第24話

子どもたちが慌ただしく出て行った後、確かに後片付けをしたのは父親であるアキである。

手にはブリキの樽に吸引機械やゴミを貯める袋を設置したいわゆる『真空掃除機』を持ち、子供たちが使った布団のシーツは剥がして、ベランダに続く大きな窓をすべて開け放ってマットレスを立てて干す。

食べ終わったまま洗わずにシンクに入れられていた食器と共に、まだコンロ部分に置かれた鍋も一緒に隠し扉の中にある食洗器に放り込み、床部分に隠してあったコンセントをプッシュアップして掃除機をかけた。

「テレビゲームぐらいは作れるかもしれないけどさぁ~。やっぱり子供はアナログで遊ぶのが一番いいと思うんだよね、僕は~」

アキは独り言のように、掃除機をかけていても怖がらずに足元に纏わりつくヴィーシャに話しかけた。



今日はデラとグラは昼までしか教室にいない。

午後からは家に帰って宿の仕事を手伝う──それがヒロトの家に泊まるための条件だった。

チャムシィはきょうだいが多く、ヒロトはひとりっ子ながらも特に親の手伝いを強制されないため、いつも通り勉強の後は畑仕事をやるのだが、それがデラは気に入らない。

「あーあ……本当に、家出して魔術師試験受けに行っちまおうかなぁー……」

魔術師になるための学校がないわけではないが、それは王都や領主の本邸がある都だけのため、こんなちっぽけな職人たちばかりの町には、国家資格でもある魔術師になる試験を受けられる機関はない。

そこに行くとしてもまだ子どもであるデラがひとりで行くどころか町を出ることも難しく、ましてや宿屋の跡取りとして聞く耳を持たないデラたちの父親は、長男の独り立ちを認めもしないだろう。

「う~ん……でも、それはまだ早いって、ルネも許してないんだろう?」

「うん……師匠があと三年修行して、十六歳になったらこっそり連れて行ってくれるって……でも、親父は親父で俺が十五歳になったら見合いさせるって、この間母ちゃんと話してたんだ」

「え……み、見合い?」

いくらなんでも早すぎでは──とヒロトは口に出そうとして、ここが現代日本ではないことを思い出す。

ここが地球かどうかもわからないが、とにかく日本を含む世界では先進国では特に『生まれる前から結婚相手が決められている』ということは今でこそ少ないが、ヒロトの曽祖父とかその上の世代ぐらいでは女性は十代で見合いをして、二十代半ばでは『行き遅れ』と揶揄されたらしい。

歴史の授業で戦国時代に興味が出て調べたら、小学三年生ぐらいの年齢で結婚、六年生の年齢で出産という驚愕的な事実を知ったり、テレビで後進国の八歳とか十二歳の少女が自分の祖父と変わらない年齢のオッサンと無理やり結婚させられることを止めさせようという啓蒙CMが流されてもいた。

それを思えば十五歳でお見合いするっていうのはまだ良心的というか、アリなのかもしれない──

「……でもなー。それが『宿屋存続のため』って、別にデラのためにわけじゃないのがなー……」

「うん。俺だって、まだケッコンとか考えられねーよ。仕方ねぇけど……」


そう。

仕方ない。


この世界では、子供は親の『所有物』でしかないのだ。



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