第11話

だから今日も自分より少し大きい肉屋の息子であるチャムシィの背に隠れて、キラキラしい母親とチャラチャラしい連れから身を隠す。

どう見てもあれはこの間会った『新しい夫』ではなく、おそらくは祖父の工房からお供と称して連れ出した新入りだと察した。

「……お前の母ちゃん、相変わらずスゲェな」

「うん、わかる。いろんな意味でスゴい。そしてあれが『母ちゃん』という存在であることを抹消したい」

「おいおい~」

背中合わせでもその姿が見えるのは、父であるアキが開発した・・・・『潜望鏡』である。

うまい具合に筒の中に鏡を組み合わせたものだが、ちょっと見にはチャムシィが背中にしょっているリュックから覗く棒にしか見えない。

本当はこれを『地面の中につき通して地中を見れる物』にしたかったらしいが、何かいろいろ魔法的な制約があるらしく、現実化には至っていない。


見てどうするのか──歴史的か地学的発見でもしたいのだろうか。


「えー?!やっぱりロマンでしょっ?!恐竜の骨!アンモナイト!鉱石!地中にだって魅力がたくさん!!」

「だよねっ?だよねっ?!ヒロトにもエスペラツァの恐竜ラ・ディノザゥルとかね……あぁ……この世界って、まだまだ先史時代について研究しようって文明がまださぁ……」

父もルネもはしゃいでいたが、ヒロトにとって『恐竜』はふたりが木を削って造ってくれた玩具のひとつでしかなかったから、いまだその興奮ぐあいにはついていけていない。

「まあ、ここにいても何だし。ロメウス先生がおいでって言ってたから、見つかんないうちに行こうぜ」

「そうだな」

チャムシィもヒロトの産みの母であるジーン・オルフェイスを苦手としているのか、人ごみに紛れるように離れ、子供のお小遣い程度で勉強を見てくれる奇特なロメウス先生の家に向かった。



「よしよし。ちゃんと来たね。さあ、入って入って!」

若すぎず、かといって年寄りすぎもせず、結婚していないのが不思議な好青年であるロメウス先生は、気さくに少年たちを招き入れた。

素早く家の外に視線を走らせたが、それに気が付いたのはヒロトだけである。

部屋には先に入ったチャムシィと後に続いたヒロトの他、2人ほど先客がいた。

「よー!遅かったなぁ!」

「うるせぇ!時間通りだよっ」

「ヒロト、ヒロト、ヒロト、ここ、わかんねぇ、教えてっ」

憎まれ口を叩くのが食糧街でも安くて美味くて量の多い食堂を併設した宿屋の跡取り息子のデラで、ヒロトに纏わりつくのがその4つ下の弟であるグラだった。

「兄貴が『グリ』だったらな~」

「え?」

「んーん。何でもない。で、どこ?」

ヒロトとチャムシィとデラはみんな13歳の同い年だが、ひとり年下のグリに関しては、お兄ちゃんズが勉強を見てやることになっている。

率先してやり始めたのがヒロトだったが、その後の小テストでいつもより良い点を取ったことにロメウス先生が気が付き、『年下に教えることで自分の復習にもなり、教わったことが身につく』という仮定・・をヒロトが話したため、その研究も兼ねてこのシステムになった。

今はその効果の検証中で、いずれは論文にして教育学会に提出するらしい。

自分の中では当たり前だった『縦割り教育』の成果がまだ認識されていない世界──柔軟性のある子供であるとはいえ、ヒロトの脳みそは少し混乱してしまう。

それでも気持ちを落ち着ければ記憶の片隅に残る知識と現在の状況を、あまり差異が無いように、怪訝な顔をされないようにと注意することは、面倒ではあるができないことではなかった。



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