第8話
「ニホン……アニメ……」
噛みしめるように繰り返すロベルトもどかし気に顔を歪めたが、けっきょく何も思い出すことはできなかった。
それからもルネは様々に自分の記憶の中にある単語を会話に混ぜたが、ロベルトはするりと返答することが多く、無意識下ではちゃんと理解できていると思われる不思議な会話が二人の間では成り立っていた。
そしてロベルトと付き合うことのおまけに、とんでもなく面倒なお荷物まで付いてくることになったのは、驚愕を通り越して呆れるしかない。
何かと理由を付けて──ならば多少可愛げというかいじらしさを感じたかもしれないが、赤毛の生意気なジーン・オルフェイスはまるでロベルトとルネが自分の愛人かのような振る舞いと言動で、ふたりと仲のいい少女たちを脅したり怪我をさせたりしたのである。
まだ成人前の子供だからと父親であるアーティファクト・オルフェイス工房の親方が割って入り、詫びだと言って工房の中でもそこそこいい値段のする髪飾りやブローチを気軽にプレゼントするのを見てからは、娘だけでなくその父親も救いようがないと呆れかえった。
悲しいことに大方の女性はその気前の良さに、多少嫌な目に遭ったことは大目に見ろと、逆に被害者の少女たちを
初めの頃は甘やかしまくりの親方が収めていたジーンの横暴だが、職人の夫人たちが集まる会合で揃ったようにアーティファクト・オルフェイス工房作のブローチなどを付けていることに気が付いたオルフェイス夫人がようやく知るところとなり、勝手に売り物を女性に渡していた──しかもその理由が『次女のジーンが友人であったはずの少女たちに暴言や暴力を振るったお詫び』であるということを知って激怒してからはその受け渡しはなくなった。
しかしこれに懲りてくれればいいものを、味を占めた女性が陰でさらにアクセサリーを強請り、次女の後始末を付けているのだと思い込んだ親方が何度もその要求に応じてしまったため、今度は不倫疑惑にまで騒ぎが発展するという始末。
夫婦間でどのような話し合いが行われたのかはわからないが、けっきょく壊れた家庭はひとつもなかったが、ジーンのお守り係として執着され続けているロベルトが宛がわれることで収められた。
憐れなロベルトを救おうとするかのようにルネがしょっちゅう連れ出したが、三回に一度は必ずジーンが付きまとってきて、それまで何とか思い出してもらおうと使っていた異世界のキーワードも気軽に使うわけにはいかなくなったのが、ロベルトの覚醒を妨げたのかもしれない。
アニソンを歌いまくり、他愛ない話をしているうちに疲れて父親の横に丸くなって眠り込んでしまったヒロトを見て、まだ酔いの足りないルネは溜め息をついた。
「まったく世話の焼ける……でも、本当に息子までこっちに呼んじゃうなんて。おかげでロベ……いや、彰洋センパイが前世を思い出せたのは本当に良かったと思っているんだからね?
気が付けばもう朝で、ルネは布団に包まってマンガを読んでいた。
それは絶対門外不出な『不思議道具』で、父とルネが協力して、魔力と魔石を使いまくって次元を捻じ曲げ、異世界から本を取り出せる袋を作ってしまったのである。
「こればっかりはこの世界に広めるわけにはいかないからねぇ~」
そう言いながら、ルネはこの階はまるごと結界で包み、外からは見えないし、認証確定したアキとヒロト、そしてルネ以外の人間はこの階に辿り着くことすらできないようにしてしまった。
ちなみに半野良猫のヴィーシャや一応用心のために飼っている犬のロバートも認証しているから、今はみんなでぬくぬくと朝寝を決め込んでいる状態である。
「……まったくもう……いつの間にこの部屋に来たんだ……?まあいいか。ほら、ふたりとも朝飯にしよう」
ヒロトが優しく呼びかけたのは、まだ寝ている父や読書中のルネではなく、のろのろと部屋を出ようとするヒロトに寄りそう猫と犬だった。
「ルネは適当にして~。俺はこいつらにご飯食べさせたら店番するから」
「
ヒラヒラと手を振って布団から出ようとしないルネに向かって軽く笑ってから、ヒロトは見えない中二階を見えない扉を使って出ると、そのまま階下へと向かった。
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