第16話

そこからどういう話し合いが行われたのか、ルネが魔法術の特別講師として、デラのために特別授業が組み込まれることになった。

今日はロメウス先生も魔法について知りたいということで、子供たちと先生纏めて適性を調べましょうということになったが──実はヒロトには適性がない。

まだ赤ん坊だったヒロトにルネが魔石を埋めたステッキを持たせたのだがまったく光らず、顔を見合わせた大人ふたりが思いついて『魔法鑑定棒』を新たに作ってしまった。

「まあ……怪我の功名?っていうって。アキが教えてくれたんだけど。ヒロトで叶わなかった『少女魔法戦士に混じる少年魔法戦士』リアルヴァージョンが再現できるかもなんてっ……ヒロト、なんて良い子なんだぁっアン・ジェントル・ギャルソン!!」

最後はフランス語で叫ばれて抱きつかれたが、ヒロトもちょっとしかフランス語ができないし、この世界の住人にとっては未知の言語で叫ぶルネを怖ろし気な目つきで見て一歩下がる。

「……それはともかく」

コホンと咳ばらいをし、ルネは改めて鞄から取り出した棒を振ってみせた。

「これは簡易的ではあるけれど、ボクとヒロトの父親が考案した『魔法鑑定棒』。ボクが握っている部分は反応しない。でも、ここを握ると……」

白・赤・黄・緑・青・茶・黒の七つの色石が強弱をつけて光る。

「一番強いのが赤と緑、逆に弱いのが白と黄色と青、ほとんど光らないのが茶と黒……つまり、ボクは火系と風系の魔法に強みがあり、少しだけ癒しの力や水と光の魔法が使えるが、土魔法や闇魔法にはほとんど適性が見られない。ただしこれは本当に簡易的に調べる物だから、それが攻撃に向くのか防御が得意なのかはわからない」

「へぇ……」

「ちなみに適性がない人もいるんだよ?ね?ヒロト」

にっこり笑われて手招きされたが、自分の不適性を指摘されるのはあまり気持ちの良いものではない。

とはいえ、ひょっとしたら自分以外にも適性がない人が、まだ診断していない四人の中にいたら落ち込んでしまうかもしれないから、まずは『見本』となることも必要だろうとはわかっている。

「はぁ~~……」

溜息をつきながらギュッと判定部分を握ると、ふわっと一瞬だけ白と黄色の石が光って、すぐに消えてしまった。

おそらく成長して少しだけ魔力があると反応したみたいだが、どちらかという生命反応に近いもののような気がする。

「……うん、たぶんね。悲しいけど、ヒロトは冒険者には向いてないね。少なくとも魔法使いとしては」

「体力もそこそこだし」

「うん。けっこうドジだし」

「で、でも!ヒロトは勉強すごいよ!兄ちゃんにも、チャムシィにも、テストの点数で負けないじゃん!!」

「良い子やぁ~」

ルネもデラもチャムシィも容赦がなかったが、唯一グラが庇ってくれる──実は前世の義務教育のおかげだとは口が裂けても言えないが、この世界の十五歳が学ぶべき箇所は小学校三年生ぐらいのレベルなのだ。



次々と魔力判定をすると、思った通りグラがヒロトより少し長く白と黄色の石が光ったがやはり消えてしまい、チャムシィは緑と青の石が少しだけ、そして一番強く茶色の石が光った。

つまりチャムシィは土魔法に適性があり、次いで水と風にも関係のある魔力を持っているということで、ひょっとしたら何か植物を育てて魔力を与えてみることを覚えたらとルネに言われて、顔を明るくする。

魔法使いになりたかったデラは黒と白がやや弱く、茶色の石だけ光らずに他の色がちゃんと光ったことを喜びすぎて、しばらく判定棒を握ったまま跳ねまわった。

が、一番驚いたのはロメウス先生がひときわ強く判定棒を光らせた時である。

白と黒の石が灼けるような強さで光を放ち、他の石たちもすべて光ったのだが、とにかく両端が光りすぎてどれが適正なのかわからないと、今度はルネが興奮しまくってロメウス先生の手をブンブンと大きく振った。

「適性がどうとかじゃない!凄い!!ロメウス!あなたは偉大なる魔法使いになる資質を秘めた人だ!何故、魔法使いにならないの?!《いや!なんてこった!子供たちに闇魔法なんて怖い言葉に惑わされないようにと押さえていたけど、それはまったく不必要だったんだね!》」

途中から早口のフランス語になってしまったため、ロメウス先生どころか、一緒に住んでいるヒロトまでまったくわからなくなってしまったが、バキィッという破砕音でようやくその一人お祭り状態は治まった。

最初にルネが魔力判定棒に流した魔力はかなり抑えていたものらしく、興奮したまま握られた棒はルネの魔力に耐え切れずにすべての魔石が割れてしまったのである。




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