第21話

自分にはひょっとしたら予知能力があるのかも──


そう思ったのは、きっと近い将来、ルネから魔力や魔法のことを学んだデラが、きっとその力を使って無理やりにでも領都に向かって飛んでいく夢を見たからである。

寝起きで重たい頭に残る残滓を繰り返し思い出すと、デラの代わりにグラが宿屋を継ぐと言っているのに、父親は何故かそれを承知せずに不貞腐れて、宿屋は廃る寸前まで行ってしまう結末まで理解した。

「……正夢になったら、俺は『予知夢師』の看板でもあげるかな……」

実際そんな仕事があるのか知らないが、何かそんな感じの不思議道具もあった気がする。

実際にマンガを手に取ったり、DVDでもあれば再生して確認できるのになぁ~…とのんきに考えながら、のそのそと朝の身支度をした。



教室は2日に1度。

農作物の刈り入れや森に出て獲物を狩る秋の繁忙期には、さらに勉強時間が減って3日に1度になる。

ヒロト自身はまったく関係ないが、だいたいその時期にはアクセサリーに興味は無くとも、切れ味鋭い鎌や解体用ナイフ、煮たり焼いたり洗ったりと1個で何役にも役に立つ頑丈で大きい鍋の注文が入った。

職人は父だけのはずなのに──タイマーやら錘やらでちょっとした『機械』的な物を作り、それらを補助作業に充てて──ひとりで作る父の道具はなかなか評判がいいのである。

「なんかおかしいって、誰か思おうぜ……」

ブツブツとヒロトは文句を言いながらキッチンへ入っていくが、実はこの世界には『鍛冶の神の生まれ変わり』だの『剣の申し子』だの、伝説級の先人がけっこういたため、父であるカイトゥ・アキもそういった人間だと思われていることを知らなかった。

そんなわけで、当たり前のようにヒロトもその後を継ぐべく修業し、将来が楽しみだと囁かれていることも知らない。

知っていたとしたら『何故父の仕事を継ぐと、当たり前のように思われているんだ!』と反発しただろうから、知らなくてよかったのだろう。

しかしそういうわけで今日は教室の無い日。

いわゆる休日。

2日に1日休みがやってくる、素晴らしい世界。

同い年のチャムシィやデラは四苦八苦しているが、さすがに高校受験レベルまで勉強が済んでいるヒロトにとっては、家庭学習として出される宿題さえ片付けてしまえばいつでも休めてしまえるので、さっさと昨夜のうちに終わらせてしまっていた。

「今日は何をしようかな~。やっぱり森に行く?行くならチャムシィを誘いたいなぁ……」

普通に畑で採れる野菜だけでなく、森の中に生えているきのこや果物なんかも詳しい。

しかし繁忙期に父が忙しいように町中の店もそれなりに忙しくなってしまい、ヒロトが暇を持て余すのとは逆に、年頃になればなるほど子供であっても『遊びに行きたい』というのは難しいのだ。

「……と、なると。グラを連れて行くしかないか……」

何故かわからないが、ヒロトは街の子供たちに苦手意識があり、仲良くできるのはデラとグラの兄弟、そして八百屋の息子のチャムシィだけである。

チャムシィの兄弟姉妹ですら近付きたいと思わず、教室への待ち合わせも店の横で隠れるようにして会っているぐらいだ。

だがそうと決まれば──

「よし!今日は一緒に行くぞ!ロバート!」

さすがに猫のヴィーシャはキャリーバッグに入れないと連れて行けないから、とりあえず一緒に走ってくれる犬のロバートをお供に、ヒロトは宿屋へと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る