第7話 テスト勉強とココア
午後八時半が過ぎて、わたしは大きく伸びをする。
そろそろ集中力が切れてきて、勉強しても頭に入ってこなさそうだった。
月曜日から始まった後期中間試験は今日で三日目、明日で最終日になる。
それも後期が始まってからの授業が範囲がほとんどだけど、たまに前期期末試験で入らなかったような場所を範囲に入れてくる先生もいる。
でも、不安な教科は最終日に詰め込まれているため、テスト日程の教科が発表されたときはとてもブーイングが起きたほどだ。
ただでさえ、範囲の広い三教科が最終日に入ったのは不安しかない。
赤点はあまり取ったことはないけど、今回の科学基礎に関しては赤点を取りそうな予感がしている。
元素記号を使った計算式とかわけわからないし、イオン式なんて中学生のときに挫折しているせいもあるかもしれない。
理系が得意なクラスメイトに教わっても全然理解できない。
さっきまで化学式のテストで出てくると話していた教科書の問題を解いてた。
全部途中式から合ってないので解答で赤ペンで直し手もわからない。
キャパオーバーで頭から湯気が出そうになっている。
「あ~~~‼ わけわかんねえよ!」
もう来年の進路選択で文系クラスにしたほどだし。
わたしは科学の教科書とノート、ワークを片づけて、机に突っ伏していた。
「勉強も良いけど、根詰めすぎないことも大切だよ」
「あ、ありがとう。母さん」
母さんが温かいココアを持ってきてくれた。
それを飲むと体がポカポカしてくるのがわかった。
そのまま母さんも同じ色のマグカップで何かを飲んでいるのが見えた。
「父さん、いつ帰ってくるんだっけ?」
「明日だよ、今日はパーティーがあるって」
「うん。意外と父さんがいないと静かだよね」
父さんは家にいると明るくなるから、ほんとはいてほしいんだけど今日はそれも叶わない。
理由は父さんが審査員をしている小説の新人賞の授賞式が行われているからだ。
職業は幅広い年代で人気のある作家だということだ。
同級生にもファンがいるし、先生にもファンで夏休みの推薦図書で推薦していることもある。
それを言うと父さんは照れくさそうに笑っていた。
ペンネームは
毎年、小説は年に一冊か二冊のペースで新刊を出したりしている。
ファンの人たちはたぶん結婚したことも、子どもがいることすら知らないと思う。
それくらいプライベートなことは出さないのがとてもすごいと思っているのかもしれない。
体がポカポカしてきたときに隣に母さんが座って、ココアを飲み始めているのが見えたの。
今年から来年にかけては例年より寒くなるという予報が聞こえてきた。
来月からは学校指定のダッフルコートを着ていこうと考えていたときだった。
「
「え、なんでわかるの?」
いきなりすぎてびっくりしてしまったんだ。
わたしは何度も聞かれて当てられているので慣れたけど、最初の頃は初めてだったような感じだった。
「美琴の表情を見てればわかるよ。あの写真スタジオのカメラマンだった人でしょ?」
奏さんのことを知っているのか、とてもドキドキしてしまう。
「それ、言わないでよ。父さんには……」
「言わないよ。逆に言ったらショック受けちゃう」
父さんはたぶん恋愛系に関しては聞きに来ないので、まだそんなことを聞きたくないみたいだった。
母さんと二人きりのときには恋バナとかしていることが多い。
「あの人、とてもいい人だよ。美琴の恋を応援するから」
なんとなく母さんは気づいていると思う。
新しい恋に進みたいけど、進むのが怖いってこと。
「うん。でも、少しだけ怖いなって思ってる」
「そうね……あのときはとても辛そうだったもんね」
母さんも知っているけど紘一と別れたときが一番暗かった。
もうあれから半年以上が経っているし、下手すれば年が明けたら一年になる。
わたしはあんまり引きずりすぎなのかなと考えてしまうこともある。
「そうよね。うちもそうだったよ、高校生のときにつきあってた彼氏と別れたときはきつかったな……そのあとに冬樹さんが声をかけてくれたんだ」
少し前の自分と似ているような感じで既視感が強かった。
でも、奏さんとは知り合いだったし、それが少しだけ異なるかもしれない。
母さんが元カレと別れてしばらく落ち込んでいたとき、大学の同級生だった父さんが声をかけてくれたという。
「そうなんだ。父さんって、確か」
「うん。同級生だけど、年齢は一つ上なの」
そうだった、父さんは高校卒業して大学に通い始めた直後に交通事故で大けがを負って、大学もリハビリのために一年休学していたのを思い出した。
もしかしたら後遺症が残るかもしれないと言われていたけど、後遺症は奇跡的に残らなかったという。
大学は前期の授業しか通えてないまま休学したんだと思う。
「でも、父さんは優しく聞いてくれて、それが好きになっちゃったんだよね。それに趣味は違ったけどお互いに映画を勧めてくれたりして」
父さんたちの共通の趣味はたぶん映画だけだと思っている。子どもの頃から金曜日の夜はテレビで必ず見ていたし、アニメや実写、国内外の作品は関係なく見ていた。
いまは録画してあとで見る感じになっているけど、映画が公開されたら映画館で見に行ったりしている。
母さんの話している姿は恋バナをしている女子で、年齢は全く関係ないんだと思った。
こういった話はあまり父さんがいるところではできない、女子同士の話だからかもしれない。
ココアを飲み干した母さんは二杯目のココアを入れるため、キッチンの方に向かうのが見えた。
「でも、意外だな……父さんと母さんって。学部は同じでも学科が違うんだよね?」
父さんは文学部の文芸学科、母さんは国際コミュニケーション学科にいたってことは知ってたけど、全然接点がない感じに見える。
「それで……母さんはそのとき、好きだったの?」
「全く好きではなかったけど……友人として一緒にいたいって感じだったけど、告白されてからだんだん意識したかな」
意外なのは母さんから告白しそうな感じだったけど、父さんから告白したことだった。
あまり告白するのとか苦手なタイプかと思ってた。
「へえ……意外だな。父さんから告白されたのって」
「そうかな? 意外と大事なときほど決断が早いんだよね」
そう話した母さんは苦笑いで二杯目のココアを飲んでいた。
「でも、プロポーズされたときは泣いたよ。帰り際にさりげなく言われて」
「その話は何回も聞いたよ」
「ごめんね。そろそろ寝た方がいいんじゃない? 明日もテストでしょ?」
「うん。おやすみなさい」
わたしは二階の部屋に入ると、持っていた教科書やノート、ワークたちをサッチェルバッグにしまう。
勉強机に置かれたスマホにメッセージが入っているのが見えて、メッセージの数はいつも来ないで五十件以上来ている。
それはクラスのLINEグループで何があったのか未読のメッセージを見ていく。
メッセージの内容はほとんどが範囲がわからない現代社会のことについての情報交換で何人も範囲を聞いている状態だった。
「マジか……担当、三組だけだしね」
現代社会って寝てる人が多かったし、それは無理はないと思っている。
『現社のノートを取ってる人、写真送って!』
『わかった』
三上さんがノートをの写真を送っているのが見えた。
そのやり取りを見ながら寝落ちして、翌日のテストに挑んだ。
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