暇をつぶしている生徒がいる。
もうすぐ待ち合わせの時間になったので、そっちへ行くことにした。
待ち合わせ場所は高校の最寄り駅の壁画の前、駅ビルの入口の近くで待ち合わせをしていた。
駅には他にも制服を着た生徒が多く見かけるけど、奏さんの姿は見えなかったときだった。
「あ、久しぶりだね」
奏さんはこの前とは違って黒のシャツにジーンズの服装だ。
「お久しぶりです」
「うん。制服、結城女学院の?」
「そうです。今日はここのカフェが良いなって」
そのカフェは「夕暮れ」という店名で、お昼から夕方かけての営業している珍しいカフェで意外と知らない穴場スポットみたいな感じだった。
「夕暮れってカフェか……ここから近いね」
駅から南口から歩いて十分くらいの場所で夕暮れというカフェがあって、もう営業時間になっているみたいでドアを開けてみたんだ。
「あら、いらっしゃい。若いお二人が来るなんて珍しい」
カウンターを挟んで立っていたのは、担任の田中先生くらいの年齢……アラフィフくらいの女性だったんだ。
「こんにちは」
「今日はこのメニューだよ」
隣同士にカウンター席に座ってメニュー表を見ると、パンケーキやカップケーキ、パフェなどがあったんだ。
そのなかでチョコソースがかかったアイスがワッフルに乗っているメニューがあったのでそれを注文した。
「それじゃあ、飲み物は紅茶で」
「わかった。お連れの兄さんは?」
「同じものを」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
そのまま奥へと女性は姿を消してから、話を始めることにしたの。
「そういえば、文化祭は終わったの?」
「終わりましたよ~、楽しかったです」
「そうか~。来年は行けたら行くよ?」
「チケット制なんですよね……うちのところ」
なぜかうちの高校はそういうところは無駄に厳しいって、他の子が嘆いていたんだよな。
「セキュリティーが厳しいね~」
笑いながら話をしていたときに奏さんの仕事について聞いてみたかった。
「どこに写真スタジオってあるんですか?」
「俺の勤めてるのは……この辺、立川のここ」
わたしは奏さんがカメラマンとして勤めている写真スタジオが残っているのを教えてくれたんだ。
「え。学校の一番近いとこじゃないですか⁉ こんなとこで写真を撮ってるんですか?」
わたしの通っている学校から駅方面に徒歩五分くらいの場所に写真スタジオの「
そのお店は一瞬美容院のような内装だったのを思い出した。
「ここBougainvillaeaってお店だったんですね」
「そう。オーナーがこの花が好きでね。店名にしたって聞いてるよ」
奏さんはとても楽しそうに語ってくれた。
「お店にいつか行きますね」
「うん。そのときはきれいに撮るから」
そのときにとてもいい匂いがしてきて、店主の女性がこちらへ来てくれたんだ。
「はい。お待たせしました~、ワッフルのアイス乗せです。紅茶は少し待ってね」
「ありがとうございます」
それから紅茶が出てきて、それを飲んでいくことにした。
「おいしい! これ、とてもおいしいです」
「うん。乗っかってるアイスもトロトロ」
ワッフルは焼き立てなのに中がフワフワしてて、アイスが乗っているから暑さと冷たさがちょうどいい感じになっておいしい。
あっという間に食べ終えてしまったので、もうちょっとゆっくり食べた方がよかったと思った。
「奏さん。今日はありがとうございました、最近泣くことが少なくなってきました。たぶん……奏さんとの会話がとても楽しみにしています。これからもお願いします」
それを聞いて少し照れ臭そうな顔でこちらを見ていたけど、わたしの顔を見て吹き出して笑い始めていた。
「くくく……アハハ! 美琴ちゃん、チョコが口元についてる」
奏さんが口元に指をさして教えてくれて、スマホにある内側のカメラで見ると口元にチョコがついてるのが見えた。
とても恥ずかしくてカウンターにあった紙ナプキンで口元を拭いた。
「きれいに取れた……ありがとうございます。外に出る前に気づいてくれて」
「いやいや、大丈夫。今日はもう帰った方がいいね。五時半だし」
スマホの時刻は午後五時半を過ぎた頃で、代金を払ってから駅の方面に向かって歩き始めた。
「あんなお店があったんだ。今度、仲間に教えてあげないと」
「おすすめですよ。今度、ぜひ」
駅のJR線の改札で奏さんと別れるとわたしは他の私鉄の沿線で家路についたの。
電車のなかで父さんからメッセージで帰りにスーパーでカレーのルーを買ってきてほしいと届いていた。
「あ、今日はカレーじゃん……がっつり食べちゃったな」
わたしはメッセージに適当にスタンプを送って地元の最寄で降りて少し歩いたところにあるスーパーに入った。
ここは何かと安く買うことができるので、真夏とかはよくここでアイスを買って食べていたことがあった。
「いらっしゃいませ」
カレーのルーを買ってから家に帰っているときに、
彼女さんだろうか、通っている
それを見て、少し心がざわついていた。
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