第14話 初雪
「
冷えて雨がかなり降っているし、耳がジーンと痛くなってきた。
マフラーに普段着ている学校指定のダッフルコートではなく、紺色のジャンバーを着ている。
電車に揺られているときに体育の授業で練習しているダンスの曲を聞いていた。
体育ではダンス部のメンバーとのグループで、陰口を言われながらも振付の練習をしていた。
もうほぼ覚えていてあとは自分が曲を聞きながら踊れるようにしたかった。
だいたいはお手本を踊っている動画を確認しながら家の庭とか、駐車場の空きスペースを使って踊ったりしていた。
発表は二月の上旬、後期期末テストの前でグループごとに選曲したもので踊ることになっている。
メンバーは最悪な感じだけど、楽しく踊ればいいかなと思っていた。
今日は
「はい、明けましておめでとうございます」
「あ、そうだったね。今年もよろしくお願いします。フフッ」
照れくさそうに話しているのが少しかわいく見えた。
新年になってからと会うことができていなかったので、会えたのは成人式の翌週だった。
仕事が年始から成人式の頃が繁忙期だったのもあって、LINEではやり取りのみになっていたんだ。
何となく気持ちが変化しているのがわかった。
「奏さんと会うの、とても楽しみにしていました」
「うん、俺もだよ」
奏さんもなんか嬉しそうな表情で話しているのが見えた。
両想いにはなれたけどあまり進展はない。
ほんとはつきあってほしいと言いたいけど、タイミングがわからない。
でも、直接言うのも難しいのかもしれないから、これからのことが気になっているのがわかる。
バス停に行くと駅前でショッピングモール行のバスに乗っていくことになった。
「これからどこに行くんですか?」
「ショッピングモール。俺のいつも行ってるところ」
バスにはカップルや親子連れがとても多い。
意外と若い人が多いのでショッピングモールの店の客層が若いのかもしれない。
駅からバスに揺られて十五分、一緒に向かったのは大きなショッピングモールに着いた。
「ここに来るのは初めて?」
「はい! 普段はららぽーとに行くので、こっちは初めてです」
自分がいつも行くショッピングモールとは違って、明るい雰囲気でとてもきれいな館内をしている。
奏さんは大きな話をしているのが見えて、一階からお店に行くことにしていた。
一緒にやって来たのはわたしがよく服を買う店があったので、そこで少し見ることにしたんだ。
「奏さんは服ってどこに買うんですか? いつもおしゃれで気になって」
「俺? そうだな……ここだったり、古着屋に行ったりしてるよ。大半はここで買うことが多いね。美琴ちゃんは?」
「ほとんど地元にある店で買うことが多いんです。ブランドものは買わないことが多いし」
コーディネートのアドバイスをしてくれたり、自分が選ばないデザインの服とかを奏さんが選んでくれたりしていたのがとても新鮮だった。
「これなんて、どうかな?」
彼が手に取ったのはネイビーのシャツワンピースだった。
「スカートはあまり好きじゃないでしょ? でも、これならズボンを履いて上着代わりにしていてもいいかも」
「確かに! そうですね、参考にしてみたいです」
最近はバッグとかも売られているのでバイトを頑張っていきたいなと思っている。
そこから奏さんが一緒に向かったのはアクセサリーショップ、そこはとても大人っぽい雰囲気で入るのをためらってしまう。
でも、普段入らないお店にも入っても良いかもしれない。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」
店に入って店員さんがそう話してから、レジに戻っていくことが多かった。
わたしはいろんなアクセサリーを見ることにした。
アクセサリーショップだけど男女兼用のものしか置かれていないのが特徴だった。
「きれい。ここのアクセサリー」
「そうだね。ここはシンプルで着けやすいからね、美琴ちゃんはどれが好み?」
アクセサリーのなかでわたしはイヤリングのコーナーで青い花がデザインされたものを手に取ってみたけど、自分が似合う色とかがわかっていないので少し悩んでいた。
まだ自分には似合わないと思っているから、すぐにそのイヤリングを戻して他のアクセサリーを見ていく。
そのなかでシルバーの指輪が視界に入って、しばらくそれをじっと見つめていたの。
その指輪はとても曲線が重なったようなデザインで、シンプルでもきれいなデザインがとても好きなんだ。
「美琴ちゃん、そろそろ外に行ってみない?」
「外ですか?」
「うん。いま雪が降ってるって! 初雪じゃないかな?」
子どものように奏さんは笑顔でわたしの手を引いてショッピングモールの入口を出た。
冷気で体を震わせたけど、そこは真っ白な雪が空から降ってくるのが見えた。
「わあ……きれい」
最後に雪を見たのは中学三年の受験が終わった頃だったと思う。
あの頃とは違うような気持ちで見られるのがわかった。
わたしが雪を見ていたけど奏さん同じ表情をしていて、ちょっと間をおいて思わず笑ってしまったんだ。
「フフッ、ハハハ。美琴ちゃん、同じ顔をしてたから」
「うん。びっくりした~」
じわじわと笑いが起きて、しばらくは収まらなかった。
深呼吸してようやく笑いが収まってから奏さんは、わたしの手を握って真剣な表情をしている。
「美琴ちゃん、俺の彼女になってください」
「はい! お願いします、奏さん」
答えると同時に手を握り返していた。
ショッピングモールのレストランでご飯を食べてから、奏さんが駅まで送ってもらえることになった。
雪はかなり降っていて駐車場には雪がうっすらと積もっている。
「こんなに降ってるなら電車、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。美琴ちゃん。俺も一緒に行くよ」
「ありがとう。奏さん」
わたしは使い捨てカイロの一つを彼に手渡した。
「あ、ありがとう。カイロ」
「うん。冷えるので……奏さんも使ってください」
「わかったよ」
奏さんはすぐに使い捨てカイロの袋を破ってすぐに使い始めているから、かなり寒いんだなと思った。
「美琴ちゃん。しばらく手を繋いでもいいかな?」
「うん。いいよ」
そっと奏さんの手が自分の手を包み込んで、とても冷たくなっているのに気がついた。
「奏さん、寒かったんですか?」
「うん……予想気温で油断してたよ。こんなに雪が降るとは思っていなかったし」
「そうだったんだ。でも、寒くて体調を崩すこともあるので、気をつけて」
「はい」
ちょうどバスが来て、奏さんはすぐに手を離してしまった。
わたしはちょっと残念な気持ちが起きていたときに、バスから降りて来た人を見て起きたんだ。
心臓が凍りそうになったけど思わずバスに乗った。
「美琴ちゃん、大丈夫?」
「はい」
それは
彼女は高一のときにダンス部で陰口を言われたり、グループで無視されたりしていることが多かった。
そのときに大野さんがにやりと笑ったのがとても怖かった。
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