第4話 お参りと上野公園とアメ横
十一月の一回目の祝日。
わたしは暖かい服装で待ち合わせの場所にいた。
「
あのライブハウスで約束したように、神田と上野に遊びに行くことになったの。
何となくまだ眠そうな顔をしているので、まだ疲れが抜けていないように見える。
「昨日まで連勤続きでね、今日は久々の休みなんだよね」
「あ、あまり無理しないでくださいね。お疲れなら」
「ありがとう、美琴ちゃん。まずは
わたしは神田明神へ奏さんと向かうと、あちこちにアニメの看板が出ている。
ここが聖地としてファンがここに来ることがあるみたいだ。
「あ、美琴ちゃん。こっちだよ」
拝殿でお賽銭を入れてから二礼二拍手をしてから、手を合わせている。
とにかくこれからを見守っててほしいということをお願いしていた。
「あ、美琴ちゃん。おみくじを引こう」
「はい。初詣しか引いてないから、久しぶりです」
奏さんが先に引いて、わたしが引く前に結果を見て笑っている。
「美琴ちゃんは?」
「まだ見てません。奏さんはどんな感じですか?」
わたしのおみくじは小吉でまあまあな感じで、それぞれの項目にはこれから努力した方がいいなと思っていいのかもしれない。
恋愛のところには「落ち着いて行動すればよし」と書かれてあるので、落ち着いていれば新しい恋愛に出会うみたいだ。
失恋してからはあまり落ち着いていると泣いてしまうことが多かったから泣かないように気を張っていた。
それから奏さんと会うようになってからは、とても普通に過ごし始めてからはそうでもなかった。
それに気がついたのでとてもホッとできた。
「美琴ちゃん。俺は吉だったよ、失くしものは出てこないって」
「え、何か失くしたんですか?」
「昔、使ってたベースのピック……高校の先輩からもらったやつなんだ」
同じベースを担当していた高校の先輩からもらったピックだと聞いた。
それをここ数日ずっと探しているところみたいだった。
「美琴ちゃん。おみくじ、どこかにくくっておこう」
おみくじの近くにあるおみくじをくくる場所に移動して、それをくくっていくことにしたんだ。
そのときに気にしていたけど、奏さんは彼女さんとかいないのかなと考えている。
「奏さんって、彼女さんとかっていないんですか?」
「え、俺? いないよ」
即答で奏さんは答えてくれた。
「専門学校のときは彼女いたけど、卒業後に向こうからサヨナラを言われちゃったんだ」
少し懐かしそうに話してくれたけど、その顔はとても悲しそうだった。
わたしは言い表せないけど、心が変な感じになった。
そのまま上野駅まで徒歩で行くと、上野駅の周辺を歩くことにした。
上野公園には家族連れやカップルが多いけど、銀杏の葉がはらはらと落ちていくのが見える。
「きれいですね。ここ」
「ここは桜の名所でもあるんだ。春に来れたらいいね。あと写真、撮ってもいい?」
カメラを持った奏さんがにこやかにこちらを見ている。
「はい。いいですよ」
カメラのシャッター音が聞こえて彼の方を向くと、穏やかな笑みでこちらを見つめていたんだ。
それは大人の男性でドキッとしてしまった。
普段はこんなにドキドキはしないと思うのに、今日は全く違うんだと思っていたんだ。
「アメ横、とても行ってみたかったんです」
「そうか。よかった」
上野公園から移動して向かったのはアメ横だった。
祝日で休みということもあって、人がとても多くて離れそうになってしまう。
奏さんの後ろを歩くように歩いていると、迷子になりそうになってしまう。
「あ、待って! 奏さん」
わたしは声をかけてもなかなか聞こえてないのかもしれない。
いきなり手を握られてグッと強く奥側へ引かれて、その方向へと歩いていく。
その先にいたのは奏さんだったんだ。
「え、うわ⁉」
「美琴ちゃん。ごめん」
それが変にドキドキしているのがわかったの。
心臓がドクンと大きく波打っているのが気づかれないようにした。
「大丈夫? いきなり手を引いたから、びっくりさせちゃったね」
わたしのドキドキはびっくりしたときのことと奏さんは思っているみたいだった。
変にドキドキしてしまうのはどうしてだろうと思ってしまう。
「あの、手」
「え、ごめんね。痛かったかな?」
「大丈夫です……奏さん。痛くないです」
力は加減してくれていたみたいだけど、あまり痛くはなかった。
そのままいろんな店がある通りを歩いていた。
魚屋さんやほんとに外国人向けのおみやげが置かれてあるような感じのお店、ケバブや外国の料理を売っているお店が建ち並んでいるのが人ごみのなかから見えた。
外国人観光客も結構多くて、観光目的なのかスマホで何かを探しながら歩く姿もあった。
去年のオリンピックもあって、年々増えつつあるんだ。
ときどき中国語や英語の話が聞こえてきて、家族連れで話をしているのかもしれない。
声が聞こえてきた方向を向くと、そこは閉店セールをするというカバン店のセールだった。
「ここって、中学生のときにも閉店セールしてたな……いつも言ってるのかも」
「確かにね、あそこって。テレビで何度か見たことがあるよ」
黄色い屋根にチョコが山積みにされているお店が見えたの。
ここは家族と一緒にチョコを買ったお店だったんだ。
おまけのチョコがたくさんついてくるお店で、テレビでも何度も見たことがあった。
大きなレジ袋にいっぱいチョコを入れて千円とかで売っていて、どれがおまけなのかわからなくなるくらいのおまけの漁だったの。
「入れちゃえ、入れちゃえ!」
その掛け声がとても懐かしくて口元が緩んでしまう。
「懐かしいな……」
あのときはまだ母さんも仕事量をセーブしていたし、週末は出かけたりしていたと思う。
中学生になってからはわたしが生まれる前の仕事量に戻して、いまはとても忙しいのに楽しそうに働いているんだ。
ガード下を通って裏道みたいな場所を歩き始めた奏さんの後をついて行くと、そこには黄色い看板のお店に入るみたいだ。
その店に見覚えがあったけど、上手く思い出せなかった。
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