第41話

そしていよいよ臨月なのだが──

「やっぱり自然分娩にするの?」

「えっ……ええ………」

シュー女医は困り切っていた。

初産で双子妊娠で分娩は帝王切開ではなく自然分娩で──命のリスクが高すぎる。

そう思い、イリーナにはあらかじめ分娩は腹を切って子供を取り出すことを説明し、ルネと共に他国の医療技術──実はルネの前世の両親が外科医と産科医だったので、その知識もこっそり取り混ぜて教えたらしい──で産後の面倒を看ることまでを了承していてもらった。

それなのにいきなり出産方法を変えると言われてしまったのである。


確かに王都では出産が厳しいと判断された妊婦が帝王切開出産に切り替えられることはあるが、事前から決まっていたことを変更するということは──


「……親御さんが?反対?ひょっとして」

「…………はい」

ちなみにロメウス先生は帝王切開である方が母体も子供たちも助かる確率が高いと説明され、その根拠も明らかにしたために、ふたり目の子供と妻の命がより保障される方を選んだ。

しかしこの辺りではまだまだ出産は自然に行うもので、妊婦の腹を切って縫うなど、戦争で負った傷の縫合を厭う以上に禁忌とする者が多い。

しかもそれで第一子さえ助かれば、妻や他のきょうだいが出産中に命を落とすことは『しかたない。運命だ』と受け入れることが当たり前など──

「それは、許さない」

「は、はい………?」

「私が何のためにここに来たと思ってるの?!出産って、無傷じゃないのよ?子供を産んだことのある母親ならわかるわよ!どれだけ出血すると思っているの?しかもあなたはひとりを産むだけじゃない……全力でひとり目の赤ん坊を産んだ後に、もうひとり産まないといけないの!単純に出産を2回するっていうんじゃないのよ?娘が死んでもいいから、ひとりだけでも取り上げろって?そんな親なんて立ち会わせたりしないから!!」

「あ…あの……は、反対してるのは……うちの親も……」

そっとロメウス先生も手を上げる。

たった一組ではあるが、ロメウス先生とその弟を自然分娩で産んだ実母が『自分にできたんだから、嫁にもできないはずはない!』とか言っているらしい。

「………バッカかぁぁぁぁぁぁ───っ!!」

「ヒッ、ヒェッ……」

ロメウス先生とイリーナは思わず抱き合ってしまうほど、シュー女医の怒りはすさまじく、こっそり外から聞いていた少年たちは皆ビクッと肩を震わせた。

「あんたの母親はふたりもでっかい子供を産んだ後、三人目と四人目の子供であるあんたたち双子を産んだんでしょ?!しかも二十五でだっけ?!体力もしっかりある方よねぇ?!」

「は…はい……」

ロメウス先生は線が細いが母親はずいぶんがっしりした体つきで、しかも双子を産んだ後ももうふたり女児を産んでいるのだ。

「力仕事も任せてっていうような力持ちの六人の母親と、初めて双子を産むこのお嬢さん……失礼、若奥さんと、おんなじわけが無いでしょうが!多産子出産だけじゃなく、初産でひとりだけしか産まなくても死にかけた妊婦さんもいっぱいいるんだから!……死なせないわよ?『死んで当然』みたいなそんな親の言うことなんて無視するわ!」

「……いや、そこ本当は家族の意思が尊重されるのでは……」

窓の下で座り込みながらボソッとヒロトが呟いたが、ガタンと勢いよくガラス窓は開かれ。

「うっふっふ~。ここは私の院。私の園。私の砦よ!だぁれの指図も受け付けないのよ!覚えておきなさいね?少年たち!」

「ふっ、ふあぁぁぁぁいっ!!」

デラ、グラ、ヒロト、チャムシィの四人はキッチリ直立不動の姿勢で、お行儀良く返事をしたのだった。



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