第12話 奏さんの気持ち

 十二月も終わりになって来た。

 日菜ひなとカラオケに行ってのどを壊しながら、話していることが多かった。


 大掃除を終わらせて両親は年末の買い出しとかに行っている。

 冬休みの課題はもう終わらせて、ゆっくりとしていることが多い。


 そんな日に自分の恋に進展があったんだ。



 今日はかなでさんと一緒に高校の最寄で新しい美術館があって、そこで行われていた作品展が開かれているのが見えた。


 会うのはクリスマスイブ以来になる。


 この美術展は近所の小中学校や都立高校、私立は風嶺館ふうれいかん結城ゆうき女学院、近所にある有名な美大の学生の作品が置かれてあったんだ。


 選択科目で美術を選択している子のなかで選ばれた子もいて、制作過程を見たことのある作品もあった。

 とてもきれいでそのなかにきれいな絵が描かれてあって、結城女学院の生徒の作品もあった。

 そこには美術部の花田さんの絵が飾られていて、入賞をした作品だったんだ。


「きれいだね……奏さん」

「うん。油絵っていうんだよね」

「そうですね」


 奏さんは美術館に行くのは好きみたいだった。


「これ、結城の美術部だね」


 そのことが多くなっていて、自分のことが楽しいみたいだった。

 彼の瞳はとてもキラキラしていて、まるでおもちゃを見る子どものような表情をしているのが見えた。



「そろそろ閉館時間になるね」

「はい。そうですね」


 わたしはかなり緊張しているのがわかった。

 コツコツとショートブーツがコンクリートを鳴らす。

 そのなかで新しいことを話しているのが見えていたんだ。


「これから時間ってあるかな?」


 近くで話をしようとしていたけど、やっぱりドキッとしてしまう。


「は、はい」

「緊張しなくていいよ。少し歩く? 話したいことがあるし」

「はい」


 わたしが変に意識しているからかもしれない。

 奏さんは普段とあまり変わらない感じで、今日は駅の方を離れて国営公園の方へ歩いていく。


「あの奏さん……」

「ん? どうしたの」


 何を聞こうか忘れてしまって、首を横に振って黙ってしまった。


「え、えっと……その」


 わたしはそのときに奏さんの方を見た。

 いつものメガネ姿も今日は別人のような感じがした。


 最近感じていた気持ちがどんどん大きくなっている。


「なんでもないです。話したいこと、忘れちゃいました」

「わかる。言うこと、忘れちゃうやつ」



 奏さんが立ち止まって、人気がなくて誰にも見つからないような場所へやってきた。

 ほんとに周りには誰もいないような場所で少し不安になるくらいに人気がない。


「この辺で良いかな?」


 なんとなくドキッとしていたのがさらに感じているのがわかった。

 少し奏さんも顔を赤くしているのが見えて、少しハッとした。


「はい、大丈夫です」

「今日……あのときの返事をしても良いかな?」

「えっ、あの」


 自分の顔が熱くなって、手が震えてきた。

 ちょっと返事を聞くのが怖くて、耳をふさぎそうになる。


 そのときに手を握ってくれたから怖さが小さくなっていた。

 顔を上げると奏さんが優しく笑っていた。


「奏さん……」



美琴みことちゃんのことが好き」



 心臓が一瞬止まりそうになったかもしれない。

 そのときにうれしかったけど、さっき聞きたかったことを話すことにした。


「奏さん。でも、友だちでいてって……それがショックで」


 奏さんはハッとして顔を赤くしているのが見えた。


 あのとき、なんで言ったのか気になったの。


「それは、ほんとはまだ友だちでいた方がいいって思ったけど……好きだってさすがに言いにくかったんだ。年の差もあるし」

「はい」


 年の差とかで奏さんも悩んでいたのかもしれない。

 わたしは心が軽くなったと思った。

 でも、彼の手が震えているのが見えた。


「怖かったんだ。好きだって言うのを」


 それを言った声はかすかに震えてて、とてもか細かった。

 泣きそうな声だったのに気がついたときは、握られていた手を握り返していたんだ。


「美琴ちゃんとはタイプは違うけど、いつの間にか自分から好きって言えなかった。言ったら、離れていくかもしれないって」


 似たような傷を抱えていたのかもしれない。


「だから、友だちでいてって、言ったんですね」

「うん。ごめんね、誤解させて」

「いいんです。もうわかりましたから」

「ありがとう、美琴ちゃん」


 奏さんは笑顔になっていてホッとできた。

 寒い冬の風が強く吹きつけてきて、体がぎゅっとなってしまう。


 自然と繋いでいた手はとても温かくて、心がとてもホッとしたんだ。

 奏さんがこっちを見て少し緊張していることがあったのだ。


「美琴ちゃん、ぎゅってしてもいい?」


 まだ手を握っているけど、少し顔を赤くしている。


「いいですよ」

「意外と即答だね」


 返事すると奏さんの笑い声が聞こえてからそっと抱きしめてくれた。

 好きな人にこんなことをされたのは初めてだから、とても心臓がうるさくなっている。


「好きって、ようやく言えた……」


 奏さんの声は少し本気な感じで聞こえて、さらにドキドキした。


「美琴ちゃん、今日は帰ろう」


 体が離れてから再び手を繋いでくれた。


「はい……今日はありがとうございます」

「いいよ、これからよろしくね」


 奏さんは優しい笑顔で話してくれた。

 でも、いつもよりうれしくて優しい声だった。


「美琴ちゃん、またね」


 駅の改札を入ると、奏さんの後ろ姿が見えた。



 わたしは家に帰ると、父さんと母さんが笑顔で何かを話しているのが見えた。

 母さんが玄関に入ってから見ているけど、とても楽しそうに話していることが多くなったんだ。


「おかえりなさい、美琴」

「うん、ただいま」


 キッチンで父さんが何かを作っているのが見えた。

 今日は和食を作っているみたいで、たくさんのことがあったんだと思っているようだった。


 キッチンにあったのはレシピは「チキン南蛮」と書かれてあったんだ。

 わたしがとても大好きな食べ物だったんだ。


「美琴、今日は何かいいことがあったのかな」

「うん。ちょっとね!」


 そう言うと父さんも気になっているのがわかった。


「そうなんだ。聞かせてよ」

「内緒!」


 そう言ってわたしは階段を駆け上がって、自分の部屋に入ってベッドにダイブするように寝転んだ。


「夢じゃないよね……」


 夢なら覚めてほしくないって思っていたけど、自分の頬を思いきり叩いたけど痛いから現実なんだと実感できた。

 そのなかで心臓がドキドキしていたんだけど、しばらくしてからだんだんと落ち着いてきた。





「美琴~、ご飯よ」

「わかった! 待ってて」


 ベッドから下りて一階のリビングへと向かう。

 今日の夕飯は自分が好きなメニューでとてもおいしそうだった。


 あと数日で年が明け、新しい年が始まる。



 来年はとてもいい一年になればいいな。

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