第29話

チャムシィの家業は飲食街の真ん中にあるが、職人街からも行きやすい中通りに面している、かなり大きな八百屋だ。

あまり大きくない町だから、他の八百屋は特定の野菜で定番から珍しい品種を選んで旬ごとに並べる特化型として存在している。

果物屋も同じように満遍なく揃える店と、特化型て得意な物だけを扱う店という風に共存しているのだが──

「あんまり他人と仲良く……っていうか、思いやりとか謙遜とかないんだよね、うちの父ちゃん。『うちの店が良い物使えば、他に客は行かないはずだ!だから他の店の仕入れ先を奪ってこい!』って喧嘩売るようなことするからさぁ……」

「まぁ……販売競争は発展の源だけど、それはもっと大きい市とか都とかじゃないと……それじゃ他人が生きる術をなくすし、恨みを買うどころか一族ごと出てってしまうんじゃ……?」

「ああ。そうして空いた土地を買い取って、新しい畑をうちが作って、ついでに珍しい品種を育てたら、もっと他の店より儲かる!……みたいな?いい加減にしてほしいよ……」

一応チャムシィは長男だが、下にはまだ3人の弟と2人の妹たちがいる。

その子たちが暴力沙汰に遭わないようにと、商売仲間・・・・を刺激しないようにと忠告しているのに、父親の方は商売敵・・・をやっつけて何が悪いと言い返してきたという。

職人街でも持ちつ持たれつと、商売敵問題はなかなか難しいらしい。

ヒロトの父であるアキは、職人街では若い部類だが腕がいいと評判は上々だが、店をほぼ街のはずれに構えているという不便さを持って敵意を逸らしている部分がある。

しかも職人が得意とする物はそれこそ千差万別と、お客様の好みの合致や必要になる時がまちまちということもあり、日々の生活に関わる飲食街よりもそんなに熾烈ではないのだ。

比べる方が悪いとは思うが、やはりなるべく『みんな仲良く』と思うのは、子供としては当然の願いでもある。


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