第22話

グラは動物が好きだ。

馬や牛などの大きい動物から、ネズミみたいな小さな動物まで、動いて遊んでくれるのならば何でも好きという。

「まあ……それでも肉食系猛獣のお食事シーンとかリアルで見ちゃえば、ちょっと気持ち的に引く……引く、か?」

現代日本では、猛獣は大抵動物園の檻の中か、逆に人間が檻や鉄板で頑丈に囲われた自動車の中から安全に見られるし、ましてやお食事風景も排泄時もなるべくお客さんの目に触れないように行われるというせいか、ヒロトの記憶の中では『これが自然の厳しさである…』という感じのナレーション付きでテレビ番組を見た記憶しかない。

一応猫や犬などは肉食動物であるし、それこそ繁殖するのに制限をかけようという知識がある世界ではないので野良も多くいるため、そう言う意味ではグラも動物が可愛いだけの生き物ではないと知っているはずだ。

それでもやっぱり──

「かーわーいい───!!」

大きさ的にはあまり変わりないロバートにグラがひしっと抱きつく姿は、ヒロトにしてみれば可愛さ2乗の光景である。

宿屋という職業上、乳牛ならともかく犬や猫は可愛がりたいからと飼うわけにはいかず、きちんと防犯や鼠を捕獲するなどお役目を果たすことを期待されるし、躾にも時間がかかるとあれば、兄弟の継承権に優劣を付けたり希望を聞かないような頑固な父親らしいから、きっとグラが欲しがる小動物は無駄飯食いだと決めつけ、話を聞くことなく切って捨てたのかもしれない。

「うむ!今日はロバートがグラの一日お供だ!一緒に遊ぶがよい!!」

兄のデラは嫌々仕事を手伝わされているが、グラはまだ小さくて役に立たないと放り出されて不貞腐れていたので、ヒロトは森への遠征へと回収することにした。

次いでデラとの秘密の通信場所に、夕方になったらヒロトの家にチャムシィと一緒に泊まりに来るようにと書いたメモ紙を置いていく。

どうせ教室は明日なので、皆で一緒に行くからと言えば抜け出して来れるはずだった。



ヒロトの家の不思議さには慣れっこになってしまったチャムシィ、デラ、グラと共に、ヒロトは父が作ったロッジにある大浴場ではしゃいでいる。

見た目は普通に丸太を切って組み上げた物だが、中は普通の日本の一軒家と遜色がない。

電線やら衛星やらがないせいで、テレビやラジオといった機械的娯楽はないが、代わりに本やボードゲームやカード物などは文字通り『売るほど』あるのだ。

特にカードゲームは日本アニメのキャラクターに酷似している物もあるが、ルネの故郷フランスで流通している物など、大人ふたりが「最初から作れるなんて!」と大喜びしながら作りまくった力作ぞろいである。

「ふん…ふん…これが役で……マジでこんなの、他に無いもんなぁ!」

それはそうだろう。

「あああ!これ!ようやく領都に入荷した本だって、あほリーチスが自慢してたやつじゃん!!どうしたんだよ?これ!!」

簡単な話、ルネが縮地の魔法で行って買って帰ってきたというだけのことだ。

「はあぁぁぁぁ……僕、ここでロバートと一緒に住みたい……」

可愛すぎるけど、デラが出て行っちゃったら跡取りがいなくなるから、それは諦めて。


某キャラクターのカードゲームの攻略方法を父が手書きで作った本で確かめながらひとり遊びをしているデラや、実は本好きで情報が早いチャムシィと、すっかりロバートの首にかじりついたままのグラにそれぞれ心の中でツッコみながら、ヒロトは思い思いに広いリビングで寛いでいる仲間を微笑ましく見ている。

今現在の年齢はともかく、転生前は15歳か16歳で、しかも日本の義務教育を終えた『お兄さん』なのだ。

気持ちとしては映画やアニメを見たいなぁとは思うが、無い物は仕方ないので、いわゆる冒険小説などで活字欲を満たしたり、ペットや友達と外で遊ぶということでもう一度子供時代を満喫している。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る