Restart

須川  庚

プロローグ

美琴みこと、別れよう」



 中学のときからつきあっている紘一こういちから伝えられたのは高校二年生になる春休みだった。

 まだ春とは言えないくらい寒い日で、耳がジンジンと痛いくらいだった。


 わたしはショックを受けてしまって、言葉が出てこなくて言えなかった。

 もう視界がにじんできて、うつむいて紘一に見せないようにしていた。


 彼とは高校が別々になって距離が離れていたし、お互いにそうした方がいいのかもしれない。



「うん。いままで、ありがとう」



 ようやくそれを言って反対方向へと帰っていくのに、涙が全然止まらくなってうずくまってしまった。


 心がとても痛い、経験したことがない。


 失恋なんて何回かしていたけど……こんなにつらい失恋は初めてだった。


 それから半年が経って、わたしは高校二年生になっていた。

 でも、まだあの失恋から立ち直れずに引きずっていたんだ。



 それから夏がやってきて親戚の話よりもセミの大合唱の方が聞いていてマシだ。


「美琴、今度の日曜日。俺の友だちが会いたがってる」

「え? 誰?」


 父方のいとこの和真かずま兄ちゃんは二十六歳で、会社員をしながらときどき高校時代の軽音部のメンバーでライブをしている。


 今日は父方の親戚が法事で集まっていて、半袖のワイシャツに黒い夏用のズボンだ。さっきまでは夏用の黒いジャケットを着ていたのを脱いでいるみたいだった。


 わたしはまだ着替えてなくて、高校の制服のままだった。


「あの……俺が通っていた中高一貫だから三つ下の後輩で、同じバンドを組んでて。白濱しらはまかなでって覚えてる?」

「うん。覚えてる」


 白濱奏さんは和真兄ちゃんが高校生のときにおじいちゃん家に遊びに来ていた人がいたと思い出した。


 小柄でいつも年の近い男の子たちとゲームで白熱した戦いをしていたのを思い出した。


「ああ、思い出した。最近、元気にしてるのかな? 和真兄ちゃんが高校を卒業してから来てなかったし」

「確かに……いまはどっかの写真スタジオでカメラマンをしてるよ。デジタル系の専門学校を卒業して就職したって」

「そうなんだ……今度の日曜日ね。わかった」


 わたしはすぐにスマホに予定を書き込んでいく。


「どこで待ち合わせすればいいの?」

「え、えっと……あ、渋谷のハチ公前」

「わかった」


 それで和真兄ちゃんと話すことが無くなって、すぐにスマホで聞いている曲を聞き始めた。


 最近聞いているのはもっぱら失恋系の曲とかが多いかもしれない、あと紘一が好きだって言っていた曲とかも入っている。


 それで泣いてしまうことがときどきある。

 まだ引きずっている自分がちょっとだけ嫌になってきた。

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