第30話

だんだんとデラが教室にいる時間が長くなった。

グラも何やらニコニコ──いや、ニヤニヤしてひとりで教室を後にする。

その理由をふたりともなかなか語らず、ヒロトやチャムシィが何度尋ねても「ま、そのうちに」としか言わない。

そして何故か宿屋の主人であるデラとグラの父親も機嫌がいいらしい。

ルネも何か知っているようだが、こちらはこちらで大人の余裕をかましてヒロトの問い詰めなど相手にもしてくれないので、もう口を割ってくれないとあきらめた。



「……デラ?何読んでるの?」

何やらニヤつきながらデラがハート型の紙を見ているのを見つけ、ヒロトが声を掛ける。

「ゥヒィッ!!」

奇妙な叫び声を上げ、デラがバッと顔を赤らめて紙を胸に押しつけた。

「ハート…じゃない?羽根?鳥?」

「え……?こ、これの形、ヒロト、何で知って……?」

「うん?それ、メッセージカードだろう?誰から……だぁ~~~?」

ハートに見えるメッセージカード。

ふわりと微かに匂う香水。

赤くなったデラ。

その意味するところは──

「いっ……言うなよっ?!」

「え?うん……言わないけど……『言わない』って、誰に?」

「お……俺んちの、父ちゃん…に……」

コソコソとデラが囁き、スッと見せてくれる。

見たことのある文字──アルファベットによく似ているが、ほんのわずかに違う文字。

「これ……フランス語?」

「ふら……っていうか、師匠は『en français』って言ってたけど……同じもの?」

デラの発音がネイティブすぎて、ヒロトの耳には『アン・フォセ』としか聞こえないが、たぶん『フランス語』で間違っていないはずだと思い、黙って頷いた。

おそらくはこの世界で他に転生者はいないか、めったに会わないものだとして『秘密のやり取り』に使う暗号のようなものとして教えていたのだろう。

「大丈夫。形的にはルネが使っているものだとわかるけど、俺も読めないから。何が書いてあるかは、マジわかんねぇ」

「マジっ?!」

ちなみにヒロトがつい使ってしまう『マジ』という言葉もこの世界には無い。

これもまた『仲間言葉』のようにヒロト親子とルネ、そして友達関係の四人の中でしか通じないのだ。

「マジ、マジ。だから安心しろ……ってわけにはいかないか。ひょっとしてそれが『そのうち』の理由?」

「……うん」

珍しくデラが照れて、頭を抱えて転がった。

「まだ会ったことはないんだけどさぁ~。師匠の師匠のお孫さんが俺と同い年で……その……王都に行った時に会いませんか……ってぇ……」

そう言いながらデラは大きめの懐中時計をカバンから引っ張り出し、パチンと開けて見せてくれた。



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