第2章 片想い
第6話 写真スタジオ Bougainvillaea
家族写真を撮ると言われたのは十二月まであと二週間になった頃だった。
「え、家族写真を撮る?」
「うん」
「それにしてもいきなり過ぎない? 母さんも知ってたの?」
母さんは年末年始まで出張がないので、最近は週末に父さんと出かけていることが増えた。
会えない分の時間を埋めるような形で、デートをしに行っているみたい。
相変わらず仲が良いなと思ってる。
「最近は撮ってないし、高校生のうちに一枚撮っていなかったからね」
昔は毎年、写真を撮っていたのを思い出した。
小学生の頃は二回、中学は一回ずつ写真スタジオで写真を撮っていたことがあった。
まだ高校の制服を着て写真を撮っていないので、それを写真を撮りに行くことになったのは十七歳になった最初の土曜日になったの。
でも、この日は土曜授業のある日で授業を終えてから写真スタジオで合流する形になった。
少しだけメイクもして髪型はいつも結っているハーフアップに。
少しだけ女子高生らしい感じができたかもしれない。
土曜授業は沖縄の修学旅行についてで、もう部屋割りとか行動するときのグループとかも確定してきている。
修学旅行期間中はずっと
「ホテルってほとんど二人部屋だよね」
「うん。しかも美ら海水族館の近所に、全室オーシャンビューってすごくいい感じだよね」
四泊五日で行くのは沖縄本島の観光地や平和に関することも勉強していくことになっている。
そのための下調べを授業で行うことになっていた。
今日は自由行動の国際通りや首里城の周辺のお店を探し始めていた。
普段ならスマホは帰りまで回収されているけど、いまはそれを調べるために自己管理になっている。
「あ、みんな。ここの雑貨店、かわいくない?」
「かわいいね! それを買いに行っても良いかな?」
「最終日にこれを買いに行こう」
グループは六人くらいのメンバーで仲の良い人たちと話していることが多い子たちだ。
他のグループはみんなスマホでいろいろ調べている。
帰り学活を終えて、みんなそれぞれの場所に向かう。
土曜授業は二時間だけだったので、十時半からもう授業がない状態になっている。
「
「あ、ごめん。今日は家族の用事があるから」
「そっか~、また来週ね」
「うん。またね!」
わたしは靴箱を出てから写真スタジオ「
歩いて五分の場所にあるから走っていくことにしたんだ。
ローファーを履いているからとても走りにくいけど、こうしないと予約時間に間に合わなくなりそうで怖いんだ。
走って到着したけど、一度メイクの確認をしてから両親が来てるか確認を取ることにした。
「あの……予約している
「いえ、まだですね。しばらくこちらでお待ちください」
「はい。わかりました」
わたしは受付の人に確認を頼んでから、それを待つことにしたんだ。
そのときに三人家族の人が来て、お母さんのお腹が大きい。
「あ、よければ。座ってください」
「ありがとうございます。それじゃあ」
そのお母さんに椅子を譲ってから、店の入口の反対側にある椅子に座って待つことにした。
母さんにLINEでメッセージを送ってみると、もう少しで駅に着くみたいだった。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「またね~、お兄ちゃん」
「バイバイ」
「さようなら~」
そのまま手を振って見送る姿を見たのは初めてだった。
戻ってきたときに驚いた表情で固まっているのが見えた。
今日はシンプルなワイシャツに黒いズボン姿で、仕事用の服装だとわかった。
「あ、美琴ちゃん。予約まで三十分くらいあるから待ってて」
「はい! わかりました」
手を振ってからすぐに奥へと戻ってから、何かの準備をしていくようだった。
さっきの三人家族は男の子の七五三を撮影しに来たみたいで、いまから着替えの準備などを行うと話が聞こえてきた。
このお店はどちらかというと家族写真を撮影するような場所のようだった。
子どもの頃、七五三は振袖を着てきれいに髪もメイクもしてもらって、とてもお姫様になったような気持ちでうれしかったんだ。
それを思い出して微笑んでいた。
「美琴! ごめんね、遅くなって」
「母さん、父さん。予約までまだ時間があるみたいだけど」
「うん。もう少しだけ早く着くと思ったから」
父さんも母さんも今日はドレスアップした服装でこちらにやって来た。
順番が来るまで椅子に座って話を始めることにした。
「美琴、修学旅行のときって私服なの?」
「行きと帰りだけ。あとの三日間は私服だからスーツケースは大きめがいいな」
「よし、写真が終わったら下見に行くか」
「うん」
修学旅行は年明けから本格的に準備が始まる。
その準備をしている時間がとても楽しいけど、当日はとても楽しいんだと思っている。
「お待たせしました。瀬倉様。準備が整いましたので、案内させていただきます」
案内してくれたのは奏さんと同い年に見える女性の店員さんだ。
「二階のスタジオで本日は撮影を行います」
二階にはスタジオが何個かあるみたいで、わたしたちは三人しかないから小さな撮影スタジオにやって来た。
「それでは写真撮影を行うのは
その声を聞いて驚いてしまって、思わず驚いてしまった。
そっちを見て奏さんもびっくりしているのが見えた。
彼はわたしの名字も覚えているか微妙だったような感じだった。
「奏さん……」
わたしはドキドキして小さな声で名前しか言えなかった。
母さんには聞こえてしまったのかもしれない。
「よろしくお願いします」
父さんが奏さんに挨拶をして、写真撮影を始めることにした。
「それじゃあ。お二人はソファに座る感じで良いのかもしれません」
「はい、じゃあ。美紅さんと美琴はソファに」
わたしは三人がけのソファに母さんと座ってみた。
母さんは珍しくスカートタイプのスーツを着ているけど、とてもきれいで将来はこうなりたいと思っているのは内緒だけど。
「それでは写真を撮ります。みなさん、笑顔で!」
カウントダウンをしていると奏さんの表情は笑顔になって、シャッターを切るときは真剣な表情をしていた。
シャッターの音とフラッシュが一気にやって来て、目を細めてしまったんだ。
「それじゃあ、もう二枚撮ります」
「はい」
「笑顔を忘れないでください!」
そのことを言われると笑ってしまう。
わたしは奏さんの仕事している姿が見れて良かったなと思っている。
「美琴。また写真を撮るよ」
「うん! わかってる。お昼はレストランで食べたい」
「はいはい。わかったよ」
会話をしてからカメラの方を向く。
奏さんはそれを見逃さずにシャッターを切っているのが見えた。
それでもずっとドキドキしたままで、写真撮影は終わってしまった。
奏さんを意識してることは誰にも言えていない。
「それでは今日の撮影はここまでになります」
「ありがとうございました。ちょっと電話をしてきますので」
両親は撮影をしてからすぐにスマホに電話がかかってきたみたいで、すぐに撮影していたスタジオから離れてしまったんだ。
「え、父さんたち。珍しいな」
少しだけの間、奏さんと二人きりになってしまったんだ。
カメラを片づけている奏さんの顔はとても真剣だった。
「あの、奏さん。今日はありがとうございました」
「美琴ちゃん、びっくりしたよ。瀬倉って名字なんだね、父方のいとこなら高宮先輩と同じかと思ってたよ」
「はい。結婚後は父は母の名字になっているので」
「そうなんだ。でも、いい写真が撮れたよ。来月、一緒にどこかに行かない?」
「はい。詳しいことは……あとででいいですよ」
奏さんはうなずいてすぐに家を帰らないといけない。
そのまま店を出ることにした。
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